小児神経学の領域においては, CTは今や無視できない検査法の一つとなっている. それは, CTが無侵襲性でかつ多量の情報を得ることができるからである. ところがCTの発展は日進月歩で, CTを専攻しているものでさえその進歩の程度はつかみ難いほどである. そこで本稿においては, 日常CT検査を依頼する立場にある小児科医にとって, 最低限度知っていなければならない程度のCTについての基礎的事がらを, 最近の報告と合わせてまとめてみた.
CTスキャンナーは, イギリスEMI社のHounsfieldによって開発され, 1972年に第一号機が完成した.装置の価格が莫大であるにもかかわらず, その革期的な性能の故にその後の普及はめざましく, 現在少なくとも世界中で18社以上が, 独自の装置の製作・販売をしているといわれている. 日本では日立, 日本電子, 島津, 東芝が製作・販売をしている. 各々の装置は, 発展段階ごとに第一, 二, 三世代と呼ばれている. 第一世代は, せまくしぼったレ線発生装置と1コの検出器の組み合わせより成る装置であり, 第二世代はさらに検出器の数が数コに増やされたものである. これらの装置によるスキャン時間は, おのおの4-5分, 20秒前後である. ところが第三世代となるとレ線は一方向から被写体全体を曝写できるように作られて, それに応ずるように検出器の数も数百コにふやされているため, おのおのの角度からの走査は不要で, 円周運動のみで撮影可能である. そのため撮影時間は2-5秒に短縮されている. ここまでくると, 心臓を除くほとんどの臓器の撮影が可能で, 動きによるartifactも少ないため, 良好な画質がコンスタントに得られる.
CT値についてCT装置は, 長い歴史を持っていないためその規格は一定しておらず, CTの本質とされる“CT値”は各社の好みにまかされて設定されている.しかし原則として, 空気を-100%, 水をO%に設定する点においては一定しているため, 各社のCT値を比率に換算することにより相互の比較が可能である.Normanらによると, 水は0%, CSFは+1%, white matter+3%, gray matter+3.6%, blood 5%, fat-7%である.そこでこれにEMIスキャンナーの場合5の倍数をかけることによりEMI値が得られ, 10をかけるとHouns field Unit, delta Unit, acta Unitが得られる. ところが, 絶対的であるはずの“CT値”は, 実際に測定してみると必ずしも信頼性はないことがわかる. これは当然各社のカタログでも0.3-0.5%前者の誤差はあり得ると発表していることからもわかることである. しかしこれは, 一定の大きさの被写体 (ファントーム) を測定した場合であって, 臨床的には被写体には大小不同があり, そのfactorによるCT値をみると大きい変動があることがわかる. すなわち18cmと16cmのwaterファントーム (beanbag1枚) を測定してみると, 0であるはずの水がそれぞれ2.5, 9.1EMI Unitであった. さらにCTの実際にあたっては, かなりの装置においてbeanbagを被写体に着く必要があるわけであるが, 何枚という規定はない.そこで, 0, 1, 2枚と変えて18cmのwaterファントームを測定すると, それぞれ8.5, 3.0, -3.8であった.このように一定条件 (120kvp) でスキャンしても, 被写体の大きさとか巻き方の違いでCT値は変わるわけであり, 電圧を変えた場合, さらに変動することになる(実験によると21cmのwaterファントームを, 100, 120, 140kvpで測定すると, +14, +1.9, -5.6EMI Unitであった). これを小児科領域にあてはめて考えると, 頭の大きさは大人のそれに比べ著明な差があるため, CT値の信頼性は, 非常に低いということがわかる.
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