脳と発達
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55 巻, 3 号
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巻頭言
特集・第64回日本小児神経学会学術集会
<企画シンポジウム6:難治性小児神経疾患の新生児スクリーニング国内新規導入の現状と課題>
  • 下澤 伸行, 中村 公俊
    2023 年 55 巻 3 号 p. 165-166
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/05
    ジャーナル フリー
  • 齋藤 加代子, 加藤 環, 松尾 真理, 浦野 真理, 池田 有美
    2023 年 55 巻 3 号 p. 167-172
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/05
    ジャーナル フリー

     脊髄性筋萎縮症(SMA)の医療において,3種類の疾患修飾治療薬が用いられるようになり治療と発症予防が可能となり,発症前に治療を受けた児が順調に成長発達している.その背景と疾患重篤性ゆえに新生児マススクリーニング(NBS)を期待するのは必然である.わが国でも,SMAのNBSプログラムへ導入の検討がなされ,一部の自治体や医療機関で開始され,陽性例が10例を超え,その治療が開始されている.NBS検査陽性の児の保護者への情報提供と支援,NBSを意識した診断基準の制定,診療脱落のない体制整備,治療方針決定のためのエビデンス蓄積,そしてレジストリーと長期サーベイランス体制整備が必要と考える.

  • 下澤 伸行
    2023 年 55 巻 3 号 p. 173-177
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/05
    ジャーナル フリー

     X連鎖遺伝形式にて男性で重篤な大脳型をきたす副腎白質ジストロフィー(adrenoleukodystrophy;ALD)は,無治療では発症後数年で寝たきりになることもあるが,発症早期の造血幹細胞移植により予後改善が期待される.そのため米国では男女,オランダでは男児のみを対象に極長鎖脂肪酸の増加を指標にした新生児スクリーニングが行われている.国内でも2021年4月より保護者の同意を得た新生児を対象に愛知県では男女,岐阜県では男児のみに有償での新生児スクリーニングを開始している.その中でALDでは予後の予測が難しいことに加え,スクリーニングの対象性別,検出されたレアバリアントの病的意義の評価,遺伝カウンセリングにおける臨床遺伝専門医に遺伝カウンセラー,臨床心理士も加わったチーム医療の整備,男性患者に対する小児神経,内分泌,移植専門医から成人以降のトランジションも視野にした長期フォローアップ体制の整備など様々な課題が抽出されている.今後,患者会や臨床遺伝,社会医学など幅広い領域での議論を経た上で公費負担も検討されて1人でも多くの患者の予後改善につながることが望まれる

  • 酒井 規夫
    2023 年 55 巻 3 号 p. 178-180
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/05
    ジャーナル フリー

     新生児マススクリーニングの対象疾患は,本来的には診断法が確立しており,新生児期ないし乳児期から必要な標準的な治療法が存在する疾患と言えます.しかしながら,疾患によっては新生児期の未発症の時期において診断ができても,その臨床病型に非常に幅があり,病型によっては根本的な治療法が異なる疾患があります.つまり,新生児期に疾患の診断をつけたとしても,いつ,どのような治療をすることで治療効果が証明されていない疾患については,そのスクリーニングの意義が少ないと考えられます.しかしながら,新生児期,ないし乳児期に発症する疾患で,特に神経症状の急速に進行する疾患にとっては,新生児マススクリーニングが唯一の早期診断,早期治療のチャンスであるとも言えます.そういう意味で海外の限られた地域で実施されていて,まだ国内で拡大新生児マススクリーニング対象疾患としてはあまり含まれていない疾患として,Krabbe病を例にとってその課題と可能性について考えてみたいと思います.

  • 但馬 剛
    2023 年 55 巻 3 号 p. 181-187
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/05
    ジャーナル フリー

     我が国の新生児マススクリーニングは,ガスリー法からタンデムマス法への移行を経て,現在20疾患を対象としているが,新たな検査法や治療法の実用化によって対象候補疾患が増加している.そこへ2019年度,AMED研究開発課題「新生児マススクリーニング対象拡充の候補疾患を学術的観点から評価・選定するためのエビデンスに関する調査研究」が採択され,米国の対象疾患選定用スコアリング法を用いて,①タンデムマス法への追加が可能な代謝異常症,②治療法のあるライソゾーム病,③X連鎖性副腎白質ジストロフィー,④原発性免疫不全症,⑤先天性サイトメガロウイルス感染症,⑥脊髄性筋萎縮症,⑦胆道閉鎖症,⑧先天性胆汁酸代謝異常症を対象に,我が国での現状を評価した.本稿では小児神経疾患としての観点から②③⑤⑥について概要を提示する.2020年度からは継続課題「新生児マススクリーニング対象拡充のための疾患選定基準の確立」にて,我が国独自の評価項目リスト案を作成した.これを関連学会等に提示して,各評価項目を重み付けするためのデータを収集しており,2022年度中に評価項目と配点を確定して最終報告とする予定である.作成後の基準は,日本小児科学会小児慢性特定疾病委員会内に設置された「新生児マススクリーニング検討小委員会」で運用し,政策提言に繋げるスキームの実現を期待している.

<企画シンポジウム9:筋疾患の新たな治療導入による変化と課題>
  • 石川 悠加, 松尾 雅文
    2023 年 55 巻 3 号 p. 188-190
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/05
    ジャーナル フリー
  • 竹島 泰弘
    2023 年 55 巻 3 号 p. 191-195
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/05
    ジャーナル フリー

     Duchenne型筋ジストロフィー(Duchenne muscular dystrophy;DMD)は,ジストロフィン遺伝子変異による遺伝性進行性筋疾患である.DMDに対する治療法開発は,ジストロフィン蛋白の産生促進,および,ジストロフィン欠損による病態の改善の両面から進められている.前者として,アンチセンスオリゴヌクレオチドによりエクソンスキッピングを誘導しDMDでみられるout-of-frame欠失をin-frameに変換するエクソンスキッピング誘導治療,翻訳の過程でナンセンス変異を読み飛ばし,機能的なジストロフィン蛋白発現を促すナンセンス変異リードスルー誘導治療,巨大なジストロフィン遺伝子の一部を欠失させることにより,一定の機能を維持しつつ小型化した短縮型ジストロフィンを導入する遺伝子治療などがあり,2020年,本邦においてエクソン53スキッピング誘導治療が承認された.一方,ジストロフィン欠損による病態の改善を目的とする治療として,プロスタグランジンD産生抑制による治療の治験などが,本邦においても進められている.

     脊髄性筋萎縮症において新規治療薬が承認され,早期診断治療システムの構築,進行例に対する有効性評価法の確立など,新たな課題が報告されている.DMDにおいても同様であるとは限らないものの,早期に的確に診断し,治療の有効性・安全性を長期にわたってフォローし得る体制整備が,今後重要になるものと思われる.

  • 石垣 景子
    2023 年 55 巻 3 号 p. 196-200
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/05
    ジャーナル フリー

     福山型先天性筋ジストロフィー(Fukuyama congenital muscular dystrophy;FCMD)は,神経細胞移動障害による脳奇形と眼合併症を特徴とする重度の筋ジストロフィーで,日本人に特異的に多い.患者の8割は生涯歩行不能であり,呼吸不全,心筋症から20歳以前に死亡する難病であるが,治療法はない.創始者変異と言われるFKTNの3kbの挿入変異は,SINE-VNTR-Alu(SVA)型レトロトランスポゾンであり,FCMDはこのエクソントラッピング機能により生じるスプライシング異常症である.異常スプライシングを阻止するアンチセンス核酸を用いたエクソントラップ阻害療法が開発され,現在治験が始まっている.また,FKTNの遺伝子産物が,細胞膜構成成分のα-ジストログリカンの糖鎖合成の材料となるシチジン二リン酸リビトールからリビトール5リン酸を転移する糖転移酵素であることが解明され,プロドラッグ療法も期待される.Duchenne型筋ジストロフィーでは,ステロイド治療により歩行期間の延長など進行抑制効果が証明され,保険適用されている.東京女子医科大学にて,退行が確認されたFCMD患者に対し,プレドニゾロン投与を行う臨床試験を行った結果,投与6か月後の粗大運動能力尺度による運動機能評価にて改善を確認した.ここではFCMDの治療開発の現状に関して,解説を行う.

  • 小笠原 真志
    2023 年 55 巻 3 号 p. 201-205
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/05
    ジャーナル フリー

     先天性ミオパチーは臨床的,病理学的,遺伝学的にheterogeneousな遺伝性筋疾患である.筋病理で筋線維内に特徴的な構造異常を認めるため,従来,先天性ミオパチーは筋病理学的に診断がなされてきた.筋病理像によって,ネマリンミオパチー,コアミオパチー(セントラルコア病・マルチミニコア病),ミオチュブラーミオパチー/中心核病,先天性筋線維タイプ不均等症に細分化されている.近年の遺伝子解析の技術の進歩に伴い毎年のように先天性ミオパチーの新規原因遺伝子が同定され,さらに1つの原因遺伝子が複数の先天性ミオパチーを来す報告がある一方で,1つの先天性ミオパチーを来す原因として複数の原因遺伝子が報告されている.また遺伝形式も顕性遺伝しか報告のなかった原因遺伝子で潜性遺伝も報告され,その逆の例もまた報告されている.そのため遺伝子検査によって得られた結果だけではその解釈は難しい場合がある.従来,先天性ミオパチーは臨床的に表現型が似ているため筋病理によって診断がなされてきたが,最近の大規模な症例解析によって臨床的に異なる表現型を呈することが分かってきた.本稿ではそれぞれの先天性ミオパチーの臨床的,病理学的,遺伝学的な特徴について最新の知見を踏まえ概説する.また先天性ミオパチーで現在行われている研究についても概説する.

  • 里 龍晴
    2023 年 55 巻 3 号 p. 206-209
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/05
    ジャーナル フリー

     近年,神経筋疾患に対する研究診断治療の進歩は目覚ましく,本邦においても2017年の脊髄性筋萎縮症に対するnusinersen承認を皮切りに,同疾患に対しては2020年にAAVベクターを用いた遺伝子治療薬であるonasemnogene abeparvovec,2021年に経口治療薬であるrisdiplam,Duchenne型筋ジストロフィーに対しては2020年にアンチセンス核酸を利用したエクソン53スキップ薬であるviltolarsenが利用可能となっている.これらの治療が画期的な変化を臨床現場にもたらしていることは問違いないが,その治療法,介入の時期などにより,治療効果がもたらす臨床像の変化には大きく幅がある.また,これらの疾患はいずれも希少疾患であり,地方においてはその数は必ずしも多くない.そのため疾患に対する経験が不足していることに加え,治療による臨床像の変化により求められる個別性の高い医療や療育などに対して各地域・各施設において手探りで模索している状況と考えられる.特に,進行期の疾患に対する治療は効果判定の方法も定まっておらず,単独施設の経験のみでの判定は困難といえる.実際の診療現場では,現行治療の継続に対する必要性や妥当性の検討,新たな治療法が出現した際に治療法の変更へ踏み切るかどうかなど,少ない情報を元に重要な判断せざるを得ない.演者自身も少ない経験の中でこのような問題に直面しながら日々診療に当たっているのが現状である.本発表では,演者も抱えている地域における希少疾患治療の悩みを共有するとともに,現在微力ながら行っている取り組みについて紹介する.

<小慢・指定難病に関する委員会主催セミナー>
症例報告
  • 品川 穣, 水野 むつみ, 秋山 麻里, 竹内 章人, 板井 俊幸, 宮武 聡子, 松本 直通, 加藤 光広, 小林 勝弘
    2023 年 55 巻 3 号 p. 212-216
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/05
    ジャーナル フリー

    GABRB3遺伝子は,γ-aminobutyric acid(GABA)A受容体のβ3サブユニットをコードし,その変異は発達性てんかん性脳症の原因となる.我々は,GABRB3遺伝子にNM_000814.5:c.778C>A:p.(Leu260Met)のde novo新規変異を認めた乳児期早期発症難治焦点てんかんの女児を初期から追跡し,特徴的な脳波像を認めた.生後2か月から多焦点起始の発作を発症し,遊走性焦点発作も稀に認めた.発作は難治に経過したが,臭化カリウム(KBr)が著効し,1歳3か月以降は現在4歳5か月に至るまで発作は抑制されている.発作抑制以前に停滞していた発達は,発作抑制後に進み,1歳7か月で独坐,2歳11か月で独立ができるようになった.脳波は,初期の投薬開始前から背景活動で持続性速波が出現し,次第に振幅や頻度を増し,発作が抑制された後も特徴的な異常脳波所見を示した.このような速波活動についてGABRB3関連てんかんで注目した報告はなく,GABA抑制系の機能障害との関係が推測された.また本症例はGABRB3関連てんかんでKBrの有効性を示した最初の報告である.これらの知見はGABRB3関連てんかんの脳波所見の蓄積や治療選択に寄与すると考える.

  • 中井 理恵, 柳原 恵子, 桒山 良子, 池田 妙, 最上 友紀子, 西川 正則, 岡本 伸彦, 田村 太資, 道上 敏美, 鈴木 保宏
    2023 年 55 巻 3 号 p. 217-221
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/05
    ジャーナル フリー

     Camurati-Engelmann病(MIM:131300)はtransforming growth factor-β1TGFB1)遺伝子の機能獲得型バリアントにより生じる,骨皮質の肥厚と長管骨骨幹部の紡錘形肥大を特徴とする,稀な常染色体顕性遺伝(優性遺伝)形式の骨系統疾患である.症状は幼児期に筋力低下,動揺性歩行,易疲労性で発症し,青年期以後に四肢痛などの骨症状が出現する.今回,初診時に神経・筋疾患が疑われたが,Camurati-Engelmann病と幼児期に診断した2男児例を経験したので報告する.症例はいずれも周産期歴,歩行獲得までの粗大運動発達は正常.独歩開始(12と14か月)直後より動揺性歩行を認めていた.3歳健診でGowers徴候陽性を指摘され当院に紹介となった.血清CK値,筋電図検査は正常であったが,骨格筋のスクリーニング検査で行った画像検査(CT,MRI)で骨病変を認めた.下肢の単純X線写真で本疾患に特徴的な骨変化を認め,TGFB1遺伝子にミスセンスバリアント(NM_000660. 7:c. 652C>T[p. Arg218Cys],rs104894721)を同定し確定診断した.うち1例に3歳時からlosartanの投与を開始し,運動耐容能の改善を認めている.近位筋優位の筋力低下を認める小児症例においてはCamurati-Engelmann病が鑑別にあがる.筋力低下を認める小児において神経・筋疾患が特定できない場合は,骨病変の評価も行う目的で下肢の筋肉CT・MRI検査を考慮すべきである.

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