「朝起きることができない」に該当する英語表記は,International classification of sleep disorders version 3ではdifficulty(in morning)awakeningで,その邦訳は覚醒困難あるいは起床困難である.「朝起きることができない」は世界的に重要な思春期の睡眠関連課題とされ,調べ得た範囲では思春期世代の40~90%でこの訴えがある.不登校,成績不良,入眠前の電子機器使用,就床時刻の遅れ,飲酒,喫煙,抑うつ,sluggish cognitive tempo症状との関連が指摘され,アレルギー性鼻炎,アトピー性皮膚炎,長時間睡眠者,閉塞性睡眠時無呼吸症候群,睡眠・覚醒相後退障害,睡眠不足/睡眠不足症候群,特発性過眠症,精神科的疾患との鑑別も必要であることがわかった.本邦一般小児科医にとってcommon diseaseとなった起立性調節障害の身体症状項目にも「朝起きることができない」はある.しかし起立性調節障害の英文ガイドラインでは,「朝起きることができない」は覚醒困難ではなく寝床からの起き上がり困難を意味していた.「朝起きることができない」思春期患者への対応を文献的にまとめ,思春期の「朝起きることができない」の今後の課題として,睡眠衛生指導法(介入方法)のブラッシュアップ,睡眠を尊重する社会啓発,飲酒喫煙防止教育の充実,夜間のメディア機器使用対策,睡眠慣性/睡眠酩酊に関する研究,生体指標の検討の6点を挙げた.
【目的】患者から直接語りを聞くことで,医療従事者のアドバンス・ケア・プランニング(advance care planning;ACP)に対する理解が深まるか調査した.【方法】ACPを行っている患者が,医療従事者へACPに対する本人の意見を講演した.その後,聴講した50名に質問紙調査を行った.【結果】50名中39名(78%)が回答した.「ACPの言葉を知っている」は37名(95%)であった.「患者から直接語りを聞くことで,ACPの理解が深まる」は34名(87%)であった.ACPの理解を深めるために「医療従事者から話を聞く」,「患者自身から話を聞く」および「医療従事者と患者自身の両方から話を聞く」がそれぞれ0名(0%),16名(41%)および17名(44%)であった.また,「自身の人生でACPが必要」は38名(97%)であった.【結論】本調査から,患者の語りを直接聞く事は医療従事者のACPの理解を深めることが示唆された.患者の語りを直接聞く機会は,患者と医療従事者の共同を育み,よりよいACPへつながる.
【目的】Suppression-burst(SB)を示すてんかん性スパズム症例の臨床特徴を検討する.【方法】国立病院機構共同研究として,経過中に「てんかん性スパズム」を示した症例を512例登録した.その中から,2歳未満発病でてんかん性スパズム治療開始時の発作間欠時脳波がSBを示した症例(SB群)と,hypsarrhythmiaを示した症例(HYPS群)を対照として選択した.発作予後は2か月以上の発作抑制の有無,発作抑制期間で評価した.【結果】SB群は17例,HYPS群は314例で,SB群の病因基礎疾患は,遺伝学的要因5例,低酸素性脳障害3例等で,遺伝子型としてはSTXBP1バリアントが4例,ARXバリアントが1例見られ,HYPS群と比較してSTXBP1バリアントは有意にSB群に多く見られた.てんかん発病年齢とてんかん性スパズム発症年齢は,HYPS群よりSB群が有意に低く,てんかん発病時発作型はSB群では焦点性発作が多かった.最終観察時には,SB群のてんかん性スパズムはACTHで2例,CBZで1例,VPAで1例が抑制され,発作抑制率は23.5%で,HYPS群に比べて有意に低かった.最終観察時の知的障害スコア,運動機能障害スコアに有意差はなかった.【結論】SB群は遺伝学的要因,特にSTXBP1バリアントが多かった.発作抑制率は低いがACTHの発作抑制期間が長かった.
急性散在性脳脊髄炎(acute disseminated encephalomyelitis;ADEM)と診断・加療された後,ぶどう膜炎を発症した15歳男子例を報告する.けいれんを認め,頭部MRIで皮質下白質にT2強調像,FLAIR画像で多巣性の高信号を認めADEMと診断した.ステロイド療法を行い経過良好で外来で通院加療を行っていた.101病日頃より眼球結膜充血と眼痛,視力低下を認め,汎ぶどう膜炎の診断となった.若年性慢性虹彩毛様体炎,若年性特発性関節炎,尿細管間質性腎炎ぶどう膜炎症候群,Behçet病などに伴うぶどう膜炎を考慮し各種検査を行ったが有意な所見は認めなかった.また多発性硬化症(multiple sclerosis;MS)の可能性も考え注意深く経過を追ったが再発なく経過し,頭部MRIでも新たな病変は確認されなかった.ぶどう膜炎に対しステロイド点眼のみで治癒傾向となった.調べえた限り,過去にADEMとぶどう膜炎を併発した小児例の報告はなかった.欧米を中心にMSにぶどう膜炎を伴った症例は多数報告されている.MSと同じ後天性脱髄性疾患であるADEMも,ぶどう膜炎と共通の免疫学的基盤を持つ可能性がある.現時点では,ADEMと考えているが後に他の脱髄性疾患と確定診断される可能性もあり,今後も定期的な経過観察を行う必要があると思われた.
近年,アストロサイトの細胞骨格内に存在するグリア線維性酸性蛋白質(glial fibrillary acidic protein;GFAP)への抗体に関連する脳炎が新たな疾患概念として提唱された.亜急性の経過の髄膜脳炎・髄膜脳脊髄炎と特徴的な画像所見を呈するが,多くは成人例である.近年小児例の報告が海外で散見され始めたが,本邦での報告は本症例を除いて1例のみである.症例は5歳8か月の男児.既往歴はなし.遷延する発熱の後,髄膜刺激症状,意識障害を呈した.髄液細胞数の増多を認めるも,中枢神経感染症は否定的であった.炎症性脱髄疾患を疑い,ステロイドパルス療法を開始し,治療後から意識障害は改善した.MRIの拡散強調画像で両側脳室周囲白質と脳梁に点状および線状の高信号を認め,髄液抗GFAP抗体陽性より,自己免疫性GFAPアストロサイトパチーと診断した.血清抗ミエリンオリゴデンドロサイト糖蛋白抗体と血清抗アクアポリン4抗体は陰性であった.ステロイドパルスは合計3クール行い,後遺症なく退院した.約8か月かけてprednisoloneの内服を漸減終了したが,再発なく経過している.自己免疫性GFAPアストロサイトパチーは本邦でも,医療者によって鑑別されず診断に至っていない症例が多く存在する可能性がある.ステロイド反応性を示す髄膜脳炎・髄膜脳脊髄炎の場合や特徴的な画像所見を呈する中枢性炎症性疾患の場合,小児においても本疾患を疑う必要がある.
脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy;SMA)は,遺伝性の下位運動ニューロン病である.従来よりI型またはII型のSMAをもつ児の両親から希望があり検査の意義について十分な理解がえられた場合に,次子の妊娠初期の遺伝学的検査を目的とした出生前診断が行われてきた.これまでは治療がなかったため,罹患判明時には妊娠継続が断念される場合がほとんどであった.しかし現在複数の疾患修飾治療薬が保険収載され,出生前診断の意義が変わりつつある.遠隔地の症例に対して居住地の医療施設と連携して出生前診断を行い,早期治療導入に成功した2症例を経験したので報告する.症例1は現在2歳4か月女児,症例2は1歳0か月男児である.症例1の兄がSMA Ib型,症例2の兄がSMA Ia型と診断されている.両症例とも出生前遺伝学的検査にて陽性(罹患)であったため,両親の出産および治療の意思を確認し居住地域の病院と連携し出生後の治療体制を整えた.症例1は呼吸不整を認めたため生後9日目に居住地の病院でnusinersen治療を開始し,生後3か月21日でonasemnogene abeparvovecの投与を行った.症例2は出生時より腱反射消失が認められたため,居住地の病院で生後2日目にnusinersen治療を開始し,生後11日目にonasemnogene abeparvovecの投与を行った.症例1は生後11か月に自立歩行を達成し,2歳2か月にジャンプ可能となった.症例2は生後12か月に独座を達成した.これからのSMAの出生前診断は陽性(罹患)時の万全な治療体制の構築を目的に実施されると考えられた.
遺伝性運動感覚性ニューロパチーの病因遺伝子は多数報告されているがその中でもGNB4バリアントの報告例は少なく,日本人での報告例は1家系のみである.我々は転びやすさと学習困難を主訴に精査され,GNB4バリアントを認めた遺伝性運動感覚性ニューロパチーの14歳女子を経験した.8歳時に終糸脂肪腫による脊髄係留症候群の診断で係留解除術が施行されたあとも転びやすさが改善せず,成績不振も認めていたため精査した.脳神経所見に特記事項はなかったが,前脛骨筋の筋力低下とS1領域の感覚低下を認めた.血液検査,頭部・脊髄MRI検査では異常はなかった.神経伝導検査では下肢優位の伝導速度低下を認めた.遺伝子検査でPMP22の重複・欠失は認めなかったが,Charcot-Marie-Tooth病病因遺伝子解析でGNB4バリアント(NM_021629.4:c.229G>A, p.Gly77Arg)をヘテロ接合性に認めた.データベースにも登録されていないde novoバリアントであり,両親に同バリアントは認めなかった.WISC-IVを行い,IQは知的境界域で指標間でばらつきがあり,特に知覚推理の値が低かった.GNB4バリアントの報告例は少なく神経発達症との関連の報告はないが,中枢神経症状にも関与している可能性もあり,更なる症例の蓄積が必要と考えられた.
重症心身障害児(者)10例における,声門閉鎖術後5年以上の長期経過を検討した.術後の縫合離開が2例あったが再手術後の経過は良好で,全例で長期の誤嚥防止効果が認められ,気管腕頭動脈瘻の発生もなかった.カニューレフリーや経口摂取の継続は困難で,特に術前の非侵襲的陽圧換気(NPPV)実施例では,全例で経過中に気管切開下陽圧換気(TPPV)が必要となった.誤嚥が顕著な例では,呼吸機能低下前に誤嚥防止術が望まれる.