抗N-methyl-D-aspartate (NMDA) 受容体脳炎が特定されたのは, 約13年前と比較的最近であるが, これまでの研究により抗NMDA受容体脳炎は最も多い自己抗体介在性脳炎であることがわかった. 急性発症する精神症状や不随意運動をみた場合には必ず鑑別に挙げる必要がある. 病態の解明と診断・治療方針が大きく進捗しているが, 適切な治療を行わないと回復までに非常に長い期間を要し, 急性期に死に至る場合や, 後遺症を残す場合もある疾患であり, 早期発見と早期治療は非常に重要である.
本総説では, 抗NMDA受容体脳炎についての概要と, 小児例の特徴や近年提唱された早期診断・治療のためのアプローチについて述べる.
子どもを取り巻くメディアの環境は時代とともに急速に変化しており, 子ども達の電子映像メディアへの接触は長時間化, 低年齢化に拍車がかかっている. 成長発達期にある子どもたちにとって, 不適切な使用による心身への影響は計り知れず, 生活リズムの乱れや睡眠不足, 視機能低下, 発達面への影響, ネットいじめなど特有の問題も出現している. また, インターネットゲーム依存が医学的にも考慮されるようになり予防と対策が検討されるようになった. 一方でメディアを学習や生活に取り入れてうまく活用する場面も増えており, メディアとの共存はごく当たり前になってきている. 我々には, 新たな時代を生きる子どもたちに, メディアとの上手な付き合い方を指南する役割が課せられている.
【目的】小児脳腫瘍治療後の患者に対する神経心理学的合併症評価の実行可能性, 実施すべき検査内容について検証すべく横断的調査研究を行った. 【方法】日本小児がん研究グループ脳腫瘍委員会の所属施設のうち, 複数のコメディカルが協力可能な施設に依頼した. 初発から2年以上再発なく経過している5歳から18歳の患者を対象とした. 【結果】8施設, 50名が参加した. 検査時年齢は12.4歳, 発症時年齢は6.6歳であった. 放射線治療は86%, 化学療法は98%に施行されていた. 47例に知能検査, QOL評価を行った. Full scale IQ, Pediatric Quality of Life Inventory (PedsQL) の保護者・本人評価は健常例より低値であった. Strengths and Difficulties Questionnaire (SDQ) は保護者41例, 本人25例に施行した. 先行研究のある保護者評価では, 健常児の保護者評価と比較して 「情緒」 「仲間関係」 「total difficulties score」 で困難が大きい結果となった. またPedsQLはSDQと強い相関を認めた. 【結論】これらの評価を全国展開すべく, 小児神経内科を含む複数科の医師, コメディカルと連携できるシステムの構築が急務である.
【目的】知的障害や基礎疾患を持つ女性てんかん患者の月経周期異常の報告は未だ少ない. そこで当療育センターで経過観察中の女性てんかん患者を対象に, 月経周期異常の有無や抗てんかん薬 (AED) との関連, その対応について調査した. 【方法】29例のてんかん女性の発作型は焦点起始23名, 全般起始6名で, 調査時年齢およびてんかん発症年齢はそれぞれ平均28.7歳および5.9歳であった. 知的障害を22例に認め, 基礎疾患のある例は15例であった. 【結果】月経周期異常は10例, 周期正常は19例であり, 知的障害のない7例は周期正常であった. Valproate (VPA) を投与された9例中3例に周期異常を認め, 内1例は多囊胞性卵巣もあり, VPAをlamotrigineに変更されて発作の抑制と月経周期の正常化を得た. 肝の酵素誘導を引き起こすAEDを投与された21例中15例には周期異常はなく, 周期異常を認めた6例中4例はホルモン検査を受け, 内1例がcortisolの低下を示した. この例ではAEDを一部中止され, cortisol投与も受けて周期異常は軽減し発作も抑制されている. 【結論】我々の症例では月経周期異常を認める割合は既報より多く, 知的障害や基礎疾患の合併例が多いことが原因である可能性が示唆された. 周期異常を来した症例では, AEDの変更や一部中止により発作の抑制と周期異常の改善が可能であった.
【目的】Carbamazepine (CBZ) の副作用の一つに低Na血症がある. Lacosamide (LCM) は新規抗てんかん薬であり, CBZと同じNaチャネル遮断薬である. 重症心身障害者において, CBZからLCMへ抗てんかん薬を切り替えることで, 低Na血症が改善するかを検討した. 【方法】当院の重症心身障害者病棟に入所中で, CBZを内服しており, NaCl換算で1日6g以上のNa負荷をしており, 肝・腎機能障害がない症例を対象とした. 血清Na値を含む各種検査を施行後, CBZを半量にすると同時にLCM 100mgを追加し, その14日後にCBZを中止し, LCM 200mgに切り替え, さらに約1か月後に血清Na値を評価した. 【結果】対象患者は6例, 男女比1 : 1, 平均年齢54.7±4.2歳, 切り替え前の平均血清Na値127.0±1.1mEq/L, 平均体重35.1±1.7kgであった. 全例で血清Na値は上昇していた. 観察期間内で5例はてんかん発作を認めず, 1例は切り替え途中に発作を認めたが切り替え後には発作を認めなかった. 血清Na値は平均127.0±1.1mEq/Lから134.5±1.9mEq/Lに上昇していた (p<0.05). 【結論】CBZによる低Na血症が疑われる重症心身障害者は, LCMへの切り替えにより低Na血症が改善し得る.
【目的】小児精神神経疾患に関連する睡眠障害に対するramelteonの効果を明らかにする. 【方法】当院神経内科と総合診療部で睡眠障害 (睡眠相後退症候群, 非24時間睡眠覚醒リズム, 中途覚醒) を有する患者 (生後6か月から23歳) のうち2010年1月〜2017年12月の間に新規にramelteonを処方された患者について, 睡眠障害の種類, 体重あたりの薬用量, 背景疾患, 併用薬剤とramelteonの効果の関係をカルテから後方視的に検討した. 効果判定の基準としては 「中途覚醒が少なくなった」, または 「望ましい一定の時刻に眠れるようになった」 ものを効果ありとした. 【結果】対象は210例で130例 (62%) に効果を認めた. 睡眠相後退症候群が104例中67例 (64%), 非24時間睡眠覚醒リズムが16例中8例 (50%), 中途覚醒が44例中27例 (61%) で効果が認められた. 背景疾患別では高度視力障害が16例中12例 (75%), 自閉スペクトラム症30例中21例 (70%), 起立性調節障害に伴う不登校37例中19例 (51%), てんかん87例中56例 (64%), 脳性麻痺23例中17例 (74%) に効果を認めた. 有害事象は11%で認め用量との関連はなかった. 【結論】Ramelteonは小児精神神経疾患のある児に安全に使用できる薬剤であり, 特に自閉スペクトラム症, 高度視力障害, 脳性麻痺の患者の睡眠障害で有効である.
【目的】17p11.2領域の欠失はSmith-Magenis症候群 (SMS) の原因としてよく知られているが, 同領域の重複によって生じるPotocki-Lupski症候群 (PTLS) については本邦において十分な理解が得られていない. 日本人PTLS患者の実態を明らかにするため, これまでに経験した症例の臨床症状および経過をまとめ検討した. 【方法】網羅的ゲノムコピー数解析により17p11.2領域の重複を認めた症例の臨床情報をまとめ, 海外における既報告例と比較検討した. 【結果】7症例 (男/女=2/5, 年齢 : 1歳5か月〜5歳11か月) においてRAI1遺伝子を含む17p11.2領域の重複を認めた. 全例精神運動発達遅滞・非特異的な顔貌所見を示した. 筋緊張低下, および自閉スペクトラム症状を疑わせる常同行為などの症状はそれぞれ4例において認められ, てんかんは2例で認められた. 全7例で認められた表現型は, 過去にPTLSで報告されたものと矛盾はなかった. 【結論】SMSは先天性心疾患や特徴的顔貌などから比較的鑑別が容易であるが, 今回PTLSと確認できた7例の臨床症状は精神運動発達遅滞や顔貌所見, 筋緊張低下, 行動の特徴など, いずれも非特異的であるため, 臨床症状だけでPTLSを鑑別することは難しいと考えられた. PTLSの臨床的特徴をより理解するために, 患者情報をさらに詳しく調査する必要があると考える.
急性前庭症候群 (acute vestibular syndrome ; AVS) は急激にめまい, 悪心, 嘔吐, 眼振, 姿勢の不安定性が生じる症候群であるが, 小児での報告例は稀である. 症例は9歳女児, 扁桃炎罹患後にめまい, 注視時の著明な複視, 嘔吐, 歩行困難で入院した. 体幹失調が明らかで, 深部腱反射の低下を伴う筋力低下も呈したため, 当初Fisher症候群を疑い無治療にて経過観察した. めまい, 悪心, 嘔吐, 眼振の症状は自然経過で緩徐に改善したが, 筋力低下と失調歩行が残存した. 髄液検査で単核球優位の細胞数増多と頭部造影MRI検査で小脳橋角部の両側第VIII脳神経に異常造影効果がみられ, 抗ガングリオシド抗体検査で抗GQ1b-IgG抗体陰性, 抗GM1-IgG抗体と抗GM2-IgG抗体が陽性であった. 以上より自己免疫介在性のAVSと診断した. 自己免疫介在性AVSでは, 複数の抗体の関与が報告されおり, 経過次第ではIVIGなどの急性期治療を考慮すべきと思われた.