脳と発達
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54 巻, 6 号
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巻頭言
総説
  • 古賀 靖敏
    2022 年 54 巻 6 号 p. 401-406
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/07
    ジャーナル フリー

     ミトコンドリア病の診断に役立つ感度・特異度の高いバイオマーカーを開発する事は,世界中のミトコンドリア病研究者にとって喫緊の課題である.我々は,この課題を解決する目的で,MELASのA3243G変異を持つサイブリッドモデルのメタボローム解析を行い,新規バイオマーカーを探索した.さらに,日常診療において,血清中のGDF15測定を可能にするために,ミトコンドリア病の自動診断薬として,新しいラテックス比濁免疫測定法(LTIA)を開発した.次に,ミトコンドリア病患者,遺伝子異常を有する保因者,および健常者を対象に,市販の酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)キットと新しいLTIAデバイスを用いた臨床性能試験を実施し,両者の同等性を調べた.その結果,ミトコンドリア病の新規診断バイオマーカーとしてGDF15を発見し,特許を取得した.全自動分析装置に搭載できるLTIAデバイスは,既存のELISAシステムと同等性を示した.LTIAデバイスを用いることで,感度94%,特異度91%の確率でミトコンドリア病の迅速な診断が可能となった.この自動化されたハイスループット技術は,ELISAキットよりも処理時間がわずか10分と短く,サンプル測定あたりの推定コストが低いという明確な利点があり,ミトコンドリア病の早期診断と治療が可能となる.この発見は,トランスレーショナルリサーチの成功例であり,世界のミトコンドリア病の診断アルゴリズムに革命をもたらすと考えられる.

原著論文
  • 福岡 正隆, 高橋 幸利, 山口 解冬, 福山 哲広, 西村 成子, 高尾 恵美子, 笠井 理沙, 榎田 かおる
    2022 年 54 巻 6 号 p. 407-413
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/07
    ジャーナル フリー

     【目的】Rasmussen症候群(Rasmussen syndrome;RS)の髄液Granzyme B(GrB)濃度の意義を検討する.【方法】Bienの診断基準を満たす50歳未満発症のRSで,GrBを測定したRS症例を対象とした.臨床病期,検査時年齢,免疫調節遺伝子cytotoxic T lymphocyte-associated protein 4(CTLA4)とprogrammed cell-death 1(PDCD1)のSNPの有無,発作・運動機能予後とGrBの関連を検討した.対照は免疫が関与していないと推測されるてんかん症例38例の髄液GrB濃度を用いた.【結果】対象RS患者は38例(73検体),男15例,女23例であった.臨床病期1~2(発症2年未満)のGrBは疾病対照に比べて有意に高値であった.運動機能予後は,発病後GrBが低下した3/6症例では良好であった.免疫修飾療法の有無,CTLA4およびPDCD1のSNPとGrBは有意な関連はなかった.【結論】GrBはRS発症2年未満で高値をとり診断マーカーとして有用である.

  • 須貝 研司, 麻生 雅子, 伴 さとみ, 新井 奈津子, 前田 あき, 江川 文誠
    2022 年 54 巻 6 号 p. 414-420
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/07
    ジャーナル フリー

     【目的】重症心身障害児(者)〔重症児(者)〕の流涎過多,口腔/咽頭分泌物過多は,衛生面や呼吸障害の原因として大きな問題で介護負担も大きいが,適切な治療法はない.ロートエキスは胃十二指腸潰瘍,胃炎の薬で副交感神経を抑制するベラドンナアルカロイドを含むので唾液の減少も期待でき,先例もあり,適応外使用だが介護者の要望で流涎過多,分泌物過多に試みた.【方法】入所の重症児(者)の介護者(家族,看護師,生活支援員)から流涎過多による生活支障,分泌物過多による呼吸障害の改善を求められた.消化性潰瘍・胃炎の薬で適応外使用だが本剤があること,用法,効果と副作用,対処法を説明し,介護者の同意を得た入所者に1.1~3.5mg/kg(平均2.2mg/kg)投与した.流涎ほぼ消失,痰の吸引量半減以上を有効とし,効果を後方視的に調査し,病棟介護者の介護負担への影響も調査した.【結果】有効は45/47例(流涎過多23/24例,分泌物過多22/23例)で,副作用は胃残量増加4例,腸蠕動低下1例,痰の粘稠化1例であったが,減量や中止で改善し,中止は副作用2例を含む6例で,便秘は増強10例,改善4例であった.流涎,分泌物の減少は更衣や清掃,吸引回数の減少など介護者の業務軽減と時間的・精神的余裕をもたらし,患者も介護者もQOLが改善した.【結論】本剤は胃十二指腸潰瘍,胃炎の薬で適応外使用ではあるが,重症児(者)の流涎過多による生活の支障,分泌物過多による呼吸障害に有用であった.

症例報告
  • 竹内 竣亮, 森 達夫, 郷司 彩, 高橋 利幸, 東田 好広
    2022 年 54 巻 6 号 p. 421-425
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/07
    ジャーナル フリー

     抗myelin oligodendrocyte glycoprotein(MOG)抗体関連脱髄性疾患は一般にステロイド剤に対する反応が良好とされているが,初期治療に反応しない症例や症状の改善が不十分な症例に対する治療方針は定まっていない.症例は12歳の男児.左眼の眩しさと右側表情筋の動かしづらさ,排尿困難を認め,脳MRIで大脳皮質および大脳皮質下白質に多発性病変を認めた.急性散在性脳脊髄炎と診断し,メチルプレドニゾロンパルス療法(intravenous methylprednisolone pulse;IVMP)を開始した.視覚症状はIVMP 3クール(1クール:1g/day 3日間)と免疫グロブリン大量療法(1g/kg/回)でも改善を認めなかった.後日,抗MOG抗体陽性(血清2,048倍,髄液64倍)が判明し,抗MOG抗体関連疾患と確定診断した.血漿交換療法を3回施行し,IVMPを1クール追加したことで視覚症状は改善傾向となった.再発予防のためprednisoloneによる後療法を実施,7か月をかけて漸減中止した.現時点で発症後1年8か月が経過しているが,症状の再燃は認めていない.抗MOG抗体関連疾患において,視覚症状は多くみられる後遺症である.本症例では,血漿交換療法後に視覚症状の改善が認められており,視神経炎症例でIVMP後も症状が残存する場合はフリッカー値なども参考にしながら血漿交換療法の追加を考慮する必要がある.

  • 濱口 正義, 藏田 洋文, 上野 弘恵, 池田 ちづる, 橘 秀和, 島津 智之, 今村 穂積, 本田 涼子, 松本 直通, 加藤 光広
    2022 年 54 巻 6 号 p. 426-430
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/07
    ジャーナル フリー

    CYFIP2遺伝子は5q33.3に位置し,アクチン動態を制御するWASP-family verprolin-homologous protein(WAVE)調節複合体の構成要素であるCYFIP2をコードしている.2018年に全エクソーム解析によりCYFIP2の87番目のアミノ酸変異,p.Arg87が一部のWest症候群などの発達性てんかん性脳症の原因として同定された.また,他の部位の変異例でもWest症候群やその他の様々なてんかんを呈し,知的発達症の重症度などの表現型にも幅があることが明らかになってきた.症例は,9歳女児.1歳5か月時に動作停止発作が出現し,その後脱力発作や焦点起始運動発作を認めた.各種抗てんかん薬が奏功せず難治に経過した.Zonisamide追加後に発作頻度の減少や笑顔の増加やQOLの改善を認めた.患児は,長い指を認め,DQ24と知的発達症は重度で自閉スペクトラム症を認めた.低緊張を認めたが,独歩は2歳2か月で獲得した.7歳時に全エクソーム解析でCYFIP2de novoの新規ヘテロ接合性ミスセンス変異(NM_001037333.3:c.344T>C:p.Leu115Pro)を同定した.てんかん,低緊張を伴う知的発達症に加え,長い指や先細り指といった形態異常を有する場合にはCYFIP2変異の可能性を検討する必要がある.

  • 坂口 恭平, 林田 拓也, 橋本 和彦, 井上 大嗣, 西口 奈菜子, 里 龍晴, 吉浦 孝一郎, 高橋 幸利, 森内 浩幸
    2022 年 54 巻 6 号 p. 431-436
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/07
    ジャーナル フリー

     乳児型神経軸索ジストロフィー(infantile neuroaxonal dystrophy;INAD)は乳児期に発症し,精神運動発達の急激な退行と筋緊張低下から痙性麻痺や認知機能障害を呈する稀な神経変性疾患である.一方で,抗グルタミン酸受容体(glutamate receptor;GluR)抗体は自己免疫性脳炎・脳症の原因としてよく知られているが,多数の中枢神経疾患で陽性となることがあり認知機能障害のメディエーターとも考えられている.今回我々は軽微な感染を契機として急速に進行する発達退行と筋緊張低下を示した1歳女児を報告する.頭部MRIでは信号異常を伴わない小脳萎縮を認め,血清および髄液中の抗GluR抗体が上昇していたことから,自己免疫機序による病態を否定できず免疫グロブリンやステロイドを投与したが無効であった.後日全エクソーム解析でPLA2G6に新規ホモ接合性バリアントNM_003560.4:c.797+1G>Cを認めたことからINADと診断した.免疫治療に反応せず経時的に抗体価が上昇した経過より,本症例におけるGluR抗体は神経変性過程において二次的に生じたと考察した.自己免疫性脳炎・脳症のみならず,神経変性過程においても二次的に抗GluR抗体が産生されることがあるため,診断における留意点として理解する必要がある.

  • 小黒 早紀, 森 貴幸, 柿本 優, 竹中 暁, 下田 木の実, 佐藤 敦志, 岡 明, 水口 雅
    2022 年 54 巻 6 号 p. 437-442
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/07
    ジャーナル フリー

     構成障害は,主に両側の下部頭頂葉病変で起こるが,成人では前頭葉型前頭側頭葉認知症などの前頭葉病変でも起こるとする報告もある.これまで小児例の前頭葉病変に伴う構成障害は報告がない.今回右前頭葉病変によって構成障害を来した9歳男児の小児急性散在性脳脊髄炎例を経験した.本例は倦怠感や背部痛・頚部痛で発症し,頭部単純MRI検査で右前頭葉白質病変を認め,抗体検査結果も踏まえて抗myelin-oligodendrocyte glycoprotein抗体陽性急性散在性脳脊髄炎と診断した.症状はいずれもmethylprednisoloneパルス1クール目終了後には改善した.しかし,高次脳機能評価では構成障害を指摘され,methylprednisoloneパルス2クール目を行い,構成障害が改善した.小児急性散在性脳脊髄炎では,高次脳機能障害は好発する臨床症状には挙げられていないが,高次脳機能評価がより良い治療の選択につながった.小児の中枢神経疾患においても高次脳機能評価が適切な治療方針の検討に有用である.

  • 立石 裕一, 石川 暢恒, 小林 良行, 武内 香菜子, 谷 博雄, 岡田 賢
    2022 年 54 巻 6 号 p. 443-447
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/07
    ジャーナル フリー

     重症筋無力症(MG)は神経筋接合部に対する自己抗体が原因の疾患で,バセドウ病(BD)などの自己免疫性甲状腺疾患(AITD)を合併するリスクが高いとされる.MGにBDを合併し人工呼吸管理を要した症例を経験したので報告する.症例は5歳男児.両側眼瞼下垂と複視を主訴に前医受診.血液検査,塩酸エドロホニウム試験よりMG,BDと診断されX日当院転院となった.BDに対してはthiamazole内服にて治療し症状は徐々に改善した.MGは当初眼筋症状のみを呈し誘発筋電図検査でも有意な減衰を認めなかったため,X+4日よりpyridostigmine内服を開始したが症状の改善は乏しく,さらに球麻痺症状が顕在化してきたためX+21日よりprednisolone(PSL)内服を追加した.X+22日に誤嚥,呼吸不全から人工呼吸管理となったが,IVIG,methylprednisoloneパルス療法を行いX+28日に離脱,その後tacrolimus内服を併用した.X+49日には経口摂取可能となりX+57日には眼瞼下垂もほぼ消失,眼球運動も改善し,X+81日退院となった.MGの6.0%にBDを合併するとされ,AITDを合併したMGはMG単独例と比較し軽症例が多いとされるが,一方でMGクリーゼの発症については差が無いとの報告もある.MG症例ではBDなどのAITDの合併を念頭におく必要があり,AITD合併例でも本症例のように重症化する症例もあるため,症状に注意し治療法を検討する必要がある.

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