薬剤抵抗性で難治に経過するてんかんには外科治療が検討される. しかし, 薬剤抵抗性てんかんのうち外科治療の対象となるのはごく一部であり, 実際には外科治療に相応しい患者とそうではない患者がいる. 一方, 小児ではてんかん発作や脳波異常, 抗てんかん薬が患児の発達や学習に与える影響を考えて, 早期に外科治療を検討する場合がある. 本稿では, どのようなてんかんに対して積極的に外科治療を検討しうるのか, そして早期に外科治療を適応する際の考え方について, 自施設での経験と私見を交えながら述べる.
てんかんや自閉スペクトラム症 (autism spectrum disorder ; ASD) の発症には遺伝的背景が大きく寄与することは一卵性双生児研究や子どもでのリスク, 同定された多くの原因遺伝子などからも明らかであり, 遺伝子診断・遺伝子治療が急速に普及する近年においては, 臨床医と患者, 家族間での正しい遺伝学的知識の共有が更に強く求められる. 本稿では, このことについての議論とともに, 我々が現在までに得たてんかんやASDの発症に関わるSCN1A, SCN2A, STXBP1などの電位依存性ナトリウムチャネルやシナプス蛋白をコードする遺伝子の機能解析, マウスモデル解析による大脳基底核を介した新規てんかん発症回路の発見や遺伝子治療法開発の試みなどについて紹介する.
「急性脳炎・急性脳症の診療最前線」 と題して, 救急現場で経験した具体的な症例を提示し, 最新の話題を交えて概説した. 急性期に迷わず診断・治療するためには, 診療現場で役立つ様々なガイドラインに目を通しておく必要がある. 診断・治療につながる 「2つの大きな武器」 として, MRIと脳波検査 (特に持続脳波モニタリング) に焦点を当てて, 「再検査・再評価」 の重要性を説明した. 常に臨床病型を意識しながら診療することが大切であり, 病型診断に役立つ特徴的な所見や新たな治療方法も出てきている. 診断の正確性を向上させる検査方法や後遺症を回避または軽減させる治療方法など, 乗り越えるべき課題はまだまだ多いが, 未来のある分野ともいえる.
片頭痛の病態は未だ明らかではないが, 神経炎症の存在が示唆されている. 三叉神経終末から放出される神経ペプチドをターゲットとした治療法も開発され, 片頭痛治療はまさに変革期を迎えている. モデルマウスなどの基礎研究が進み, 病態解明と治療薬開発が進歩しているが, 片頭痛治療の根幹は適切な診断と頭痛教育であることも事実である. 本稿を介して, 片頭痛の基本から最新のトピックまで, 片頭痛の奥深い世界に触れていただきたい. また, 実際の診療現場での問診・説明のテクニックも私見ながらご紹介したいと思う. 頭痛診療に携わる先生はもちろん, 頭痛に苦しんでいる先生にも役に立つことを祈念している.
【目的】近年, epileptic spasms (ES) に対するACTH療法は, 副作用軽減のため低用量投与が推奨されている. しかし, 低用量ACTH療法においても感染症は依然重要な副作用である. 本施設のACTH療法中のESに対する感染症合併症例を抽出し, その臨床的特徴を検討した. 【方法】2007年11月から2019年10月までに埼玉県立小児医療センター神経科でESに対してACTH療法を施行した症例のうち, 感染症合併症例を抽出した. 診療録から後方視的に臨床情報を収集し, 感染症の合併頻度と臨床的特徴について検討した. 【結果】ESに対し85例でACTH療法が施行され, うち9例 (10.6%), 11機会 (2例が複数感染) で感染症を合併した. 9例の年齢は中央値8か月 (範囲5か月~2歳4か月), 6例が男児であった. 病原微生物はアデノウイルスが2例, ノロウイルス, RSウイルス, サイトメガロウイルス再活性化, 腸球菌, カンジダが各1例で, 病原微生物不明4例であった. 治療中止は2例で, このうち1例はACTH増量後に傾眠や一過性の頻脈を認めたが, 発熱や血液検査での炎症反応を認めず治療を継続し, 後に腸球菌尿路感染症に起因する敗血症が判明しACTH投与16日目に治療を中止した. 【結論】ACTH療法が低用量化しても依然, 感染症の合併は稀ではない. ACTH療法による感染徴候や炎症反応への修飾を考慮した管理が必要となる.
【目的】神経発達症児における聴覚過敏に対するイヤーマフ (earmuffs, 以下EMs) の有効性と課題を検討する. 【方法】2015年12月から2016年10月の間, 当院療育外来通院中でEMsを使用している患者13人にアンケート調査を行った. 【結果】対象となった全例が自閉スペクトラム症 (autism spectrum disorder, 以下ASD) の診断を受け, 12人に知的障害, 1人にADHDの併存を認めた. EMsは約7割で毎日使用し, その過半数で1日8時間以上使用していた. EMsを使用した感想は69%が肯定的であったが, 76%で短所の指摘があった. こだわりや不安が生じたといった精神面への影響は31%, 汗疹, 外耳道炎といった合併症は23%に見られ, その使用頻度は全て毎日であった. 【結論】EMsは一般的に安全で簡便に使用でき, 聴覚過敏を持つASD児においてもQOLの改善が期待できる有効な手段であるが, ASD児においてはEMsに依存的になることで使用頻度が高くなる場合があり, 合併症が生じる可能性がある. 聴覚過敏を持つASD児にEMsを勧める際には適正使用に関する助言を行い, 適切に使用できているか注意深く観察していく必要がある.
遺伝性痙性対麻痺 (SPG) は遺伝子座が同定されたものだけでも60以上のサブタイプがあるが, その中でもSPG35型は稀である. 我々は3歳で発症し, 19歳時に診断しえた, SPG35の症例を経験した. 患児は3歳から痙性対麻痺の進行を認め, 7歳で当院紹介. 頭部MRIでは軽度の小脳と脳幹の萎縮を指摘されたが, 末梢血・血液生化学検査, 尿検査, 血液ガス分析, 脳波, 体性感覚誘発電位, 下肢末梢神経伝導検査で異常は認めなかった. その後痙性麻痺の進行と知的退行が出現した. 19歳時に小児希少・未診断疾患イニシアチブの研究に参加した. トリオによる全エクソーム解析が行われ, fatty acid 2-hydroxylaseをコードする遺伝子FA2Hに新規変異 (NM_024306.5 : c.137dup [p.Glu47Argfs*55]) をホモに認め, 診断が確定した. 父親の解析では変異をヘテロで認めており, 父由来の片親性ダイソミーと考えられた. 放射線科医と後方視的に検討したところ, 19歳時の頭部MRIでT2強調画像での両側淡蒼球の低信号を認めた. 遺伝性痙性麻痺においては特徴的症状の出現時期や頻度にばらつきがあるため, 特異的な徴候が出現していなくても示唆する症状が複数認められる場合は鑑別疾患の上位に挙げるべきである. その際には網羅的遺伝子解析を含めた確定診断を早めに考慮するべきと考えた.
難治頻回部分発作重積型急性脳炎 (AERRPS) は極めて難治な脳炎であり, 鎮痙に際し長期の人工呼吸管理を含めた集中治療を要する. 急性期の発作抑制にbarbiturate持続静注が行われるが, 合併症に難渋することもある. 症例は6歳男児. 発熱を契機に全身強直発作が群発し, 以降も焦点発作が治療抵抗性のため集中治療室にて人工呼吸管理と脳平温療法を開始した. AERRPSと診断しthiamylal sodium持続静注により発作は消失したが, thiamylal sodiumによる臓器障害を認め, 超大量phenobarbital (PB) (最高血中濃度243μg/mL) に変更した. PB減量に伴い発作が再燃したため, PB再開に加えケトン食療法を開始し, 速やかに発作消失と脳波の改善を認めた. PB減量が困難であったが, perampanel (PER) 併用により減量可能となり, 第49病日に人工呼吸離脱に至った. 以降は抗てんかん薬の調整を行い, 発作は週単位の短い焦点発作となり, 自力歩行にて退院となった. AERRPSの急性期治療において, 超大量PBを用いて, 高用量barbiturate持続静注と同等の発作抑制効果をより安全に得ることができた. また急性期治療からの離脱にPERが有効であり, 低年齢のAERRPSに対してPERなどのAMPA受容体拮抗薬の積極的な使用は選択肢の一つと考える.
X連鎖Charcot-Marie-Tooth病1型 (CMTX1) では, 脳梁膨大部病変を有する軽症脳症 (MERS) に該当する一過性中枢神経障害の併発例が報告されている. MERS 2型罹患を契機にCMTX1と診断した兄弟例を報告する. 12歳の弟はマイコプラズマ肺炎罹患後に意識障害, 四肢麻痺, 構音障害が出現した. 頭部MRI拡散強調画像では脳梁膨大部と大脳深部白質に対称性高信号病変が一過性に出現し, 臨床症状と併せMERS 2型と診断した. 兄もMERS 2型に罹患した既往があり, さらに兄弟と母親に下肢腱反射消失, 逆シャンパンボトル型の下腿筋萎縮, 凹足を認めることからCMTX1を疑った. その後, 弟のGJB1にミスセンス変異NM_000166.6 (GJB1) : c. 77C>T (p. Ser26Leu) が確認され, CMTX1と診断した. けいれんを認めず, 大脳局所症状を有するMERS 2型例は基礎疾患としてCMTX1の可能性を考慮するが, 小児期は末梢神経障害が目立たない場合が多い. そのため症状が早期に出現する下肢の神経学的診察を注意深く行う事に加え, 家族も同様に診察する事が重要である.
可逆性脳血管れん縮症候群 (reversible cerebral vasoconstriction syndrome ; RCVS) は, 雷鳴様頭痛と呼ばれる, 急性発症する激しい頭痛で発症し, 可逆性の分節状の脳血管れん縮を伴う症候群である. RCVSをIgA血管炎罹患に伴い発症した小児例を経験した. 症例は7歳の女児で下肢の紫斑, 高度の腹痛からIgA血管炎の診断のもと前医でステロイド薬が投与されたが, 雷鳴様頭痛, 視力障害が出現した. 髄液検査では異常を認めず, 頭部MRI検査で脳梗塞が疑われたため, 当院へ転院となった. 当院で行った頭部MRIでは両側後頭葉白質に細胞性浮腫の所見を認めた. さらにMRAで特徴的な数珠状の血管れん縮像が確認されたことからRCVSと診断された. 視力障害は自然消退し, カルシウム阻害剤の投与開始で頭痛も徐々に軽減した. 頭部MRI, MRAでRCVSの所見は改善し退院となった. RCVS発症早期のpost labeling delay (PLD) を用いたMRI-arterial spin labeling (ASL) 灌流像で確認された, RCVS早期における末梢の微小血管のれん縮を反映する血流循環の遅延所見が, 本症例でのRCVSの診断にあたり有用であった.