脳と発達
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47 巻, 4 号
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巻頭言
総説
  • —ヘッジホッグシグナリングの新たな展開と小児神経疾患—
    藤井 克則
    2015 年 47 巻 4 号 p. 259-265
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/20
    ジャーナル フリー
     Primary cilia (一次繊毛) は有核細胞の小器官で, 外部に伸展する鞭毛様構造物である. 内部は多数の分子によって構成され, それらが遺伝的に欠如すると脳, 網膜, 腎臓, 四肢, 骨格奇形を中心とした先天性奇形症候群が発生し, これらは総称してciliopathiesと呼ばれる. 近年初期胚において形態形成に重要な役割をもつヘッジホッグシグナルがこのprimary ciliaを経由し, その構成分子の欠損により形態異常を来すことが判明した. Primary ciliaは脊椎動物の形態形成におけるシグナリングセンターであり, ciliopathiesは脳形成異常を始めとする小児神経疾患の理解と病態解明に重要である.
  • 竹内 芙実, 小牧 宏文
    2015 年 47 巻 4 号 p. 266-271
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/20
    ジャーナル フリー
     近年, Duchenne型筋ジストロフィー (Duchenne muscular dystrophy ; DMD) に対する治療薬の研究開発が盛んに行われている. しかし現時点では, DMDの筋症状への有効性が客観的に証明された治療薬はステロイド薬に限られる. DMDに対するprednisoloneの薬事承認, DMD診療ガイドラインの発刊により, 今後, 本邦でも本治療がより広く普及することが予想される. DMDにおけるステロイド治療の有効性には, 短期間の運動機能改善だけでなく, 歩行可能期間の延長, 側彎進行抑制, 心肺機能温存などの効果も認識されつつある. 一方で, 長期ステロイド治療による肥満や骨粗鬆症等の副反応も懸念され, 最適な投与方法, 投与開始時期, 投与期間に関する研究が現在も行われている.
原著論文
  • 松尾 光弘, 藤井 明子, 松坂 哲應, 馬場 啓至, 戸田 啓介, 小野 智憲, 田中 茂樹, 里 龍晴, 森内 浩幸
    2015 年 47 巻 4 号 p. 272-278
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/20
    ジャーナル フリー
     【目的】難治性てんかんに対するlevetiracetam (LEV) 長期効果の判定. 【方法】観察期間は18カ月以上2年以内とした. LEVを追加投与した76症例に対し, 50%以上発作が減少した症例の割合 (以下50%RR) と有害事象を後方視的に検討した. 【結果】全症例の50%RRは42%であった. 局在関連てんかん54例と全般てんかん20例の50%RRは, 各々42%, 35%で, 著効例は局在関連てんかんに多かった. 有害事象として, 焦燥感, 多動・衝動性の亢進が目立ち, それらは自閉症または, 注意欠陥/多動性障害 (AD/HD) 傾向を合併した例に多かった. LEV追加投与前にγ-GTPが高値であった17例で追加時1剤以上を減量することで, 14例でγ-GTPの改善が認められた. 【結論】LEVは, 難治性てんかんの治療に有用であり, 長期にわたる効果が確認された. また, 肝臓への負担増悪因子となる可能性は低い. 一方, 自閉症またはAD/HD傾向を合併した患者へ投与の際には, 精神・行動面での変化を注意深く観察することが必要である.
  • 長尾 秀夫, 岩永 学, 穐吉 眞之介
    2015 年 47 巻 4 号 p. 279-282
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/20
    ジャーナル フリー
     【目的】極低出生体重児 (VLBW児) の課題の一つである国語と算数の学習上の問題について, 学習習熟度テストの結果を基に検討した. 【方法】対象は10歳時にフォローできたVLBW児14名, 男6名, 女8名である. 在胎週数は平均27週6日, 出生時体重は平均988gであった. 学習習熟度テストは国語と算数の4年生修了段階の問題を外来の待ち時間に行い, 定型発達児 (TD児) と比較した. 【結果】国語の文章読解で自分の言葉で答える問題の正答率はVLBW児が42.9±51.4%, TD児が69.7±46.3%であった. 作文の正答率はVLBW児が28.6±46.9%, TD児が72.7±44.9%でVLBW児は低かった. 算数の計算法則では, 3つの数の計算の正答率はVLBW児が55.4±14.7%, TD児が66.3±15.5%であった. 文章題2問の正答率は, VLBW児が42.9±50.4%, TD児が52.9±50.1%であった. 【結論】VLBW児はTD児に比べて, 国語・算数共に文章理解に基づく思考を要する課題に困難があった. それぞれに対する教育支援のあり方を提案した.
  • 鈴木 浩太, 小林 朋佳, 森山 花鈴, 加我 牧子, 平谷 美智夫, 渡部 京太, 山下 裕史朗, 林 隆, 稲垣 真澄
    2015 年 47 巻 4 号 p. 283-288
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/20
    ジャーナル フリー
     【目的】自閉症スペクトラム (autism spectrum disorder ; ASD) 児・者をもつ母親において, 養育困難があるにも関わらず, 良好に適応する思考過程を養育レジリエンスと考えて, その構成要素を明らかにすることを目的とした. 【方法】16歳以上のASD児 (者) をもつ母親23名に半構造化面接を行い, 乳幼児期から現在までの子育てについて聴き取りを行った. 音声データから得られた逐語記録を元に修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて質的に分析した. 【結果】5つのカテゴリ, すなわち, ①意識, ②自己効力感, ③特徴理解, ④社会的支援, ⑤見通し, で構成される養育レジリエンスのモデルが想定できた. 発達障害児 (者) の養育において, 母親は親意識と自己効力感によって動機づけられ, 子どもの特徴理解を踏まえて対応策を考え, 社会的支援を活用し, 子どもの特徴や社会的支援に基づき成り行きを見通すことで, 子どもを取り巻く問題に対する適切な対処を導き出していると考えた. 【考察】理論の一般化には更なる検討が必要であるものの, 養育レジリエンスの概念を通してASD児 (者) をもつ母親を理解することが, 発達障害の医学的支援に欠かせない視点になり得ると考えられる.
  • 久場川 哲二, 古荘 純一, 磯崎 祐介
    2015 年 47 巻 4 号 p. 289-292
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/20
    ジャーナル フリー
     【目的】重度~最重度精神遅滞児 (者) の行動障害へのlamotrigine (LTG) の効果を検討する. 【方法】対象は, ①成人例を含めた重度もしくは最重度精神遅滞で, ②攻撃, 衝動性などの種々の行動障害があり日常生活に支障があり, ③抗精神薬の効果が不十分か副作用で使用できず, ④てんかん発作が残存しているか脳波でてんかん性異常波があり, ⑤LTGの投与を受けたことがなく, ⑥家族もしくは本人に同意が得られている, 10例である. LTGは少量から開始し1日50mgを上限とした. 家族および本人の診察を基に行動障害の改善度を判断した. 【結果】10例中7例で効果がみられ現在も継続投与中である. 投与中止した3例中2例においても, 気分に変化がみられた. 8例は1日10mg以下の投与量で効果が確認した. 症例の中で, 自ら薬の効果を実感したという1例を詳細に分析し, その要因を, LTG内服により, 現状認識が明確となることで, 相手の感情を予想することが出来るようになり, 批判や指示される前に, 自分の取りたい行動を表現することが出来るようになったためと推測した. 【結論】LTGは少量で, 精神遅滞児 (者) の行動異常を改善する可能性が示唆された.
  • 末田 慶太朗, 山崎 透
    2015 年 47 巻 4 号 p. 293-297
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/20
    ジャーナル フリー
     【目的】学童期の高機能広汎性発達障害 (PDD) の社会適応に関係する要因を検索するため, 幼少期の言葉の遅れの有無, PDD家族歴の有無, 知的能力, PDD特性, 現在の年齢, PDD診断をうけた年齢と, 現在の社会適応度の関連について検討した. 【方法】対象はPDD圏と診断された, intelligence quotient85以上の小中学生58人. 後方視的に診療録を調査, PDD特性は広汎性発達障害日本自閉症協会評定尺度で, 知的能力はWechsler Intelligence Scale for Children-Third Editionで, 現在の社会適応度は診療録を参考にchildren's global assessment scaleで評価した. 【結果】PDD診断時年齢と社会適応度が負の相関を示し, 社会適応度の良い群の診断年齢が有意に低かった. 【結論】早期診断されたPDDの学童期における社会適応度が高い.
  • 喜多 和子, 杉田 克生
    2015 年 47 巻 4 号 p. 298-303
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/20
    ジャーナル フリー
     【目的】Cockayne症候群患者由来細胞 (CS細胞) における酸化ストレス防御機能を調べるために, CS細胞の酸化ストレス負荷後の致死感受性と損傷DNA修復能力を解析した. 【方法】CS細胞として, 患者線維芽細胞から樹立されたCS3BES細胞 (CSA欠損) とCS1ANS細胞 (CSB欠損), 比較細胞として, 子宮頚癌由来HeLa細胞とヒト線維芽細胞由来RSa細胞を用いた. 酸化ストレスとしてX線照射と過酸化水素処理を行い, ストレス負荷後の細胞生存率を, コロニーサバイバル法とMTT (3- (4,5-dimethylthiazol-2-yl) -2,5-diphenyltetrazolium bromide) 法で調べた. DNA損傷と修復能力はコメットアッセイで解析した. 【結果】CS3BES細胞とCS1ANS細胞は, HeLa細胞およびRSa細胞に比べ, X線と過酸化水素による致死作用に対し高い感受性を示した. また, CS3BES細胞ではHeLa細胞に比べ, 過酸化水素あるいはX線による損傷DNAレベルがより高く, 修復能力は低下していた. 【結論】本研究結果は, CS3BES細胞とCS1ANS細胞はどちらも酸化ストレスに対し脆弱であることを明らかに示しており, CSAおよびCSBタンパク質がともに酸化ストレス防御に関わる可能性を示唆する.
症例報告
  • 保科 めぐみ, 日暮 憲道, 阿部 優作, 三島 博, 細矢 光亮, 中山 東城, 廣瀬 伸一
    2015 年 47 巻 4 号 p. 305-309
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/20
    ジャーナル フリー
     近年疾患概念が確立されたPCDH19関連てんかんは, 女児の難治てんかんの原因として重要な疾患である. 今回我々は特徴的な臨床経過から幼児期早期にPCDH19関連てんかんを疑い, 診断に至った1女児例を経験したので報告する. 症例は1歳9カ月女児. 生後5カ月時に焦点性発作が群発して出現し, 以降, 数カ月単位で発作群発を繰り返したが, 群発と群発の間には発作は出現しなかった. 発作は無熱時にも有熱時にも出現し, 1日に数10回以上と頻回であったが, 個々の発作の持続時間は数分以内と短かった. 発作は難治でありmidazolamの持続静注によって部分的には抑制されたが, 効果はしばしば不十分で, 群発は3日から2週間程持続した. 女児で乳児期に発症し, 焦点性発作の群発を繰り返すという特徴から, PCDH19関連てんかんを疑い, PCDH19遺伝子の解析を行ったところ, 2つのミスセンス変異が同定された. これらはこれまでに報告のない変異であったが, ともにタンパクレベルでの機能障害が予測される変異であり, 特徴的な臨床経過と併せPCDH19関連てんかんと診断した. 本症の病態や有効な治療法は未だ不明であり, 今後の研究成果が待たれるが, その特徴的な臨床経過と遺伝子異常により規定される「素因性てんかん」という特性から, 乳児期~幼児期早期に確実な診断が可能である. 本症を早期に診断することにより, 疾患特性に基づいた計画的な治療や適切な遺伝カウンセリングが可能となるため, 臨床的な有用性は高く, 小児神経診療に関わる医師は本症の特徴を理解しておくことが重要である.
短報
  • 小林 良行, 石川 暢恒, 藤井 裕士
    2015 年 47 巻 4 号 p. 310-312
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/20
    ジャーナル フリー
     【目的】小児の症候性てんかん患者における難治性てんかん性スパズムに対するtopiramate (TPM) の臨床効果及び安全性について検討する. 【方法】対象は, 他剤による治療抵抗性のてんかん性スパズムを呈した15例. 有効性及び副作用を中心に, 基礎疾患, 用量, 血中濃度, 併用薬剤について後方視的に検討を行った. 【結果】TPM開始時年齢は7カ月から7歳9カ月 (平均3.1歳) で効果を認めたのは7例 (47%) であった. その内訳は発作消失例が2例, 発作頻度減少率75%以上の著効例が1例, 発作頻度減少率50%以上の有効例が4例であったが, 2例で後に効果が減弱した. 治療効果と血中濃度の間に明らかな相関性は無かったが, 高用量で効果が認められる症例も存在した. 投与に伴う副作用は9例 (60%) で認めたが, ほとんどの症例で投与継続が可能であり, 副作用のため投与中止となったのは1例のみであった. 【結論】TPMは治療抵抗性のてんかん性スパズムに対して有効であり, 副作用の面からも忍容性が高く安全に使用できると考えられた. 至適用量についてはさらに検討が必要である.
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