小児では, 成人に比較してめまいの頻度はおよそ100分の1程度と報告されている. 成育医療研究センター病院の77例では片頭痛関連めまい (N=21), 良性発作性めまい症 (N=16), 片側前庭障害 (N=12), 心因性めまい (N=8) でありこの4疾患で74%をしめた. 7歳未満では良性発作性めまい症が, 7歳以上では片頭痛関連めまいが最多であった. 最も高頻度であった良性発作性めまい症の診断には頭痛の有無, 家族の片頭痛の有無, 乗り物酔いのしやすさなどが診断の助けとなる. 良性発作性めまい症と片頭痛関連めまいは移行することが知られている. 発作が頻発し, 発作に対する予期不安が強くなると不登校の原因となることがある. 早期に正確な診断, 治療を行う必要がある
注意欠陥・多動性障害 (attention deficit/hyperactivity disorder; ADHD) は, 近年症例数の増加に伴い, 均てん化された診断と治療や介入法の確立が急務となっている. 現状のADHD診断は質問紙などを用いて保護者から聞き取り, 問診や診察を通して下される. しかし質問紙は主観的な評価に基づいているため信頼性に乏しい. 従って客観的評価が可能な神経生理学的バイオマーカーの開発が重要と考える. 本稿は非侵襲的脳機能検査法のうち頭皮上脳波の周波数解析, 事象関連電位 (ERP) や近赤外線スペクトロスコピー (NIRS) の研究成果がADHD診断におけるバイオマーカーに活用可能であるかどうかをまとめた. その結果, ①覚醒安静時脳波でADHDのθ/β帯域パワー値の比率増大を診断に利用する試みがある一方, 信頼度に賛否がある点も事実である. ②ERPのうちP300, NoGo電位やmismatch negativityはADHDの診断や薬物効果判定に用いられている. ③NIRSは装着が簡単で, 特に前頭部皮質の計測が行いやすい. 幼児から学童の前頭葉機能評価に適しており, ADHDの認知特徴 (不注意, 実行機能) の評価に長けている. 以上のように, 脳波, ERP, NIRSはADHDの神経生理学的state markerとしての可能性があり, 診断補助, 重症度判定, 治療効果判定等に活用されると考えられる.
小児の神経系の発達, 小児神経疾患およびそれらの治療は多領域と密接な関わりがある. 今回は小児神経と特に関係が深い新生児, 内分泌, 脳外科, 栄養・消化器, アレルギーなどの最近の話題について言及する.
【目的】不登校児の発達特性と転帰に影響する因子を検討した. 【方法】2007年から2009年に当センターを受診した不登校児80名の発達障害や精神疾患の有無, 在籍学級, 転帰等を調査した. 【結果】不登校児の57%が広汎性発達障害や注意欠陥/多動性障害などの発達障害を, また24%が不安障害などの精神疾患を有していた. 87%が不登校になって初めて発達障害と診断された. 91%に睡眠障害や頭痛などの身体愁訴を認めた. 不登校となった誘因は複数混在し, 対人関係の問題を契機とする例が最も多かった. 1年後の転帰は完全登校48%, 部分登校26%, 不登校26%だった. 小学生は60%が完全登校に至ったが, 中学・高校生は41%に留まった. 1年後不登校の割合は, 発達障害をもたない児で42%であったのに対し発達障害を有する児では17%で, 特別支援学級へ転籍した児では1例もなかった. 【結論】不登校児は発達障害や精神疾患を背景に持つことが多く, 登校転帰の改善には発達特性の把握と教育的・心理的な支援が有用である可能性が示唆された.
【目的】重症心身障害児 (以下, 重症児) では, 様々な自律神経機能の異常が報告されている. 睡眠時の心拍変動から在宅重症児の睡眠時自律神経活動の特徴を調べた. 【方法】特別支援学校に在籍する重症児15名 (平均11.0±3.4歳) および定型発達児13名 (平均9.9±3.4歳) を対象とし, 体動量計と心拍記録計を用いて, 夜間の体動量と心拍変動を3日間測定した. 体動量から入眠・覚醒時刻を判定し, その時間帯の心拍変動から睡眠時のlow frequency (LF), high frequency (HF), LF/HFを算出した. また, 睡眠時間を入眠から覚醒まで2時間ごとに4つの時間帯に分け, それぞれの時間帯でのLF, HF, LF/HFの平均値を算出し, 時間経過による変化を定型発達児と比較した. 【結果】睡眠習慣については重症児と定型発達児に差はなかった. 重症児の睡眠時HFは, 定型発達児に比べて有意に低く, LF/HFは有意に高くなっていた. また, 睡眠時間全体を通して, LF/HFが定型発達児より有意に高かった. 【結論】夜間睡眠時の重症児の自律神経活動は, 睡眠時間全体を通して副交感神経活動の低下が見られ, 交感神経活動が優位な状態となっていた. 脳の器質的な病変に起因する中枢神経系の制御機構の未熟性や呼吸障害が要因となっている可能性がある.
急性散在性脳脊髄炎 (acute disseminated encephalomyelitis; ADEM) と診断・加療された後, gliomatosis cerebri (GC) と診断した10歳男児例を報告する. 9歳10カ月時, 長引く頭痛・嘔気を主訴に近医神経内科を受診した. 神経学的所見に異常はなく, 髄液検査にも異常所見を認めなかったが, 頭部MRI検査でびまん性に白質の異常信号を認め, ADEMと診断された. ステロイドパルス療法を3コース施行されたが, 症状は軽快・増悪を繰り返し, 白質の異常信号は残存した. 加療開始から1カ月後, 脳室の拡大傾向があり水頭症と診断され, 当院脳神経外科へ紹介され脳室腹腔シャント留置術を受けた. 術後は症状が一旦消失したが, 術後1カ月頃から症状が増悪し, 当科へ紹介された. 当科初診時は, 傾眠傾向で, 左注視時水平性眼振, 体幹失調を認めた. 頭部MRI検査ではT2強調画像 (T2WI), fluid-attenuated inversion recovery (FLAIR) 画像で側脳室から第四脳室にかけて脳室壁を裏打ちするように帯状の高信号域を認め, gadoliniumの造影効果は乏しかった. 開頭内視鏡下脳室内腫瘍生検を施行し病理検査でastrocytoma gradeⅢと診断され, 画像診断と合わせてGCと確定した. びまん性白質病変の鑑別診断として, GCは考慮する必要がある.
溶連菌感染による敗血症関連脳症と診断し, 後に頭部MRIで遅発性拡散能低下と著明な脳萎縮を呈した2歳女児例を経験した. 患児は発熱3日目にけいれん重積で発症した. 血液培養, 咽頭培養から溶連菌が検出されたが, 髄液培養は陰性だった. 入院時の血液検査では高度の肝機能障害と凝固障害が認められ, MRI拡散強調画像では大脳皮質, 白質, 基底核に高信号を示す小病変が散在していた. 急性脳症に対する集中治療を開始し, けいれんはすみやかに消失したが, 意識障害は遷延し, 重度の神経学的後遺症を残した. 第9病日のMRIではびまん性脳浮腫と白質を中心に遅発性拡散能低下が顕著に認められ, その後大脳は著明に萎縮した. なお血清, 髄液中のサイトカイン解析では, けいれん重積型急性脳症に類似した所見が得られた. 敗血症関連脳症は複数の病因が関与して発症するため, その臨床経過は多様である. 本疾患は予後不良であることが多く, 早期診断と病態に応じた治療が重要である.
臨床経過および特徴的なMRI所見から可逆性脳梁膨大部病変を有する軽症脳炎・脳症 (clinically mild encephalitis/encephalopathy with a reversible splenial lesion; MERS) と診断した2症例に対し, 急性期および回復期に脳梁膨大部をMR spectroscopyにて解析した. 2例ともにcholine/creatine比が回復期に比して急性期に高値となり, 髄鞘代謝に何らかの変化が生じていることが示された. みかけの拡散係数の低下が一過性であることと合わせ, MERSの病態として髄鞘浮腫が示唆された.
移植後や免疫抑制下にある児において, Epstein-Barr (EB) ウイルス感染症は時に重篤な病態を引き起こす. 症例は10歳男児. 若年性ネフロン癆による慢性腎不全のため7歳時に腎移植を受け, 免疫抑制薬を内服中であった. 入院1週間前から発熱があり, 2日前より筋痛が出現した. 血清クレアチンキナーゼの上昇が認められ, ウイルス性筋炎の診断で入院した. 入院時, 強い下肢痛を訴え, 歩行困難であった. 入院7日目に殿部と外陰部の知覚障害および排尿障害に気づかれ, 歩行障害と合わせて脊髄炎が疑われた. 髄液中のEBウイルスのコピー数の増加があり, MRIでは第8胸椎以下の脊髄にT2強調像で高信号域を認め, EBウイルスによる脊髄炎と診断した. Cyclosporineの減量と抗ウイルス薬, steroid, γ-globulin投与により, 両下肢の運動機能は回復した. 入院6カ月前の血清EBウイルスの抗体価は既感染パターンであり, EBウイルスの再活性化による脊髄炎と考えた. 免疫抑制状態の患者における脊髄炎では, EBウイルスの関与を考慮する必要がある.
6歳女児. 発熱・頭痛で発症 (第1病日), 第7病日に傾眠傾向とけいれんが出現し入院. 頭部MRI拡散強調画像では大脳皮質に広範囲の拡散制限を, 脳波では高振幅徐波と全般性あるいは多焦点性の棘徐波複合を認めた. 入院時より下肢間代発作や全身強直発作が群発し, 人工呼吸管理とした. 発作は治療抵抗性で, 第9病日にthiopental (TP) 持続投与を開始したところ, 臨床発作は消失した. TP開始後, 心機能悪化が懸念されたため他の抗てんかん薬を併用してTPの減量を試みた. しかし部分発作が再発し, 脳波も数十秒間連続する多棘波が5~10分間隔で出現する非臨床発作と考えられる所見となり, TP離脱は困難であった. 第24病日に24時間の絶食期間を経てケトン指数3 : 1でケトン食療法を開始したところ, 絶食開始24時間後には背景脳波活動の改善がみられ, ケトン食開始後は速やかに発作と脳波上の棘波が減少した. 第35病日以降, 発作は消失し第42病日にTPを終了した. 以上の経過より, 本症例はTPからの離脱にケトン食療法が有効であった難治頻回部分発作重積型急性脳炎 (AERRPS) と診断した. AERRPSでは抗てんかん薬の大量かつ長期間の経静脈投与を必要とし, 心機能を含めた臓器障害が問題となる. 抗てんかん薬経静脈投与からの離脱困難例においてケトン食療法は選択肢の一つであり, 輸液中の糖質制限が発作抑制に有効である可能性が示唆された.
重症心身障害分野でのボツリヌス毒素療法は他分野と比べて個別性が高く, ニードの多様性から治療目標があいまいとなり, 客観的な効果判定がおろそかなままの治療に陥りやすい. 今回我々は, 当施設で治療を行った19例, 延べ140回の施行による効果を後方視的に検討した. 当初は各症例のニードを設定せず治療を開始したため, 効果が明らかでなく中止せざるを得ない症例が多かった. 中止した例の反省を踏まえ, 多職種による視点で治療のニードを明確にし, それを達成するための標的筋を確実に設定してquality of life (QOL) の面から効果判定を行う方針に変更した. 毎月多職種カンファレンスを開催して1例ごとに検討した結果, 著明改善例も増え, 中止例はほぼみられなくなった. 本分野でのボツリヌス毒素療法においては, QOLの改善に結びつく明確なニードと標的筋を設定したチーム医療が必須であると考えられた.