分析化学
Print ISSN : 0525-1931
50 巻, 5 号
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分析化学総説
  • 植木 眞琴
    2001 年 50 巻 5 号 p. 287-300
    発行日: 2001/05/05
    公開日: 2009/02/06
    ジャーナル フリー
    スポーツドーピングや法医学・裁判科学の分野ではしばしば目的とする化学物質の由来が問題になる. 複数の同一分子種の由来が同じであるか否かを調べる異同識別の方法には, 原末の場合には合成過程で混入する微量の原料物質・副生物や触媒などの組成を調べる方法がある. また, 生体試料の場合には, 健常者のデータとの統計的な比較によって, 生理的にはあり得ない数値であることを立証する間接的な手法が用いられてきた. 近年GCと同位体比質量分析計との接続によって, 個別分子の同位体比を連続的に測定できるようになり, ステロイドホルモンのキャラクタリゼーションにも用いられるようになってきた. 食物中の動物性コレステロールと植物原料から合成される医薬品ステロイドとの間には, 炭素の安定同位体比に有意の差があるため, 炭素同位体比を調べることによって, 観察された異常が生理的なものであるかドーピングによるものであるかを区別することができる. ここではタンパク同化ステロイドと成長ホルモンなどを例に, ドーピング検査で用いられている最近の異同識別の手法について考察する.
報文
  • 伊藤 貴志
    2001 年 50 巻 5 号 p. 301-308
    発行日: 2001/05/05
    公開日: 2009/02/06
    ジャーナル フリー
    β-ジケトン型キレート抽出剤1,1,1,2,2,3,3-ヘプタフルオロ-7,7-ジメチル-4,6-オクタンジオン (FOD) のn-デカン溶液を含浸したテフロン製のメンブランフィルター膜によるランタノイド (III) イオン (Ln3+; La3+, Pr3+, Nd3+, Eu3+, Er3+, Lu3+) の上り坂輸送における, 外部溶液 (供給相) のpH及び液体膜へのルイス塩基添加の影響を検討した. 外部溶液のpHの上昇もしくは液体膜中のルイス塩基濃度の上昇に伴い, Ln3+の輸送速度は大きくなった一方で, Ln3+間の分離は悪くなった. その際, 疎水性の高い二座ルイス塩基である4,4'-ジオクタデシル-2,2'-ジピリジル (DODpy) を添加した場合には, 一座ルイス塩基であるトリオクチルホスフィンオキシド (TOPO) を添加した場合と比べ, 軽希土イオン-重希土イオン間の分離能の低下を抑えることができることが分かった. ルイス塩基を添加したときに観測されたこれらの効果は, 液体膜中におけるLn3+のβ-ジケトナトキレートとルイス塩基との間の付加錯体形成により説明できた.
  • 滝埜 昌彦, 代島 茂樹, 山口 憲治, 中原 武利
    2001 年 50 巻 5 号 p. 309-317
    発行日: 2001/05/05
    公開日: 2009/02/06
    ジャーナル フリー
    河川水中, 農薬類の一斉分析法として液体クロマトグラフィー/大気圧イオン化-質量分析 (LC/MS) 法を検討し, 高選択的高感度検出のための最適条件を見出した. ODSカラムを用いた逆相分配系のLC条件で1) LC/MSで使用可能な移動相条件, 2) 正, 負イオン同時測定条件, 3) カラムスイッチング法等の検討を行った. その結果, エレクトロスプレー (ESI) 法を用い, 移動相に0.1%酢酸水溶液を用いた正, 負イオン同時測定法により, オキシン銅は2-オキソキノリンに変換して測定したが, この化合物を含めて12種類の農薬の一斉分析法を開発した. 試料はカラムスイッチング法を使用することにより直接濃縮用カラムに注入し, 試料中の妨害物質を除去後, 目的の農薬類を分析用カラムで分離しESI法で検出を行った. 河川水10mlに各農薬類を100及び1000pg添加し得られた回収率は83.4~109.4%で, 繰り返しの再現性 (n=5) は相対標準偏差で1.3~7.1%であった. また, 標準添加試料の標準偏差の3倍で定義した検出限界は0.7~2.1pg/mlであった. 以上のことから本法が微量の農薬類の分析に煩雑な試料前処理を必要としない極めて簡便で有用性の高い方法であることを実証することができた.
技術論文
  • 傘 郁子
    2001 年 50 巻 5 号 p. 319-327
    発行日: 2001/05/05
    公開日: 2009/02/06
    ジャーナル フリー
    ナノモルオーダーの糖鎖で測定が可能な600MHz一次元 (1D) 1H-NMRとH-H COSYスペクトルのみを使って, 糖鎖骨格のすべてのプロトンを解析する方法を開発した. 糖鎖は構造の類似した単糖が幾つか結合した構造であるために, δ2~4ppm付近に多くのプロトンピークが重なり合い, 従来1D 1H-NMRスペクトルとH-H COSYスペクトルのみでの全解析は非常に困難であった. 本方法では次の三つの条件を設定することにより, 糖鎖の1H-NMRスペクトル全解析を可能にした. 1. AMX型の分裂パターンは, 分裂線の中心線で対称である. 2. 重なり合ったピークに含まれる多重度は, トリプレットからオクテット (dd-ddd) の範囲である. 3. 糖鎖を構成している構成単糖のコンホメーションは, それに相当する単糖誘導体のコンホメーションと類似している. この条件を使った解析プログラム (言語: FORTRAN77) を開発し, 腫瘍マーカーの一つであるT抗原 (Galβ1-3GalNAc) 誘導体の解析を行った.
  • 善木 道雄, 田中 修平, 岩藤 祐子
    2001 年 50 巻 5 号 p. 329-333
    発行日: 2001/05/05
    公開日: 2009/02/06
    ジャーナル フリー
    定量分析においては, 試薬は過剰に用いられ, 通常1回の測定で廃棄を余儀なくされている. Fe (II)-1,10フェナントロリン (o-phen) 系をモデルとして, 過剰試薬の繰り返し利用を目的とした循環式FIAについて検討した. 一流路系の循環式フローシステムを組み立て, ベースラインの上昇とピーク高さ (感度) の増減に関して, 試薬溶液量, Fe (II) 濃度, o-phen濃度及び試料注入量の影響について調べた. 典型的な例として, 試薬溶液量250ml, o-phen濃度0.1%で, Fe (II) 5ppm標準溶液100回程度の連続定量が容易にできることを示した. また, 本システムは, 長時間運転及びウォーミングアップが短時間で済むので緊急時の測定にも適している.
  • 鈴木 康弘, 笠松 正昭, 鈴木 真一, 大橋 和夫, 川瀬 晃
    2001 年 50 巻 5 号 p. 335-339
    発行日: 2001/05/05
    公開日: 2009/02/06
    ジャーナル フリー
    誘導結合プラズマ発光分析法を利用して亜ヒ酸に含まれる微量不純物の多元素同時定量を行い, 分析値の比較による異同識別を試みた. 亜ヒ酸約250mgを精ひょうした後ビーカーに採取し, 濃塩酸5mlを加えて加熱した. これに濃硝酸0.5mlを滴下して穏やかに加熱し, 亜ヒ酸を完全に溶解させた後, 純水で25mlに希釈して測定用試料溶液を調製した. 不純物元素の定量には, 試料溶液と酸濃度が等しくなるように調製した, 多元素混合標準溶液を検量線として用いた. 本法の検出下限値は0.3~1.3μg/gであり, 市販亜ヒ酸中に15~120μg/g程度含まれるSe, Sn, Sb, Pb及びBiの5元素を, RSD5.5~0.9%の精度で定量することが可能であった. 本法によるSb及びPbの定量値は, JIS法で前処理を行った場合と良好な一致を示した. 本法を由来の異なる亜ヒ酸14点の分析に応用した結果, 同一試料内での分析値の変動は異なる試料間の差異と比較して十分に小さく, 分析値の比較は亜ヒ酸相互の異同識別に有効であった.
ノート
  • 南谷 嘉晶, 糠塚 いそし, 大関 邦夫
    2001 年 50 巻 5 号 p. 341-344
    発行日: 2001/05/05
    公開日: 2009/02/06
    ジャーナル フリー
    A simple, rapid and highly sensitive method was developed for the determination of trace amounts of ammonia. The method is based on the following steps: (1) ammonia is oxidized to nitrite ion with sodium hypochlorite in the presence of potassium bromide in an alkaline media; (2) the effect of remaining hypochlorite is masked by the addition of acetone; (3) the ion is reacted with sulfanilamide and N-1-naphthylethylenediamine in an acidic media; (4) the resulting reddish-purple compound is concentrated and fixed on a finely ground cation-exchange resin by batch operation; (5) the resin particles are filtered through a membrane filter in the presence of Zephiramine, leaving a colored thin-layer disc on the filter; and (6) the absorbance of this thin layer is measured directly with a spectrophotometer (545 nm). A calibration graph of good linearity was obtained up to 1.0 μg ammonia in a 10 ml of sample solution when the resin phase absorbance was measured against a resin thin layer, while linearity up to 0.8 μg of ammonia was obtained when the resin-phase absorbance was measured against a membrane filter. The detection limit was 5.3 ng (n=5) and 24.0 ng (n=5) in a 10 ml sample solution, respectively. The proposed method was applied to the determination of ammonia in a riverwater sample. Recoveries of 93.6∼107% were obtained.
  • 善木 道雄, 吉田 正, 大岩根 美琴, 中村 美樹
    2001 年 50 巻 5 号 p. 345-347
    発行日: 2001/05/05
    公開日: 2009/02/06
    ジャーナル フリー
    A simple solid-phase colorimetry for the determination of alkylbenzenesulfonate (ABS) has been proposed. Methylene Blue (MB) reacts with ABS to produce an ion-associate, which is adsorbed onto a flexible polyurethane foam (PUF, polyether type; density, 20 kg/m3; hardness, 11.5 kgf). The color intensity of the foam-adsorbed MB-ABS complex was proportional to the ABS concentration, and thus the concentration of ABS could be determined by both visual and tristimulus methods. The recommended procedure is as follows. Five ml of 1M acetate buffer solution (pH 5.0) and 10 ml of 1.0×10-3 M MB were added to a 200 ml sample solution containing less than 0.8 ppm of ABS. A chip of PUF (2×2×2 cm) was put into the solution and stirred with a magnetic stirrer for 15 minutes. The chip taken up from the solution was rinsed with distilled water to remove any excess MB. The color intensity was measured by tristimulus colorimetry with a calibration curve, together with a visual measurement, followed by the standard series method. The proposed methods were applied to the determination of ABS in pond and river-water samples.
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