分析化学
Print ISSN : 0525-1931
45 巻, 9 号
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  • 小林 憲正
    1996 年45 巻9 号 p. 811-824
    発行日: 1996/09/05
    公開日: 2009/05/29
    ジャーナル フリー
    地球上の生命の起源は,原始地球もしくは地球圏外において単純な分子が複雑な分子へと"進化"して,やがては生命の特徴である代謝能,自己複製能を有する分子集団が誕生したとする"化学進化仮説"により説明されようとしている.この仮説の検証のために,原始地球や地球圏外環境を模した室内実験や,地球化学的試料や地球圏外物質の分析が1950年代以降行われてきた.これらの研究においては,反応生成物や宇宙地球化学試料中に含まれる有機物,特にアミノ酸や核酸関連分子などの生体有機物の極微量分析が必要な場合が多く,その発展のためには分析化学の進歩が不可欠であった.本総説においては,これまでの化学進化研究とそこで用いられた分析化学に関して文献を紹介し,今後の分析化学の役割についても展望する.
  • 小田 淳子, 市川 省吾, 森 忠繁
    1996 年45 巻9 号 p. 825-835
    発行日: 1996/09/05
    公開日: 2009/05/29
    ジャーナル フリー
    キャピラリーGC/MSを用いて,大気粉じん中の縮合環2環式のナフタレンから7環式の3,4,8,9-ジベンゾピレンまで30種の多環芳香族炭化水素(PAH)を定量する方法を検討した.環境大気中に存在する他の未知PAHの同定法は,質量スペクトルと標準品のリテンションインデックス(PTRI)値を用いて行った.石英繊維濾紙に捕集した粉じんからベンゼン/エタノール(4:1)でPAHを超音波抽出し,5%含水のシリカゲルカラムクロマトグラフィーを使って30%ベンゼン/ヘキサン40mlでクリーンアップした.そのときの回収率はフェナントレンの質量数(MW)以上のPAHで68%以上であった.5地点で採取した環境大気粉じん22試料についてPAH20物質を定量した結果,極めて類似したPAHプロフィルが得られ,これは採取地点の濃度の差に依存しないことが明らかになった.PAH30種のPTRI値は,メチルシリコン系キャピラリーカラム4種類で測定した場合の相対標準偏差(RSD%)が0.6~1.4%であったことから,異なったGC条件下でもよく一致していた.GC/MSに注入した標準品の質量スペクトルとPTRI値を用いて大気粉じんの抽出物から2~7環式のアルキルPAHと含硫黄複素環化合物を含む92物質を同定した.質量スペクトルとPTRI値の組み合わせによるGC/MS測定法は,環境試料のPAH分析に有用であることが明らかになった.
  • 一ノ木 進, 山崎 満, 大村 美由紀, 永井 里佳
    1996 年45 巻9 号 p. 837-844
    発行日: 1996/09/05
    公開日: 2010/01/15
    ジャーナル フリー
    Cd,Ni,Pb,Zn,Cu,Hg,Co及びBiイオンをヘキサメチレンジチオカルバミン酸キレートとして,オンラインでミニカラム(C18)に濃縮した後に分析カラムで分離し,紫外検出する方法を自動化するための種々の実験条件を検討し,最適分析条件を確立した.本法を米国NISTの生体標準試料Bovine Liverに適用した.乾燥した試料の100mgを,硝酸と過塩素酸を用いて湿式灰化し,使用した酸を蒸発乾固した後,残留物を希塩酸に溶解し,その一定量をHPLC分析に用いた.最適化した自動HPLC法によって,標準液系列を調製しながら検量線を作成し,次に試料溶液を測定した.その結果Bovine Liver中のZnとCuが検出されたが,ほかのCd,Niなどは検出できなかった.本法による定量結果は,Zn 124±2,Cu 156±3μg/gとNISTの保証値(Zn 123±8,Cu 158±7μg/g)とよく一致し,繰り返し再現精度(n=8)も約2%と良好であった.
  • 渡辺 邦洋, 富沢 之貴, 板垣 昌幸
    1996 年45 巻9 号 p. 845-850
    発行日: 1996/09/05
    公開日: 2009/05/29
    ジャーナル フリー
    Al(III)-ルモガリオン錯体の蛍光強度が,非イオン界面活性剤の共存下で増大する現象を,蛍光寿命や無放射遷移の速度定数から検討した.非イオン界面活性剤を共存させると,無放射遷移の速度定数は約1/3に減少したが,蛍光放射の速度定数は変化しなかった.無放射遷移の速度定数が減少するのは,Al(III)-ルモガリオン錯体がミセルに取り込まれ,蛍光消光物質であるバルクの水分子から隔離されるためであった.又,非イオン界面活性剤を含む水溶液は,曇点以上に加熱すると水相と界面活性剤相に分離する.この現象を利用したAl(III)-ルモガリオン錯体の濃縮と蛍光定量法を検討した.本法によるAl(III)の検出限界は0.05ppbであった.
  • 渡辺 邦洋, 小松 貴司, 板垣 昌幸
    1996 年45 巻9 号 p. 851-857
    発行日: 1996/09/05
    公開日: 2009/05/29
    ジャーナル フリー
    同時正逆抽出法を用いてアルカリ溶液から重金属の回収を効果的に行うためには,逆抽出条件が大きく影響する.そこで逆抽出条件の中でも重要な逆抽出速度とかき混ぜの効果について検討した.逆抽出にはCu(II),Mn(II),Ni(II)のPANによる金属錯体を用いた.逆抽出剤はEDTA及びHNO3を使用した.反応速度は高速かき混ぜにより界面積を増大させると増加した.それによる反応速度の増大分を界面の寄与分とした.本報では反応速度をバルクと界面の寄与分に分けて考え,バルクの速度定数,界面の条件速度定数,界面の寄与分を求めた.バルクの速度定数はEDTAによる置換速度定数が銅,マンガンそれぞれ3.7×103,5.2M-1s-1で,HNO3による解離速度定数が銅,マンガン,ニッケルそれぞれ4.5×102,5.2×103,2.9×10-1M-1s-1であった.又,界面の寄与分はEDTAよりHNO3のほうが大きかった.
  • 伊藤 純一, 小俣 雅嗣, 近藤 嘉宏
    1996 年45 巻9 号 p. 859-863
    発行日: 1996/09/05
    公開日: 2010/01/15
    ジャーナル フリー
    微量のCu(II),Ni(II),Co(II),Cd(II)を細かく粉砕したキレックス100樹脂に吸着させ,これを直径4mmのニトロセルロース製のミクロメンブランフィルター(以下MMFと略記)上に捕集した後,そのまま黒鉛炉の中に導入して灰化,原子化を行う高感度なAAS法について検討した.これらの金属イオンはほぼ完全にMMF上に濃縮でき,少量の試料(5ml)でCu(II),Ni(II),Co(II)についてはサブppbレベルの,Cd(II)についてはpptレベルの定量法が確立できた.検出限界(3σ)は,Cu(II)が45,Ni(II)が95,Co(II)が30,Cd(II)が0.95pptであった.本法を用いて海水中のCu(II),Ni(II)及びCd(II)の定量を行った.
  • 岡本 利光, 磯崎 昭徳, 長島 潜
    1996 年45 巻9 号 p. 865-871
    発行日: 1996/09/05
    公開日: 2009/05/29
    ジャーナル フリー
    吸着性及び耐久性の面で優れたカーボン充てんカラムを用いたICによって,外用医薬品及び化粧品用色素中の微量塩化物,臭化物及び硫酸塩の定量を行った.Acid red92など,8種実試料の塩化物,臭化物及び硫酸塩の測定結果は,それぞれ4.3,1.4及び0.4%以下であり,"医薬品等に使用することができるタール色素を定める省令"で定められた限度値以下であった.又,酸素フラスコ燃焼法によって,総臭素及び総硫黄を定量し,純色素含量を求めたところ,省令による滴定法,又は重量法の値とよく一致した.カーボン充てん剤の吸着性を利用して,前処理カートリッジに捕集できなかった色素をカラム内に捕集し,前処理法を補い,かつサプレッサーの劣化を防ぐことができた.更に,数か月に一度,アセトニトリルを用いてカラム内の色素を溶出,洗浄することによって,約1年間にわたり精度よく測定することができた.
  • 山本 収陽, 松田 秀幸, 広川 吉之助
    1996 年45 巻9 号 p. 873-877
    発行日: 1996/09/05
    公開日: 2009/05/29
    ジャーナル フリー
    オージェ電子分光装置を用いてアルミニウム又はマグネシウム基板上に金属薄膜を蒸着した試料に対して,膜側から電子線を照射し光電子を測定する実験を行った.十分薄く薄膜を蒸着した基板に対して,薄膜側から電子線を照射すると基板から特性X線が発生し,そのX線により薄膜原子が励起されて光電子が発生する.その結果Al基板上の種々の金属からの光電子スペクトル(Au4f,Ag3d,Mn2p,Bi4f,Bi4d,Cls,Pb4f,Pb4d,Sn3d)を得ることができた.更に試料中で起こる現象を考察し光電子の強度式を提案した.この式を用いて合金試料に対して光電子ピークで定量分析を行った結果,相対感度係数法での定量値と比較的よく一致した.更にMg基板上のCuとCuOに対しては化学シフトとサテライトピークを検出することができた.又,本法での空間分解能は通常のXPS分光器よりも優れていることが分かった.
  • サイズ排除クロマトグラフィーによる高分子平均分子量の共同測定(第4報).
    森 定雄, 高山 森, 後藤 幸孝, 永田 公俊, 絹川 明男, 宝崎 達也, 矢部 政実, 高田 加奈子, 杉本 剛, 清水 優, 長島 ...
    1996 年45 巻9 号 p. 879-885
    発行日: 1996/09/05
    公開日: 2009/05/29
    ジャーナル フリー
    第2回ラウンドロビンテストにおいて,数平均分子量の相対標準偏差が高い値になった理由として,ベースラインの設定の問題が考えられた.ベースライン設定には,(1)ポリマーピークの始点と溶媒起因ピークの終点を直線で結ぶ方法,(2)ポリマーピークの始点とポリマーピークが出終わり,溶媒起因ピークが出始める間の最低位置との間を結ぶ方法,がある.(1)又は(2)を採用した測定機関を別々の群とし,示差屈折計で得られた数平均分子量の値から測定上の問題のあるデータを除いた後のそれぞれの相対標準偏差を求めたところ,(1)では5.2~7.1%,(2)では7.3~9.3%と著しく改善されることが見いだされた.又,(2)の方法で得られた数平均分子量計算値は(1)の方法で得られた値の1.13~1.23倍であった.ベースラインの設定法を統一することは良好な相対標準偏差を得るために不可欠であると言える.理想的には(1)のような設定が望ましいが,溶媒起因ピークの妨害やカットオフ分子量の設定値の問題などにより,測定値のばらつきが大きくなる傾向が認められた.カットオフ分子量を2500~3000と大きくする必要がある.この点,(2)のようなベースラインの設定は問題点が少ないが,反面,低分子量部分を無視することになる.
  • 森 茂之, 赤崎 勝彦, 松本 義朗
    1996 年45 巻9 号 p. 887-893
    発行日: 1996/09/05
    公開日: 2010/05/07
    ジャーナル フリー
    標準物質が市販されていないβ型Ti合金の開発を支援するため,ファンダメンタルパラメーター(FP)法による蛍光X線分析の適用性を検討した.すなわち,測定強度を理論強度に換算する際に各分析元素ごとに装置感度を求めることを特徴とするFP法を用い,未知試料ごとに最適な標準物質を既存の標準物質から選択する基準を求めた.その結果,標準物質と未知試料の含有率比が添加元素で0.4~9,不純物元素で0.4~2000の範囲内にある既存のα又はα+β型Ti合金の標準物質を用いることにより,添加元素,不純物元素がそれぞれ±7%,±13%の分析誤差で定量可能となった.
  • 陶 世権
    1996 年45 巻9 号 p. 895-896
    発行日: 1996/09/05
    公開日: 2009/05/29
    ジャーナル フリー
    Novel methods for sample introduction in inductively coupled plasma atomic emission spectrometry were developed by combining chemical reactions and low-temperature electrothermal vaporization. Analytes in samples of complex matrices were transformed to volatile compounds through in situ alkylations or chelating reactions and vaporized successively at comparatively low temperatures into the plasma. Since both the formed alkylmetals and the alkylating agents used in this work are sensitive to water and air, reaction systems which are free from water and air were established. By these approaches, introduction efficiency of nearly 100% was achieved for all the elements examined. Moreover, since the formation and vaporization of the volatile species were carried out at temperatures lower than the melting points of most inorganic materials, most coexisting metal ions did not interfere with the determinations. Analytical results for beryllium, cadmium, chromium, vanadium and zinc in various standard reference samples by the proposed methods certified the validity of these methods in practical applications.
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