分析化学
Print ISSN : 0525-1931
72 巻, 4.5 号
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総合論文
  • 中川 公一
    原稿種別: 総合論文
    2023 年 72 巻 4.5 号 p. 147-153
    発行日: 2023/04/05
    公開日: 2023/05/05
    ジャーナル フリー

    X-バンド(9 GHz)電子スピン共鳴(ESR)イメージング装置の改良を行い,皮膚がんのメラノーマに含まれるメラニンラジカルの検出と解析を行った.加えて,メラノーマなどの非侵襲計測に向けた新しい検出器の開発も行い,メラノーマに内在するメラニンラジカルの非侵襲計測の足掛かりを確立した.結果,悪性度の高いメラノーマにフェオメラニンのラジカルの寄与があることやイメージングの画像強度はメラノーマの病期進行とともに強くなることを見いだした.フェオメラニンのラジカルは,得られたスペクトルの超微細結合定数の解析から判定した.また,ほかのメラニンが関与する皮膚疾患では,疾患部位の黒化度とESR強度によい相関関係があることを見いだした.メラノーマの場合,ユーメラニンとフェオメラニンのラジカルの寄与がありより強いESR信号を出したことから,この相関関係からずれた.さらに,誘電体を用い新たに試作した検出器の感度を格段に上げて,パラフィンに包埋されたメラノーマにフェオメラニンラジカルがあると確認できた.

  • 森内(川上) 隆代, 藤森 啓一, 平原 将也, 浦濱 圭彬
    原稿種別: 総合論文
    2023 年 72 巻 4.5 号 p. 155-165
    発行日: 2023/04/05
    公開日: 2023/05/05
    ジャーナル フリー

    特定のイオンを選択的に認識し,その応答性を電気化学信号もしくは光信号で示すことができる認識化合物は,センサへの利用が期待されるイオン感応物質として特に着目される.ごく微量で高い性能が期待されるイオン認識化合物の分子設計において,イオン捕捉に適した分子構造は重要となる.本総合論文では,1分子で2 : 1錯体同様のイオン捕捉が可能なビス型誘導体や,正三角形に導入された配位性置換基で分子内包するようなイオン捕捉が可能なC3対称性椀型(わんがた)誘導体などにおいて著者らが行った分子設計を,分子軌道計算を使った事例を含めて紹介した.分子構造と電子状態の両方が影響することは,鞍型(くらがた)誘導体の密度汎関数法計算を例に示した.加えて,イオン選択性電極の性能に影響する因子についてまとめた.また,認識変化に利用できる物性ついても取り上げた.そして,電極膜の違いや変化の評価法として有効であった1H核磁気横緩和時間T2測定についても述べた.

報文
  • 大島 俊文, 中山 魁, 髙林 久美子, 岩木 実里, 宇部 那菜, 中島 章裕
    原稿種別: 報文
    2023 年 72 巻 4.5 号 p. 167-173
    発行日: 2023/04/05
    公開日: 2023/05/05
    ジャーナル フリー

    レクチンで高分子多糖類をサンドイッチするEnzyme-Linked Lectin Assay(ELLA)により,高分子多糖類の新規定量技術を開発した.本法は,96ウェルマイクロプレートに固相化したレクチンと高分子多糖類を反応させたのち,酵素標識レクチンを反応させ,酵素反応により比色する特異性の高い方法である.本法により,グアーガムが0.1〜3 μg mL−1の範囲で,Lactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricus OLL1073R-1(R-1)株由来菌体外多糖(EPS)が0.2~1 μg mL−1の範囲で検出可能であった.除タンパク質処理したR-1株培養液のEPSの定量においては,添加回収率は97〜99% であり,分析精度は併行精度6.2%,室内再現精度6.8% であった.以上の結果から,本法によるEPS定量法は良好な分析能を示すことが確認され,さらに優れた操作性を持つことから,種々の高分子多糖類の定量への応用が期待される.

  • 大坂 雄一郎, 小野里 磨優, 西垣 敦子
    原稿種別: 報文
    2023 年 72 巻 4.5 号 p. 175-181
    発行日: 2023/04/05
    公開日: 2023/05/05
    ジャーナル フリー

    本研究では,千葉県市原市養老川河口干潟に点在する黒色で粘性のある底質(還元有機泥)中の多環芳香族炭化水素(PAHs)の定量を,ガスクロマトグラフ─質量分析計を用いて行い,周辺底質(砂泥質)との比較を行った.還元有機泥は,養老川河口干潟全体の底質表層から深層まで,広範囲に分布し,砂泥質の4から7倍高濃度のTotal PAHs(201〜358 μg kg-dry−1)を含んでいた.目視による観察と粒度分析及び炭素の安定同位体比分析より,還元有機泥は陸上植物由来であることが分かり,養老川上流部から豊富に供給される落葉が,河口の干潟で還元的に分解され生成したと考えられた.また,還元有機泥中には,ペリレン(Pery)が51〜80 μg kg-dry−1と,砂泥質の約15から24倍高濃度に存在することが分かった.植物片の分解度が高い還元有機泥ほど,Total PAHsに対するPeryの含有率が高くなり,検出されたPeryの多くは,植物片の分解過程で底質環境中に負荷されたと考えられた.

  • 邑岡 美嘉, 橋本 真梨子, 岡崎 真優, 上野 茉莉, 川畑 公平, 西 博行
    原稿種別: 報文
    2023 年 72 巻 4.5 号 p. 183-190
    発行日: 2023/04/05
    公開日: 2023/05/05
    ジャーナル フリー

    抗酸化作用を有し,医薬品以外にもさまざまな用途で広く使用されているアスコルビン酸(vitamin C,VC)は,溶液中では不安定で光暴露によりさらに分解が加速される.このVCなどの水溶性ビタミン類のHPLC分離法として,近年,緩衝液とこれと混和する有機溶媒(例えばアセトニトリル)を高比率で用いる,親水性相互作用クロマトグラフィー(HILIC)が注目されている.本報では4種類のHILICカラムを用いたVCを含む水溶性ビタミン類7種の分離検討に基づき,VCとその異性体エリソルビン酸,安定化VCであるアスコルビン酸2-グルコシド(VC-Glu)が完全分離する条件を選択し,VC-Gluを内標準とするVC迅速定量法を開発した.この定量法を用いて開封後のUV照射におけるVC医薬品の4剤型,VCを含む清涼飲料中のVCの光安定性の評価を行った結果,散剤で若干の,また,飲料水では大幅なVCの含量低下が起こり,留意が必要であることが明らかになった.

アナリティカルレポート
  • 則武 彩乃, 眞貝 孟, 舌古 裕美子, 岩瀬 勝則
    原稿種別: アナリティカルレポート
    2023 年 72 巻 4.5 号 p. 191-196
    発行日: 2023/04/05
    公開日: 2023/05/05
    ジャーナル フリー

    導電性カーボンナノチューブ(CNT)ファイバーは,軽量電動モーターを実現するためのキー材料として注目されている.その導電性はCNT長さに依存することから,試料とするCNT長さの分布把握が重要となる.従来,SEM画像からのCNT長さの測定は主に手動で行われてきた.そのため,作業時間とその繰返し性に課題を抱えていた.本稿では,CNT長さの測定に画像解析プログラムを取り込むことで,手動測定が抱える課題解決に取り組んだ.採用した画像解析プログラムは,オープンソースプログラムを組み合わせた三つのプロセス(バックグラウンド,二値化及び骨格化)から構成される特徴を持つ.検討の結果,十分に分散したCNTを多く含む試料の長さの測定では,作業時間の短縮と繰返し性の向上を実現したうえで,手動でのそれと同等な長さ測定が可能であった.

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