アンチモンが共存する場合およびヒ素が共存する場合に,EDTAを用いる銅の電解定量法について検討した.アンチモン(III)と銅が共存する場合は,モル比で両金属の2倍以上のEDTAと,塩酸ヒドロキシルアミン,硝酸アンモニウムを含む溶液のpHを3.1前後に調節し,60~70℃で,陰極電位を一定に保って電解する.このとき.陰極電位を-0.40V(対S.C.E.,以下同じ)とすれば,15mgのアンチモンの共存が許され,-0.38Vとすれば,37mgのアンチモンの共存時に銅を定量できる.ヒ素(III)と銅が共存する場合は,上と同様にEDTAなどを加えて溶液を調製して定電位電解すると,陰極電位が-0.36~0.41Vであれば,1mgのヒ素が共存しても銅の定量値に正誤差をあたえる.陰極電位を-0.33Vとすれば,24mgのヒ素の共存が許されるようになるが,電解時間が非常に長くかかる.ヒ素を酸化して完全にヒ酸塩とすれば定電位電解法によらなくても,浴電圧を限定する普通の電解法で銅を分離定量できる.電着銅はどの場合でも非常に光沢がよく美しい.
EDTA(エチレンジアミンテトラ酢酸)は各種の金属とそれぞれの金属に応じた特有のpHで非常に安定な錯イオンをつくるので,分析化学の各部門において広く用いられており,EDTAを用いる分析法の研究報告は非常に多く,それについての総説および著書も多数出ているが,電解重量分析にはほとんど利用されていない.
著者はEDTAとの錯イオン生成を利用して,各種金属の電解重量分析および電解分離を試み,まず銅の電解定量を行って非常に光沢のよい,定量的な電着を得ることができた.ついで電解分離が非常に困難であるといわれているビスマスと銅の分離をEDTAを用い,自動定電位電解法によってなし得た.しかも多量のビスマス共存時に銅の分離を行い得ることを認めたので,これを両金属のEDTA錯イオンのボーラログラフ的挙動の研究結果とともに発表した.
本報告ではひきつづいて行っているEDTAを用いる電解分析の研究のうち,アンチモン共存時およびヒ素共存時における銅の定量法を検討した結果について述べる.
アンチモンとEDTAの錯化合物については,そのポーラログラフ的挙動が述べられているほかはあまり調べられていない.V価のアンチモンはEDTAと安定な錯イオンをつくらないで,すぐに沈殿する.本実験ではEDTAと錯イオンをつくると考えられるアンチモン(III)の共存が銅の電解定量にあたえる影響について研究した.
EDTA溶液におけるヒ素の挙動については研究報告がない.本実験では,ヒ素(III)の共存が銅の電解定量にあたえる影響について調べ,その妨害除去の方法について検討した.
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