分析化学
Print ISSN : 0525-1931
65 巻, 8 号
若手研究者の初論文特集
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
報文
  • 古川 真衣, 勝又 英之, 鈴木 透, 金子 聡
    原稿種別: 報文
    2016 年 65 巻 8 号 p. 419-424
    発行日: 2016/08/05
    公開日: 2016/09/06
    ジャーナル フリー
    バッチ法を用いて,試料溶液中にドデシル硫酸ナトリウム(sodium dodecyl sulfate, SDS)と活性炭を添加し,SDSを活性炭表面に修飾しながら,カドミウム(Cd)を同時にSDS/活性炭表面に前濃縮する手法を開発した.Cdを吸着濃縮したのち,メンブランフィルターで活性炭を分離し,硝酸溶液で脱着した.脱着溶液中のCdの定量は,フレーム原子吸光分析法によった.撹拌かくはん時間,試料溶液の初期pH,SDS濃度,溶離剤の種類と体積,マトリックス元素の影響を調査し,前濃縮条件を最適化した結果,58.5倍の濃縮倍率を得た.SDS/活性炭の形成の評価は,透過型電子顕微鏡,透過型電子顕微鏡,フーリエ変換赤外分光法,BET比表面積法を用いた.他元素による干渉は,ほとんど見られなかった.最適条件下における本法の検出限界(3S/N)は,66 pg mL−1であった.Cd水溶液(10 ng mL−1)を10回繰り返し測定した場合の再現性は,相対標準偏差(RSD)3.1% であった.本法を環境試料(雨水とミネラルウォーター)の分析に適応したところ,満足のいく結果が得られた.
  • 富安 直弥, 並川 誠, 田中 秀治, 竹内 政樹
    原稿種別: 報文
    2016 年 65 巻 8 号 p. 425-432
    発行日: 2016/08/05
    公開日: 2016/09/06
    ジャーナル フリー
    大気中の水溶性酸性ガス及びPM2.5に含まれる陰イオン濃度を高い時間分解能で同時観測可能なオンライン分析システムを構築した.本分析システムは,主に自作のパラレル式ウエットデニューダーと疎水性フィルターを装着したミストチャンバー,及び陰イオン分析用のイオンクロマトグラフ1台で構成され,酸性ガスとPM2.5中陰イオンのデータを1時間にそれぞれ二つずつ出力する.本分析システムを2015年冬季の徳島市の大気分析に適用したところ,観測期間の97.9% で有益なデータを得ることができた.酸性ガス濃度の平均値(n=844)は,それぞれHCl: 4.85±3.08 nmol m−3,HONO: 22.19±18.47 nmol m−3,HNO3 : 9.54±2.52 nmol m−3,SO2 : 101.57±71.99 nmol m−3であり,SO2が高濃度に存在していた.一方,PM2.5に含まれる陰イオンの平均値(n=844)は,それぞれCl: 3.78±6.48 nmol m−3,NO2: 3.37±1.99 nmol m−3,NO3: 25.16±31.49 nmol m−3,SO42−: 92.61±55.33 nmol m−3であり,これら陰イオンの総濃度の9割以上をSO42−とNO3が占めていた.観測期間中の同時刻のデータを平均化して,観測成分の日内変動を調べたところ,いくつかの酸性ガスで特徴的な挙動が明らかとなった.HCl濃度は気温の変動と類似していたが,そこには2時間のタイムラグが存在した.HONO濃度は午前9時頃と深夜0時頃にピークを有する二山型の変動がみられ,その挙動はNO2濃度の変動と類似していた.また,観測データを後方流跡線解析と対応させることにより,中国大陸から排出された高濃度のSO2が徳島に流入している可能性が示唆された.
  • 佐々木 理人, 清水 得夫, 上原 伸夫
    原稿種別: 報文
    2016 年 65 巻 8 号 p. 433-438
    発行日: 2016/08/05
    公開日: 2016/09/06
    ジャーナル フリー
    親水性有機溶媒であるエタノールを用い,in situ抽出剤生成法とミクロ溶媒抽出法を組み合わせた水試料中のクロム(III)とクロム(VI)の分別法を開発した.試料水のpHを調整後,モル比を1 : 2とした二硫化炭素とジオクチルアミンを3 v/v% 含むエタノールの混合溶媒を500 μL加え,加温・遠心分離したのち,水相を除去した.クロム(VI)とクロム(III)はジオクチルジチオカルバミン酸と錯形成し,未反応のジオクチルアミンのマイクロ液相に抽出される.固化した有機相をエタノール500 μLに溶解し,黒鉛炉原子吸光測定した.pH 3.0においてクロム(VI)は選択的に抽出される.pH 6.5においてクロム(III)は酸化することなく,クロム(VI)と共に抽出できる.試料水25 mLを用いてクロム(VI)を50倍濃縮したとき,検量線は直線性を示し,検出限界(3 σ)は4.9 ng L−1であった.試料水20 mLを用いて全クロム[クロム(III)]を40倍濃縮したとき,検量線は直線性を示し,検出限界(3 σ)は11 ng L−1であった.本法を河川水試料に適用した.
技術論文
  • 杉江 謙一, 阿久津 守, 斉藤 貢一
    原稿種別: 技術論文
    2016 年 65 巻 8 号 p. 439-446
    発行日: 2016/08/05
    公開日: 2016/09/06
    ジャーナル フリー
    近年,社会問題となっている危険ドラッグの乱用に対処するため,含有される薬物の迅速な鑑定が要求されている.そこで,大気圧下において試料を直接イオン源に注入することで,迅速な質量分析が可能であるDART-TOF-MSを用いた定量分析法について検討した.しかし,Direct Analysis in Real Time(DART)-飛行時間型質量分析法(TOF-MS)は従来の試料導入法では測定値の再現性が悪く,定量分析に適していない.そこで,本研究ではマイクロシリンジ注入法を採用し,モデル化合物としてα-pyrrolidinovalerophenone(α-PVP)を,また内部標準物質としてα-pyrrolidinobutiophenone(α-PBP)を用いて定量精度の高い測定法の構築を試みた.その結果,検出限界は0.03 μg mL−1,定量下限は0.1 μg mL−1となり,検量線は0.1~50 μg mL−1の範囲で相関係数0.999と良好な直線性が得られた.また,定量性の指標とした真度は±4% 以内,併行精度及び室内再現精度は共に9% 未満と良好であった.構築した分析法及び従来のガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)法を用いて,液体危険ドラッグ中α-PVPの定量分析を行い,測定値を比較したところ,両者は同程度の値を示した.これらの結果から,本法により液体危険ドラッグ中α-PVPを簡便・迅速且つ高精度で定量分析することが可能であることが示唆された.
  • 和田 信彦, 森本 辰雄, 高田 史朗, 森 勝伸, 板橋 英之
    原稿種別: 技術論文
    2016 年 65 巻 8 号 p. 447-455
    発行日: 2016/08/05
    公開日: 2016/09/06
    ジャーナル フリー
    本研究は,農作物へのカドミウム吸収を抑制するため,陽イオン吸着性に優れたゼオライトを主原料とした土壌修復材を散布する栽培方法について報告する.ここでは,西日本地方で得られた天然ゼオライトに,土壌pH調整材として苦土石灰と場土壌の均質材として火山性風化粘性土を混合した土壌修復材(ゼオライト修復材)を開発し,カドミウム汚染米を産出した二毛作圃場農地に散布し収穫された作物に含まれるカドミウム濃度を分析した.米と小麦を対象に4年間にわたり圃場実験を試みたところ,ゼオライト修復材を散布した土壌での稲及び小麦のカドミウム含有量は,修復材を散布していない圃場と比べ,稲で41%,小麦で86% まで低減できることが分った.また,ゼオライト修復材を1回散布すると,その後4年間効果が持続でき,さらに修復材散布による育成不良は見られなかった.今回の実験結果より,ゼオライト修復材を用いた本栽培方法は,高額で長年にわたる大規模な客土対策(土壌置換)を必要とせず,重金属汚染農地の修復工法の中では費用対効果が高い技術であることを示した.
  • 平野 雄馬, 大島 裕樹, 小俣 雅嗣, 大津 直史
    原稿種別: 技術論文
    2016 年 65 巻 8 号 p. 457-463
    発行日: 2016/08/05
    公開日: 2016/09/06
    ジャーナル フリー
    リン酸緩衝塩類(PBS)溶液中のAg,Cu及びNiを,黒鉛炉原子吸光分析法(GF-AAS)を用いて精確に定量するために,PBS溶液がこれら金属の測定感度やリニアダイナミックレンジに与える影響を詳しく調べた.この目的のために,硝酸(HNO3)及びPBS溶液中におけるAg,Cu及びNiの検量線を,グラファイトチューブ型及びパイロチューブ型キュベットを用いてそれぞれ作成して比較した.PBS溶液中Agの測定感度は,HNO3溶液と比較すると,パイロチューブ型では30% 程度低下したが,グラファイトチューブ型ではこのような感度低下は観察されなかった.PBS溶液中Cuの測定感度は,どちらのキュベットを用いてもHNO3溶液と比較して低下した.一方,Niの場合は,どちらのキュベットでも感度の低下は観察されなかった.リニアダイナミックレンジを超過する濃度を測定するときは,レンジ内に入るように溶液を適宜希釈すれば良いが,PBS溶液中の場合,Ag濃度が400 μg L−1以上のときは難溶性Ag塩化物沈殿が,また,Cu濃度が200~500 μg L−1程度のときはCuの水酸化物沈殿がそれぞれ形成してしまい,測定感度や精度に悪影響を及ぼすことが分かった.GF-AASを用いてPBS溶液中のAg,Cu及びNiを定量するときは,そのリニアダイナミックレンジ及び感度に留意するべきであり,さらにレンジを超過するこれら元素を精確に定量するためには,沈殿形成を回避できるように実験を設計するか,あるいは前処理によって沈殿物を溶解させてから測定する必要がある.
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