分析化学
Print ISSN : 0525-1931
72 巻, 7.8 号
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年間特集「流」: 報文
  • 木村 凜太朗, 萬年 一剛, 熊谷 英憲, 松井 洋平, 伊規須 素子, 高野 淑識
    原稿種別: 年間特集「流」: 報文
    2023 年 72 巻 7.8 号 p. 249-256
    発行日: 2023/07/05
    公開日: 2023/08/25
    ジャーナル フリー

    箱根温泉・大涌谷の「黒たまご」は,地熱と火山ガス等の化学反応を利用した産物であり,古くから箱根の名物である.卵殻の黒い理由の詳細は,長らく不明のままであった.科学的な知見が少ないまま,殻表面に硫化鉄が付着するためと言われてきたが,黒たまごは放置しておくと1日程度で褪色してしまう.硫化鉄は空気中で比較的安定なため,褪色現象を説明することは困難である.本研究では,まず,黒たまごをクエン酸水溶液中に静置し,薄膜状の黒色物質の単離を行った.次に,単離された黒色物質をさまざまな非破壊及び破壊分析法を用いて検証した.その結果,無機成分は少なく,有機成分であるタンパク質様物質を多く含むことを明らかにした.さらに,炭素(C)・窒素(N)・硫黄(S)の含有量が多いことから,有機物と硫黄を介した架橋反応の形成も示唆された.卵殻外層の黒色物質は,タンパク質様物質のメイラード反応(褐変反応)により生成され,空気中での酸化分解に伴う褪色の可能性が考えられた.そのような準安定的な過程を経て,黒たまごの黒色物質は,保存状態のよい有機─無機複合体として,卵殻外層に存在することが考察された.

総合論文
  • 有馬 彰秀
    原稿種別: 総合論文
    2023 年 72 巻 7.8 号 p. 257-263
    発行日: 2023/07/05
    公開日: 2023/08/25
    ジャーナル フリー

    ナノ・マイクロスケールの細孔(ポア)を用いた粒子検出技術は,単一粒子レベルの感度を持ち,物理性状に基づく非修飾・非破壊の評価が可能であることから,幅広い微粒子の分析に利用されている.本稿では,まず著者らによる低アスペクト比ナノポアを用いた1粒子検出・捕捉技術について概説する.続いて,人工知能を利用したウイルス種識別について紹介する.この研究では,機械学習を利用することでイオン電流シグナルの形状特徴量を包括的に活用し,高精度識別を可能にした.また,検体認識分子を修飾した機能性ナノポアを開発し,検体のポア通過時の挙動を選択的に変化させることで識別精度向上を達成したため,併せて紹介する.

  • 渋谷 享司
    原稿種別: 総合論文
    2023 年 72 巻 7.8 号 p. 265-278
    発行日: 2023/07/05
    公開日: 2023/08/25
    ジャーナル フリー

    サンプルガスの吸収信号から,目的成分,干渉成分及び外乱影響等に関連する特徴量を抽出することで,高速・高精度に濃度演算ができる量子カスケードレーザー(QCL)を用いた独自のガス技術,赤外レーザー吸収変調法(IRLAM®)を開発し,その実用化に成功した.IRLAMでは,測定で得られた吸収変調信号とあらかじめ用意した特徴参照信号との相関(内積)によって特徴量を求め,その関係性から目的ガス濃度を決定する.従来の吸収スペクトルに対するカーブフィッティングなどの手法に比べ,濃度演算に使用する変数を大幅に減らせるため,演算時間を劇的に短縮することができる.これにより,IRLAMは干渉ガス影響やブロードニング影響などのさまざまな外乱影響を除去しながら,高精度なリアルタイム分析を可能にし,自社製造のQCLや独自構造のヘリオットセルと組み合わせて実用的なガス分析計を構築することで,世界初のQCLを用いた車載排ガス計測や石油化学プロセスのリアルタイム監視,半導体プロセスのインライン計測などを実現した.

  • 吉田 将己
    原稿種別: 総合論文
    2023 年 72 巻 7.8 号 p. 279-288
    発行日: 2023/07/05
    公開日: 2023/08/25
    ジャーナル フリー

    外部刺激や環境変化を検出して発光を変化させる「発光性クロミズム」は,目に見えない刺激を明瞭・簡便に検出する手段として注目を集めている.特に,分子間の集積構造の変化に基づく発光性クロミズムは弱い刺激に対しても柔軟に応答できるため近年数多くの研究が報告されているが,その戦略的な設計指針にはいまだに難を残す.著者は発光性白金(II) 錯体の分子間相互作用の制御に基づく発光性クロミズムの設計に着目し,さまざまなクロミック材料の開発に成功してきた.その過程において,より簡便かつ戦略的に準安定状態や過渡的状態を設計する手段として対イオンを用いた分子間相互作用及び発光性クロミズムの設計コンセプトを提案するに至った.本稿では,まず分子間の集積構造の変化に基づく発光性クロミズムの原理及びこれまでの研究動向について概説したのち,著者が現在取り組んでいる発光性クロミズムの設計指針開拓に関する研究を紹介する.

  • 八幡 悟史, 野田 健一, 下村 亜依, 小田 侑, 荒川 智, 八谷 宏光, 黒田 章夫
    原稿種別: 総合論文
    2023 年 72 巻 7.8 号 p. 289-298
    発行日: 2023/07/05
    公開日: 2023/08/25
    ジャーナル フリー

    従来のエンドトキシン検出法では,分析時間が長い,感度が不足などの問題点が存在していた.これらを解消すべく,新規な測定原理である生物発光式エンドトキシン検出法を開発した.高輝度ルシフェラーゼを用いた生物発光法とライセート反応を融合して,15分間測定で検出下限: 0.0005 EU mL−1を実現した.透析液中塩化ナトリウム(NaCl)でも感度が減少しない耐塩性ルシフェラーゼを開発し,透析液測定用エンドトキシン計へ応用した.20分間測定で検出下限: 0.0003 EU mL−1であり,他の諸特性を含めて,透析液測定に有用であることを確認した.耐熱性ルシフェラーゼも開発し,1段階反応型エンドトキシン計を開発した.10分間測定で検出下限: 0.001 EU mL−1であり,より迅速なエンドトキシン検出が可能となった.透析液測定に有用な新規エンドトキシン検出法であり,優れた特徴から透析液測定現場へ急激に普及している.

技術論文
  • 邑岡 美嘉, 住田 奈々, 森田 志保美, 川畑 公平, 西 博行
    原稿種別: 技術論文
    2023 年 72 巻 7.8 号 p. 299-305
    発行日: 2023/07/05
    公開日: 2023/08/25
    ジャーナル フリー

    HPLCでは,近年微小粒子径充てん剤カラムによる高速分析が可能なultra-HPLC(UHPLC)が進展してきた.しかし,UHPLC用の充てん剤は圧損が高く専用装置が必要となる.そこで既存装置に適用できる粒子径2.7 μm前後のコアシェル(CS)型カラムが浸透している.当初はC18のみであったが最近では多種のCS型逆相カラムが開発され,逆相以外のHILICやキラル分離でもCS型カラムが利用できる.本報では逆相のさまざまなCS型カラムをアセチルサリチル酸(アスピリン,AP)とその分解物のサリチル酸,これらの関連物質で感冒薬等に配合されるカフェイン,エテンザミド,アセトアミノフェンなど計11種の化合物の分離に適用し,分離選択性について検討した.検討を踏まえ2.5分で分離可能なAP製剤の迅速定量法を設定し,市販製剤の定量と薬剤経管投与で用いられる懸濁製剤,特に緩下剤である酸化マグネシウム製剤との同時懸濁製剤でのAPの安定性について検討した.その結果,30分保存で20% 分解し,APの有効性に影響を与えることが示唆された.

  • 谷保 佐知, 山﨑 絵理子, 羽成 修康, 山本 五秋, 山下 信義
    原稿種別: 技術論文
    2023 年 72 巻 7.8 号 p. 307-316
    発行日: 2023/07/05
    公開日: 2023/08/25
    ジャーナル フリー

    ガスクロマトグラフ高分解能質量分析計(GC-Orbitrap-HRMS)を用いて,揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物(per- and polyfluoroalkyl substances, PFAS)を含む36種類の有機ハロゲン化合物の測定条件を検討し,日本及び中国大気試料について測定した.本測定により,日本と中国の大気試料から21種類の揮発性PFAS等が検出され,その内,フルオロテロマーアクリレート類,フルオロテロマーメタクリレート類は大気試料も含めた日本及び中国の環境試料において,本報告が初めて検出例である.また,GC-Orbitrap-HRMSを用いて定量分析を行う際には試料溶液の精製と測定モードの選択に注意する必要があることを明らかにした.著者らの知る限り,本研究は実環境大気中の揮発性PFASをGC-Orbitrap-HRMSで測定した初めての報告であり,本技術の普及により大気中PFASの環境挙動解明が可能になると考えられる.

  • 青戸 智浩, 増田 卓也
    原稿種別: 技術論文
    2023 年 72 巻 7.8 号 p. 317-322
    発行日: 2023/07/05
    公開日: 2023/08/25
    ジャーナル フリー

    著者らは,電池材料等の構造解析のために,実験室型X線吸収分光装置を導入した.従来装置の課題に対して,さらに測定精度や感度を向上させるため,光学系に改良を加えたほか,スペクトルの正確さ,信頼性を高めるための独自の測定プロトコルを確立した.本稿では,その装置概要とともに,透過法及び蛍光法それぞれの手法により電池材料などとして用いられる金属を含む試料を測定した結果を示す.測定条件・試料厚み・濃度等を最適化することにより,CoやNiOでは放射光と遜色ない結果が得られ,実験室型X線吸収分光装置の高い汎用性及び潜在能力が確認された.

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