トリウムとフラボノール(2'-oxyflavone)は弱酸性エタノール溶液中で, 390mμに極大吸収を持つ安定な錯体を形成し,またこの溶液に紫外線を照射すると青色のけい光を発する.この錯体溶液に硫酸イオンを加えると,トリウム硫酸塩錯体が生ずるため,390mμの吸光度は減少するし,またけい光も消光する.この反応を利用して,0.2~4.0mg/
lの硫酸イオ・ンを吸光光度法で, 0.02~0.8mg/
l の硫酸イオンをけい光法によって定量した.
この反応の最適pHは,吸光光度法では2.4~2.7,けい光法では2.5~3.0あるので,両法ともに溶液のpHは2.6とした.トリウムとフラボノール濃度の組み合わせは,硫酸イオン定量の感度に影響を与えるが,吸光光度法では,上記の硫酸イオンの濃度範囲で検量線が直線になり,かつ高感度となる条件として,トリウム5.2×10
-5M(300μg/25m
l),フラボノール6.7×10
-5M(400μg/ 25m
l)の組み合わせを用いた.また,けい光法ではトリウム5.2×10
-6M(30μg/25m
l),フラボノール 8.4×10
-6M(50μg/25m
l)の組み合わせを用いた.硫酸イオン濃度と相対けい光強度の間には,ln
Fo/
F=
KCの関係が成立するが,これは第3物質による消光の型の一つである(ただし,
Fo:硫酸イオン濃度0のときのけい光強度;
F:硫酸イオンCMのときのけい光強度;
C:硫酸イオン濃度;
K:定数).これらの条件下で,トリウム-フラボノール錯体の組成比は1:1である.エタノール添加量が増加すると定量感度も増すが,ここではエタノール30%の条件を用いた.また20~300℃の温度範囲では,両方法ともその影響は認められない.
本法では,特別な試料を除き,前処理の必要もなく,少量の試料で微量の硫酸イオンが,誤差±3%程度で迅速に定量できる.陸水,降雪中の硫酸イオンの定量に,これらの方法を適用したところ,さきに報告したモリン法や従来法による定量値と比較して満足すべき結果を得た.
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