分析化学
Print ISSN : 0525-1931
57 巻, 12 号
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総合論文
  • 岡田 哲男, 田崎 友衣子
    原稿種別: 総合論文
    2008 年 57 巻 12 号 p. 921-935
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/23
    ジャーナル フリー
    新しい分離場として,物理場,化学場それぞれについて著者らの研究を中心に述べる.物理場内で粒子が受ける力は一般に大きさの関数である.したがって,物理場を用いて分離を行うと,その結果は粒子の大きさを反映する.同じ材料の粒子を分離対象とし,大きさだけを見分けることを目的とする場合は問題ないが,材料と大きさの両方が異なる粒子を含む複雑な試料では,不要に複雑な分離結果を与える.音場-重力複合場は大きさを見分けず,粒子の音響物性のみを見分ける点でユニークである.この方法を用いる粒子材料の区別と,この物理場をチャネル内に組み込んだ流れ分離の例を紹介する.化学的な分離場としては,氷を固定相とするアイスクロマトグラフィーを紹介する.極性成分を含むヘキサンを移動相とし,-3℃ 以下の温度で測定を行うと,氷表面への吸着により分離が起きる.これに対しより高い温度範囲では,氷表面が融解した擬似液膜が発達し物質の分配が保持を支配するようになる.氷表面,氷が関与する界面は,生体科学や地球科学的にも注目されており,分離結果を基に分光学的手法などの計測系を設計し,比較するのも興味深い.
  • 北川 慎也
    原稿種別: 総合論文
    2008 年 57 巻 12 号 p. 937-948
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/23
    ジャーナル フリー
    圧力差流を併用するキャピラリー電気クロマトグラフィー(pCEC)は,液体クロマトグラフィーと電気泳動を融合させた分離分析手法である.pCECの送液は主として圧力差流であり,正・負いずれの電圧印加を行っても,試料成分をカラムから溶出させることが可能である.この特徴を利用し,クロマトグラフィー分離に,適切な方向及び大きさの電気泳動を組み合わせることで,分離選択性の簡便なコントロールや分離を損なわずに分析時間を短縮することが可能であることを示した.これらの目的に対しては,移動相組成と印加電圧の両者の動的なコントロール(デュアルグラジエント)が効果的であった.また,ペプチド分離のように比較的複雑な試料を対象とした場合,二つの機構を併用していることが分離に対して有効であり,印加電圧に応じて分離性能が向上した.更に,移動相組成のグラジエントを行った際に発生する,カラム軸方向の移動相組成及び電位勾配の不均一性を利用することで,試料成分のピーク幅の低減が可能であることを示した.
  • 平山 直紀
    原稿種別: 総合論文
    2008 年 57 巻 12 号 p. 949-959
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/23
    ジャーナル フリー
    Brønsted酸であるキレート試薬(いわゆるキレート抽出剤)を用いてイオン液体相へ金属イオンの抽出を行う「イオン液体キレート抽出系」について,従来の有機溶媒を抽出相とするキレート抽出系との相違点を中心に検討を行った.この系は,カチオン交換によるイオン液体抽出系とは異なり,原理的に金属イオンの逆抽出回収が容易に可能である.2-テノイルトリフルオロアセトンを用いた2価金属イオンの抽出では,金属イオンによって抽出種が異なり,中性配位不飽和(水和)錯体又はアニオン性錯体として抽出された.また,中性種とアニオン性種とでは,抽出相イオン液体を変化させたときの抽出定数の変化に差異が見られた.一方,8-ヒドロキシキノリンを用いた場合には,検討した2価金属イオンはすべて中性錯体として抽出された.更に,8-(トリフルオロメタンスルホンアミド)キノリンを抽出剤として用いた検討の結果から,抽出剤中のトリフルオロメチル基の存在がアニオン性抽出種のイオン液体相内における安定化に一定の寄与を果たしていることが示唆された.
  • 江坂 幸宏, 奥村 典子, 宇野 文二
    原稿種別: 総合論文
    2008 年 57 巻 12 号 p. 961-968
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/23
    ジャーナル フリー
    反応性の高い化学種の分離分析法の開発の観点から,非水系キャピラリー電気泳動法(CE)によるキノンアニオンラジカル類の分離分析を検討してきた.嫌気性条件下,アセトニトリル中で電解合成されたベンゾキノン,クロラニル,フェナンスレンキノン,アントラキノン,テトラシアノキノジメタン(TCNQ)のアニオンラジカル,TCNQダイアニオンら高反応性還元体は,生成系マトリックスと全く同じ組成のアセトニトリル溶液を泳動液としたキャピラリーゾーン電気泳動によって,単成分として分離検出された.泳動液中の溶存酸素や水分,あるいは生成系から分析系への移動時の失活など良好な分析を行う上での問題点を明らかにし,CE分離系の密閉性を損なわないオンライン電解槽の作成により解決した.更には,相互作用試薬を溶解した泳動液中での泳動挙動を通して,これら還元体の水素結合能等の物性解析を行い,本法の高反応性化学種の分析手法としての有用性を広げた.
  • 古庄 義明, 小野 壮登, 山田 政行, 大橋 和夫, 北出 崇, 栗山 清治, 太田 誠一, 井上 嘉則, 本水 昌二
    原稿種別: 総合論文
    2008 年 57 巻 12 号 p. 969-989
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/23
    ジャーナル フリー
    固相抽出法は,高速液体クロマトグラフィー(HPLC),ガスクロマトグラフィー(GC)などの有機化合物の機器分析における前処理法として,試料マトリックスからの目的化合物の分離濃縮法として利用されてきた.近年,金属イオンに選択性のある分離剤を利用した固相抽出法により,無機分析においても高感度化,金属の形態別分離分析が広く検討されるようになった.無機分離剤には,イオン交換樹脂,キレート樹脂が広く固相抽出法の分離剤として利用されている.近年では,クラウンエーテルに代表される大環状官能基を導入した高選択性樹脂の事例が報告されるようになり,誘導結合プラズマ(ICP)発光分析における分光干渉の緩和などに応用されている.本論文では,近年応用事例の報告が著しい,無機分析のための固相抽出法について,分離剤の種類と特長を基礎事項として体系立てて論ずる.また,近年の報告事例を引用しながら,環境水中の微量元素群を濃縮しICP発光分析や原子吸光光度法により検出する手法,高マトリックスの産業試料中から目的元素を選択的に分離検出する手法,土壌中の微量元素を分離分析する手法について論ずる.
  • 江 曉林, 栄 麗, 鈴木 敦, 小林 賢洋, Lee Wah Lim, 竹内 豊英
    原稿種別: 総合論文
    2008 年 57 巻 12 号 p. 991-999
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/23
    ジャーナル フリー
    イオンクロマトグラフィーによる海水中陰イオンの高感度定量のための新規固定相を開発した.海水主成分と同程度の濃度を有する溶離液を用いることのできる固定相を調製することに成功し,海水を前処理することなく直接注入することができた.ポリエチレングリコール固定相では,溶離液の濃度が高くなるほどヨウ化物イオン及びチオシアン酸イオンの保持が増大することを見いだし,海水中のこれらのイオンの定量を可能とした.第4級アンモニウム型の陽イオン界面活性剤をイオン交換及び疎水性吸着を利用してシリカゲルに物理的に吸着させたカラムについても濃度の高い溶離液の使用が可能となり,海水中の臭化物イオン,硝酸イオン,亜硝酸イオン等の定量に応用できることを見いだした.モノリス型シリカキャピラリーカラムに適用し,海水中臭化物イオンの迅速定量を実現した.カラム内径の増加に伴い濃度感度が改善され,コンベンショナルサイズ(内径4.6 mm)のカラムを用いることによりng/mLレベルの検出感度を達成した.
  • 末吉 健志, 北川 文彦, 大塚 浩二
    原稿種別: 総合論文
    2008 年 57 巻 12 号 p. 1001-1010
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/23
    ジャーナル フリー
    平板上に作製された微小流路内においてキャピラリー電気泳動の原理に基づく分離分析を行うマイクロチップ電気泳動(MCE)は,微量の試料を高速かつ高い分離能で分析することが可能である.しかし,その反面,低い濃度感度が汎用化のための大きな障壁となっている.そこで,濃度感度の向上を目的として,オンライン試料濃縮法のMCEへの適用が進められている.その結果,最大で百万倍程度の高感度化が達成されたが,その反面,分析時間の大幅な増加や分離能の低下を引き起こすことがある.この欠点を改善するために,著者らは分離溶液の部分的注入(PF)法をMCEに適用し,分離能の向上及び分析時間の短縮を達成した.また,PF法をオンライン試料濃縮法と組み合わせることによりトランジエント-トラッピング法を開発した.これらの新規な方法論に基づくより高度なMCE分析について,新たに得られた知見とともに紹介する.
  • 石濱 泰
    原稿種別: 総合論文
    2008 年 57 巻 12 号 p. 1011-1018
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/23
    ジャーナル フリー
    質量分析計を用いた高感度プロテオーム解析のための試料前処理用固相抽出ミニカラムstop-and-go-extraction tip(StageTip)を開発した.StageTipは微量ペプチド試料の脱塩濃縮だけではなく,様々な種類のカラム担体,充填剤を組み合わせることにより,前分画デバイスとして,また,リン酸化ペプチドの選択的濃縮デバイスとしても用いることが可能であった.更に,試料調製過程で混入が避けられないゲル片のろ過,染色色素やイオン性界面活性剤の除去ツールとしても用いることができ,試料の保存デバイスとしても有効であった.StageTipは安価で使い捨て可能であり,特別な大型装置なしで簡便に操作ができることから,プロテオーム解析の前処理システムとして幅広い用途での使用が期待できる.
報文
  • 澤津橋 徹哉, 塚原 千幸人, 馬場 恵吾, 橋本 知子, 篠田 晶子, 大井 悦雅, 本間 善夫, 三浦 則雄
    原稿種別: 報文
    2008 年 57 巻 12 号 p. 1019-1026
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/23
    ジャーナル フリー
    ポリ塩化ビフェニル(PCB)迅速分析に有効なクリーンアップ剤であるポリビニルアルコール(PVA)ゲル上でのPCBと絶縁油の分離メカニズムの解明を試みた.アセトン移動相における,脂肪族炭化水素,アルキルベンゼン,多環芳香族炭化水素,及びこれらの各塩素化物の溶出位置を確認した.これより,絶縁油はサイズ排除作用,PCBはサイズ排除作用と分配作用が働いており,検討した化合物の溶出位置と,有機概念図の指標として用いられる無機性/有機性との間に良好な比例関係が確認された.これらの関係から,PVAゲル上では無機性/有機性が大きなPCBでは分配作用が強く働くため,絶縁油との分離が達成されることが分かった.この分離メカニズムは,van't Hoffプロットから求めた熱力学量(ΔH)から説明することができ,PVAゲル上の分離特性は,無機性/有機性及び熱力学量を用いて評価することが可能となった.
技術論文
  • 安藤 巧, 槻木 智史, 伊藤 治, 赤間 美文
    原稿種別: 技術論文
    2008 年 57 巻 12 号 p. 1027-1032
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/23
    ジャーナル フリー
    チオ乳酸を化学修飾したキレート繊維(TLA)を合成し,水溶液試料中の微量Ni及びCdの前濃縮における吸着特性を検討した.これらの金属は,pH>6.0でこの新規吸着材に定量的に吸着した.吸着材にNiあるいはCdが1モル結合するとき,2モルのHが解離することがpH-log Kdプロットから分かった.試料溶液の流量を4~26 mL/minの範囲で変化させてその影響を調べたところ,流量26 mL/minでも影響なくこれらの金属は吸着材に保持された.本吸着材は安定で,少なくとも20回の繰り返し利用が可能であった.本吸着材の最大吸着容量はNiで0.38 mmol/g,Cdで0.40 mmol/Lであった.水溶液試料中の微量Ni及びCdを分離濃縮するのにこの吸着材が有効であることが明らかとなった.
  • 槻木 智史, 山田 孝二, 伊藤 治, 南部 信義, 赤間 美文
    原稿種別: 技術論文
    2008 年 57 巻 12 号 p. 1033-1038
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/23
    ジャーナル フリー
    エチレンジアミン四酢酸(EDTA)型キレート繊維(以下EDTA-Cellと略)を合成し,水溶液中のCu,Ni,Coの吸着挙動をバッチ法及びカラム法で調べた.本吸着材の構造は,EDTAの4つのカルボキシル基のうち1つが,セルロース繊維に直接結合し,残りの3つが金属とキレートを形成していると考えられる.pH>2.9で,3金属とも定量的に吸着され,この吸着材は他の類似の吸着材と比較してより強く金属を吸着すると考えている.流量の影響を調べたところ少なくとも26 mL/minまでは影響がなかった.吸着した金属は1 M硝酸10 mLで脱着することができた.濃縮率について検討したところ3金属とも96% 以上の回収率で200倍濃縮が可能であると言うことが分かった.吸着等温線を作成し,ラングミュア式から吸着容量はCuで0.25 mmol/g,Niでは0.29 mmol/g,Coでは0.30 mmol/gであることが明らかとなった.
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