分析化学
Print ISSN : 0525-1931
62 巻, 9 号
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年間特集「空」:報文
  • 島村 佳典, 中井 泉
    原稿種別: 年間特集「空」:報文
    2013 年 62 巻 9 号 p. 765-774
    発行日: 2013/09/05
    公開日: 2013/09/27
    ジャーナル フリー
    単一検出器型の高分解能誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)を用いる高精度な鉛同位体比分析法を開発した.ICP-MSの測定条件や質量差別効果の補正法について最適な分析条件を検討した.補正法として,挟み込み法,内部補正法,両者の併用の3種類について検討した結果,挟み込み法で最も良い結果が得られた.銃弾試料28点の鉛同位体比(208Pb/206Pb,207Pb/206Pb)の日内測定精度の相対標準偏差の平均が共に0.034% と,単一検出器型のICP-MSでも多重検出器型ICP-MSと比較しても劣らない精度で鉛同位体比分析が可能であった.この分析条件を用いて鉛同位体比による銃弾の識別を試みたところ,銃弾の識別率はライフル用銃弾13点で69%,ハンドガン用銃弾15点で87% と,鉛同位体比が銃弾の識別において非常に有力な手法であることを示した.なお,本稿には示していないが,同装置による微量元素分析の結果を同位体比と併用するとすべての銃弾の識別が可能であった.
  • 長井 淳, 中村 行秀, 大平 慎一, 戸田 敬
    原稿種別: 年間特集「空」:報文
    2013 年 62 巻 9 号 p. 775-783
    発行日: 2013/09/05
    公開日: 2013/09/27
    ジャーナル フリー
    ニトロフェノール類(NPs)は健康リスクのある化合物として知られており,また,大気中で様々な経路により生成するが,その実態はあまり知られていない.本研究では,シリカゲル充填チューブに2時間ごとに捕集したNPsを高速液体クロマトグラフィー/質量分析法(HPLC/MS)にて分析を行い,日内変動の解析を試みた.捕集法の検討やHPLCへの大容量注入濃縮の自動化をはかり,各種NPの分析が可能になった.検出には大気圧イオン化質量分析を用いた.2時間捕集による大気中各種NPの定量下限は0.08~0.67 ng m-3の範囲であった.本法により日内変動を調べたところ,夏は日中に濃度が高くなり,また冬は夜半前に高濃度になり,季節で異なった日内変動パターンが得られた.これは,季節により,支配的となる二次的生成機構が異なったためと考えられる.すなわち,夏季はOHラジカル,冬季はNO3ラジカルに起因する反応に依存していると考えられる.また,冬季のNP総濃度は夏より高濃度となり,特に2-nitorophenolが約半分を占めた.逆に夏はモノニトロフェノールのジニトロ化の進行が示唆された.雨水に含まれるNPsやフィルターに捕集されたNPsについても分析を行ったところ,大気中NO2の増減と同じような季節変動を示した.一連の分析結果から,各種NPの存在状態は極性や反応性によってそれぞれ異なっており,また大気中で二次的な生成や消失を繰り返しながら大きく濃度変動していることが示された.
  • 大畑 昌輝, 西口 講平, 宇谷 啓介
    原稿種別: 年間特集「空」:報文
    2013 年 62 巻 9 号 p. 785-791
    発行日: 2013/09/05
    公開日: 2013/09/27
    ジャーナル フリー
    空気中の浮遊粒子状物質(SPM: suspended particulate matter)を誘導結合プラズマ(ICP)に導入するため,ガス交換器(GED: gas exchange device)を試料導入系に採用した,ガス交換/誘導結合プラズマ飛行時間型質量分析法(GE/ICP-TOFMS)を開発し,たばこ煙の直接・多元素同時分析を行った.ICP-TOFMSは多元素同時分析を行うことのできる質量分析装置の一つであるので,たばこ煙の流量や煙濃度,またはたばこ煙に含まれる元素濃度が時間の経過に伴うたばこの燃焼状態の変化や環境の変化によって変動したとしても,その瞬間のたばこ煙に含まれる多元素を同時に計測することができるリアルタイム分析法として用いることができる.本GE/ICP-TOFMSによるたばこ煙の直接・多元素分析を行ったところ,たばこの先端から出る煙である副流煙からは,B,Rb,Cd,I,Tl,Pbが特徴的な元素として検出された.数種類の異なる銘柄の市販のたばこの副流煙について測定を行ったところ,元素の信号強度比を用いることで,たばこの分別が可能であることが示唆された.たばこを吸った後に呼気とともに吐出される主流煙からも副流煙と同様の元素が検出されたが,副流煙と比較したところ元素信号強度比に相違が見られた.本研究で開発したGE/ICP-TOFMSは,日本発の技術(GED)を用いた世界初の分析手法であり,たばこ煙のように時々刻々と変化するような気体試料のリアルタイム・高感度多元素同時分析法としての利用が大いに期待される.
総合論文
  • 北村 裕介, 井原 敏博
    原稿種別: 総合論文
    2013 年 62 巻 9 号 p. 793-810
    発行日: 2013/09/05
    公開日: 2013/09/27
    ジャーナル フリー
    オリゴヌクレオチド(ODN)に金属配位基や金属錯体を導入したDNAコンジュゲートを調製し,これをハイブリダイゼーションプローブとして用いた.標的DNA上で複数のプローブを相互作用させ,そこで得られる特異的なシグナルから遺伝情報を読み取るシステムを構築した.希土類金属イオン捕捉部位としてEDTAを,光増感部位として1,10-フェナントロリン(phen)を別々のODN末端に修飾し,標的DNA上で両構造が近接するように一対のプローブを設計した.これらプローブと標的存在下,Tb(III)やEu(III)を添加すると,両イオンに特徴的な発光が得られた.またこれらの発光は標的配列上の点変異に依存した.次に,ルテニウム錯体を用い,反復配列の選択的ラベル化を試みた.反復の一単位に相補的なODNに[Ru(phen)2(dppz)]2+錯体を導入し,これをプローブとした.末端に導入した錯体部位は,隣に結合したプローブが形成する二本鎖に対してインターカレートし,隣接配列への第二の結合を促進することが分かった.また,標的に結合した際に特異的な発光を示した.
  • 間中 淳, 五十嵐 淑郎
    原稿種別: 総合論文
    2013 年 62 巻 9 号 p. 811-818
    発行日: 2013/09/05
    公開日: 2013/09/27
    ジャーナル フリー
    著者らは,マイクロプレートを用いる微小体積試料の濃度に関する高性能かつ簡易な判定法を開発してきた.本稿では,はじめに亜硫酸塩/過酸化水素系自己触媒反応を用いる方法,ポルフィリン還元体であるポルフィリノーゲンからポルフィリンへの酸化反応を用いる方法,カチオン型水溶性ポルフィリン(TMPyP)をプレート表面上に固定化したマイクロプレート法,及び高倍率濃縮分離法である均一液液抽出を用いたマイクロプレート上での高感度計測法などに関して述べる.いずれの手法も微少の液滴中の微量物質(金属イオン,抗原物質,内分泌かく乱物質など)の検出が可能であった.また,急激な二色の変色反応を利用したマイクロプレートのウェルの変色数による残留塩素などの目視濃度判定法に関しても述べる.この手法は変色数で濃度を判定するため,明確に濃度の目視分析ができる.
報文
  • 菊地 宣, 日高 敬浩
    原稿種別: 報文
    2013 年 62 巻 9 号 p. 819-824
    発行日: 2013/09/05
    公開日: 2013/09/27
    ジャーナル フリー
    exo及びendoノルボルネンジカルボン酸無水物と両末端ヒドロシリル型オリゴジメチルシロキサンとの,ヒドロシリル化反応によって合成される脂環式テトラカルボン酸二無水物を対象にして,赤外吸収スペクトルのケイ素─酸素(Si−O)伸縮振動を解析した.ジシロキサンではSi−O非対称伸縮振動に基づく吸収が1種類,トリシロキサン以上では2種類観測された.高波数側の吸収はシロキサン鎖の長さによらず一定の波数を示したが,低波数側は鎖長が長くなるに従ってより低波数側にシフトするとともに吸収の強さが増大した.トリシロキサン以上では,内部ケイ素原子から見た二つの酸素原子の動きに対称運動と非対称運動の2種類が存在し,この2種類の運動の組み合わせによって吸収の数が決まる.量子化学計算で振動の状態を見たところ,高波数側は酸素原子の動きが対称運動であり,低波数側は非対称運動であった.さらに,鎖長が長くなるに従って非対称運動の割合が高まるとともに,その強度も大きな値を示し,観測結果に合致した.
  • 南 武志, 今津 節生, 北川 路子, 牧田 碧夏, 西川 恵祐, 永松 剛, 田中 龍彦, 卜部 達也, 木寺 正憲, 石塚 香織, 高久 ...
    原稿種別: 報文
    2013 年 62 巻 9 号 p. 825-833
    発行日: 2013/09/05
    公開日: 2013/09/27
    ジャーナル フリー
    考古学において,化学分析や同位体分析に基づいた遺跡出土品の産地などの解析は非常に有効な手法となっている.近年,弥生後期から古墳時代にかけて遺跡から出土する朱(水銀朱)が注目されるようになっている.著者らは,朱に含まれる微量の鉛の同位体比の分析を行い,産地同定を試みた.まず,朱の起源となる辰砂鉱石について鉛同位体の分析を行った.その結果,幾つかのグループ,例えば,近畿産,揚子江中流域といった地域ごとに,鉛同位体から識別ができることを示した.同時に,幾つかの遺跡から出土した朱について鉛同位体分析を行い,その産地の推定を試みた.天神山古墳など三つの古墳から出土した朱は近畿産であることが強く示唆されるとともに,大風呂南遺跡や西谷墳丘墓等のから出土した朱は大陸産であることを示す結果が得られた.以上のことより,鉛同位体比分析は遺跡出土の朱の産地解析に非常に有効であることが明らかになった.
アナリティカルレポート
  • 北見 秀明, 石原 良美, 高野 二郎
    原稿種別: アナリティカルレポート
    2013 年 62 巻 9 号 p. 835-840
    発行日: 2013/09/05
    公開日: 2013/09/27
    ジャーナル フリー
    Eight kinds of catechins are well known because of their antioxidant activity and chemopreventive effects against cancers. The determination of eight kinds of catechins {GC: (−)-gallocatechin; EGC: (−)-epigallocatechin; C: (+)-catechin; EC: (−)-epicatechin; EGCg: (−)-epigallocatechin gallate; GCg: (−)-gallocatechin gallate; ECg: (−)-epicatechin gallate; CG: (−)-catechin gallate} in bottled green tea drinks by high-performance liquid chromatography (HPLC) with an ultraviolet detector (UV) on a cholesteryl group stationary phase column has been developed. This analytical method provides high linearity of the calibration curve as well as both repeatability and reproducibility. The correlation coefficient of the working curve of calibration were estimated to be from 0.9998 to 0.9987 for eight kinds of catechins in the concentration range from 5 mg L−1 to 150 mg L−1. The limits of detection (LOD) calculated on 3σ at 10 mg L−1 were 0.39 mg L−1 for GC, 0.74 mg L−1 for EGC, 0.07 mg L−1 for C, 0.33 mg L−1 for EC, 0.28 mg L−1 for EGCg, 0.35 mg L−1 for GCg, 0.18 mg L−1 for ECg, and 0.19 mg L−1 for CG. The limits of quantification (LOQ) calculated on 10σ at 10 mg L−1 were 1.29 mg L−1 for GC, 2.48 mg L−1 for EGC, 0.24 mg L−1 for C, 1.09 mg L−1 for EC, 0.94 mg L−1 for EGCg, 1.17 mg L−1 for GCg, 0.62 mg L−1 for ECg, and 0.65 mg L−1 for CG. Good results (the recoveries were 85.5–109.6% and the relative standard deviations were 2.5–4.9%) were obtained in recovery tests by using bottled green tea drinks. This proposed method could be successfully applied to the determination of eight kinds of catechins in bottled green tea drinks.
  • 伊豆 英恵, 橋口 知一, 橋本 知子, 松丸 克己
    原稿種別: アナリティカルレポート
    2013 年 62 巻 9 号 p. 841-844
    発行日: 2013/09/05
    公開日: 2013/09/27
    ジャーナル フリー
    In this study, we determined the carbon stable isotope ratios of the extract (δ13CEx) and alcohol (δ13CAlc) in commercially-supplied Mirin in order to confirm them as a potential index for verifying the raw-material origins. The δ13CAlc values of the Mirin, to which brewing alcohol was added (−14.6±4.0‰), are significantly higher than that of the Mirin, to which Shochu was added (−26.0±1.7‰). The δ13CEx values of the Mirin are significantly higher by sugar addition (+sugar; −17.1±3.3‰, −sugar; −26.1±1.0‰). Old-style Mirin, which was made from rice, koji, and Shochu shows lower δ13CAlc and δ13CEx values (δ13CAlc; −25.8±1.1‰, δ13CEx; −26.6±0.9‰) than those of new-style Mirin, which includes brewing alcohol and sugar as raw materials (δ13CAlc; −16.3±0.8‰, δ13CEx; −19.8±0.7‰). Mirin-like seasonings (fermentation seasoning and Mirin-type seasoning) and Akumochizake used like Mirin were also analyzed; their δ13CAlc and δ13CEx showed higher values upon the addition of brewing alcohol and sugar, respectively. These results suggest that the δ13CAlc and δ13CEx values in commercially supplied Mirin are useful for the confirmation of sugar, brewing alcohol, and Shochu addition as raw-material origins.
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