分析化学
Print ISSN : 0525-1931
53 巻, 7 号
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分析化学総説
  • 大野 剛, 平田 岳史
    2004 年 53 巻 7 号 p. 631-644
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/10/22
    ジャーナル フリー
    高周波誘導結合プラズマイオン源質量分析法(ICP-MS)は最も高感度かつ迅速な微量元素分析法の一つとなっている.また,イオン源が大気圧であることから,様々な試料導入法の適用が可能であり,溶液試料だけではなく,固体試料,気体試料中の微量元素分析にも応用されている.特にレーザーアブレーション法を用いた固体試料導入法は,レーザー技術の急速な進歩もあり,分析空間分解能や分析精度が飛躍的に向上し,地球化学試料の分析にはなくてはならない手法となっている.また,多重検出器を備えた磁場型ICP-MS(MC-ICP-MS)の実用化により,鉄,銅,亜鉛といった原子番号の大きな元素に対しても,高精度同位体分析が可能となり,その結果,地球化学への応用が進んでいる.そこで本稿では,最近目覚ましい進歩を遂げたレーザーアブレーション法と,MC-ICP-MSを取り上げ,その動作原理と最新の分析応用例を紹介する.
総合論文
  • 東 達也, 島田 和武
    2004 年 53 巻 7 号 p. 645-655
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/10/22
    ジャーナル フリー
    ステロイドは生命機能維持に不可欠な生体分子であり,その生体内動態及び機能の解析は,臨床診断や新薬開発上極めて重要である.その方法論として液体クロマトグラフィー/質量分析(LC/MS)が有用と考えられるが,ステロイドのエレクトロスプレーイオン化や大気圧化学イオン化(APCI)に対するイオン化効率が必ずしも高くなく,複雑な生体試料中の微量分析では実用的な感度が得られない場合も多い.一方,電子親和性原子団を有する化合物は,APCIインターフェースにおいて電子を捕獲して効率的にイオン化され(電子捕獲APCI),また本条件下ではバックグラウンドノイズが低いことから高感度な応答が得られる.そこで著者らは,各種ステロイドの電子捕獲APCI-MS用検出指向誘導体化法を開発し,生体試料分析に適用した.すなわち,ヒト血しょう中ビタミンD3代謝物及びラット脳内神経ステロイド定量法を開発し,後者についてはストレスによる脳内レベルの変動解析に応用した.
  • 伊藤 貴志
    2004 年 53 巻 7 号 p. 657-675
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/10/22
    ジャーナル フリー
    本稿では,表面・界面・ナノチャンネルにおける化学的相互作用・立体的相互作用を利用した新たな分析法について,主に著者がかかわった研究を中心に解説した.具体的には,電荷中性型フェノール類によるポリ塩化ビニル支持液膜の界面電位変化に関する研究,液/液・固/液界面におけるキレート錯形成に基づく3価希土類イオンの電気化学的センシングに関する研究,化学修飾探針を用いた原子間力顕微鏡による表面化学種センシングに関する研究,分子探針を用いた走査型トンネル顕微鏡による表面官能基・分子の直接識別法の開発,多層カーボンナノチューブの内筒を利用した単分子・ナノ粒子に対する検出・識別法の開発,を取り上げた.これらの手法により,従来法では得られない情報の取得や新たな化学センサーの開発が可能となる.更にこのうちの幾つかの手法では,単一分子・ナノ粒子の識別・検出が可能であり,高感度な絶対的定量法の開発につながりうるほか,分析対象の性質の平均のみならず,ばらつきが評価できるという非常にユニークな特色を有している.
  • 浜瀬 健司, 財津 潔
    2004 年 53 巻 7 号 p. 677-690
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/10/22
    ジャーナル フリー
    D-アミノ酸は,生体の主構成要素の一つであるL-アミノ酸の光学異性体であり,哺乳類における機能に興味が持たれている.しかし,ほとんどのD-アミノ酸は哺乳類中に微量しか存在せず,その詳細な分布や動態解析を可能とする高感度かつ選択的分析法が必要とされていた.本研究では,逆相カラム及びキラルカラムを用いる2段階高速液体クロマトグラフ(HPLC)法や,カラムスイッチングキラルHPLC法,高選択的ジアステレオマー法等を利用し,様々なD-アミノ酸について哺乳類体内における微量分析法を確立した.これらの方法を用いてラット及びマウスにおける内在性D-アミノ酸含量を検討した結果,既に報告されているD-アスパラギン酸やD-セリンに加え,哺乳類組織内における微量D-アラニン,D-ロイシン,D-プロリンなどの存在と分布を明らかにした.これらの微量D-アミノ酸はそれぞれ特有の組織分布と動態を示し,生体がこれらを厳密に区別してその含量を制御していることが明らかになった.
報文
  • 鈴木 優治
    2004 年 53 巻 7 号 p. 691-698
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/10/22
    ジャーナル フリー
    pH指示薬と血清アルブミンとの反応で低下する吸光度の測定に基づく色素結合法による血清アルブミン定量法の特性について,化学平衡論により解析し4種類のスルホンフタレイン系pH指示薬を用いた実験結果と比較した.解析は結合が血清アルブミンの正荷電解離基と解離型色素陰イオン間で起こると仮定し行い,次の結果を得た.
    1)この反応では,試験溶液の吸光度が空試験溶液の吸光度よりも低くなる,見掛けの吸光度が負値になるpH領域が色素の種類に関係なく存在する.2)吸光度低下度は反応の平衡定数,解離型色素陰イオン及び色素タンパク質複合体のモル吸光係数により変化する.3)吸光度低下度はタンパク質濃度と比例し,吸光度低下度の測定により血清アルブミンが定量できる.4)イオン強度の吸光度低下度に及ぼす影響は小さい.5)検量線は色素濃度が高いほど直線に近づく.これらの計算結果は実験結果とおおむね一致し,吸光度低下度の測定に基づく色素結合法が,血清アルブミン定量法に応用できることが化学平衡論的に裏付けられた.
  • 後澤 洋平, 松田 秀幸, 我妻 和明
    2004 年 53 巻 7 号 p. 699-703
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/10/22
    ジャーナル フリー
    本研究ではヘリウムグロー放電プラズマとNd : YAGレーザーを組み合わせたレーザーアブレーション支援高周波ヘリウムグロー放電発光分析法の開発を行った.高周波グロー放電発光分析法は,放電管中で発生させたプラズマにより試料に対するスパッタリングを行い,プラズマ中への試料導入・励起を行う分析法である.通常プラズマガスにはスパッタリング速度の大きさからアルゴンが使用されるが.鉄鋼中の不純物元素の中にはアルゴンプラズマでは励起発光が難しいものが多く存在し,この分析手法の課題となっている.そこで今回高周波グロー放電発光分光法の高感度化・高精度化を目的としてレーザーアブレーション支援高周波ヘリウムグロー放電プラズマ発光分析法を開発した.この手法ではプラズマ中への試料導入をレーザーアブレーションでのみ実行し,励起発光はヘリウムプラズマによって支配的に行うことを試みた.これはヘリウムプラズマの試料に対するスパッタリング速度が非常に低いという特性を利用し,ヘリウムプラズマによる励起過程とレーザーによるサンプリング過程をそれぞれ独自に制御することを目的としたものである.更にヘリウムプラズマはアルゴンプラズマに比べ高い励起能力を持つため,従来では励起が困難な元素に対して高感度な分析を行うことが期待できる.本研究では,通常アルゴンを用いたグロー放電プラズマでは検出が困難な高い励起エネルギーを必要とするフッ素を含んだ銅試料を対象としてフッ素の直接定量を行った.検量線の測定をFI 685.602 nmを用いてLiF 0.02~5.0 mass% の濃度範囲で測定したところ,結果として良好な直線関係が得られた.
  • 一ノ木 進, 渡辺 節子, 松井田 紗妃, 藤井 洋一, 森田 俊博, 家入 一郎, 大坪 健司
    2004 年 53 巻 7 号 p. 705-713
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/10/22
    ジャーナル フリー
    血清又は尿試料100 μlを水で希釈して1 mlとし,試料中の7種類のカーバメート系農薬を自動高速液体クロマトグラフィーによって同時定量する方法を開発した.試料中のピリミカーブ,2-イソプロピルオキシフェニル-N-メチルカーバメート(PHC),ベンダイオカルブ,3,5-キシリルN-メチルカーバメート(XMC),カルバリル(NAC),エチオフェンカルブ,イソプロカルブ(MIPC)を溶離液B(メタノール : 水=10 : 90)によって,C18濃縮カラムに導いて保持させ,一定時間後に溶離液A(アセトニトリル : 水=32 : 68)によってC18分析カラムに導いて一斉分離し,220 nmで吸光検出した.検量線の直線範囲は,血清試料では0.1~50 μg/mlまでほとんどの農薬について相関係数0.999以上であり,尿試料では1~50 μg/mlの範囲でほとんどの農薬について相関係数0.999以上であった.検量線の直線範囲における添加回収実験では,血清及び尿試料共に7種農薬の回収率は98~104% であり,繰り返し再現性はRSDにして3% 以内であった.
  • 内田 太郎, 吉田 亜由美, 高橋 佳菜子, 樋口 精一郎
    2004 年 53 巻 7 号 p. 715-722
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/10/22
    ジャーナル フリー
    本研究では,大気汚染物質であるNO2やSO2を油絵具薄膜にさらすことにより,油絵具薄膜がどのような影響を受けるのかを,近赤外励起フーリエ変換ラマンを用い,油絵具薄膜の硬化及び劣化反応を官能基レベルで明らかにすることを試みた.その結果,NO2ガス,SO2ガスの油絵具の薄膜に対する全く異なる作用が官能基レベルで明らかにされ,油絵具はNO2ガスとの反応性に富み,SO2ガスとの反応性に乏しいということが分かった.
  • 高柳 俊夫, DRIOUICH Rim, 澤井 邦子, LI Qiong, 大島 光子, 本水 昌二
    2004 年 53 巻 7 号 p. 723-728
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/10/22
    ジャーナル フリー
    n-アルキルアミン類の分離定量法として,陰イオン性アルデヒドを誘導体化試薬として用いる吸光検出-逆相分配高速液体クロマトグラフィーを検討した.誘導体化試薬としては,サリチルアルデヒド-5-スルホン酸イオン(SAS)と4-(4-スルホフェニルアゾ)-1-ヒドロキシ-2-ナフトアルデヒド(SPAHNA)を用いた.n-アルキルアミンを含む試料溶液と試薬溶液はそれぞれの流路に同時に注入され,マージングゾーン法によりオンラインで混合され,5 m,70℃ の反応コイル中で水溶性シッフ塩基へと誘導体化された.生成した水溶性シッフ塩基は逆相カラムにより分離され,吸光検出された.オンライン誘導体化とカラム分離/検出を含む分析時間は,SASを用いた場合25分,SPAHNAを用いた場合は18分であった.アルキルアミン類に対する検量線は0~50 μMの範囲で良好な直線性が得られ,検出限界は,SASを用いた場合0.5~1.0 μM,SPAHNAを用いた場合は0.08~0.20 μMであった.
  • 武田 洋一, 石田 宏二
    2004 年 53 巻 7 号 p. 729-734
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/10/22
    ジャーナル フリー
    希土類元素の新しい分離系の開発を目的として,弱酸性陽イオン交換体カルボキシメチルセルロースに対するプロメチウムを除く全希土類元素の吸着挙動を塩化ナトリウム水溶液系について塩濃度の関数として薄層クロマトグラフィーにより調べた.本系における希土類元素のRf値の決定には,カルボキシメチル基への競争的陽イオン交換,表面錯体の生成,塩析効果が重要な役割を果たし,希土類元素系列内の配位数の変化も影響を及ぼしていると思われる.通常,イットリウムは重希土類元素に属するが,本系ではイットリウムはランタンに極めて近いRf値を示すので,ランタン以外の希土類元素からの分離が達成された.
技術論文
  • 神 ちひろ, 福田 清一, 佐藤 春彦, 斎藤 彰
    2004 年 53 巻 7 号 p. 735-741
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/10/22
    ジャーナル フリー
    結石分析においてはシュウ酸カルシウム,リン酸カルシウム,コレステロール,ビリルビン等の主成分の解析だけではなく,混合成分やその混合比率も重要な分析課題である.分析の迅速化を目的とし,Smart-Tech法を用いたフーリエ変換赤外分光法による全自動結石システムを開発した.反射法の原理を応用したSmart-Tech法は試料を凹凸のある金属板上に薄く引き延ばすだけで測定が可能であり,従来のKBr錠剤法と比較して前処理時間を大幅に短縮することができた.オートサンプラーは600検体設置可能であり,また,検索と定量の機能を組み合わせることで混合成分の同定とその比率を同時に解析することができるソフトプログラムも開発し,定量的解析の効率化も実現した.更に2成分系の検量線を複数組み合わせることで3成分の定量も可能にした.実結石検体の定量結果においてもKBr錠剤法と良好な相関が得られた.
ノート
  • 檀崎 祐悦, 我妻 和明
    2004 年 53 巻 7 号 p. 743-748
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/10/22
    ジャーナル フリー
    An internal standard element has generally been employed to obtain accurate analytical results in inductively coupled plasma-optical emission spectrometry (ICP-OES). This paper describes the possibility of hydrogen Hβ line (486.13 nm) being used as an internal standard line in ICP-OES. For this purpose, the relative intensities of a V II emission line were measured under various conditions when the Hβ line as well as the Y II 371.03-nm line were employed as the internal standard. The intensity variation of the V II line could be corrected more accurately by using the Hβ line rather than the Y II line. It should be noted that the intensity of the Hβ line is relatively weak and is easily affected by background emissions, which may lead to a large error in the estimation of the Hβ line intensity. Nevertheless, the Hβ line would be useful to correct for any variations of the sample amount introduced into ICP. The Hβ internal standard was applied to the determination of alloyed elements in Cu-In-Sn, Mo-Si-B, and Ge-Cr-Al-Ce-Sn.
  • 松江 秀明, 米沢 仲四郎
    2004 年 53 巻 7 号 p. 749-751
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/10/22
    ジャーナル フリー
    Multi-element determination in reference materials of soils (JSAC 0401, JSAC 0411) and sediments (NMIJ CRM 7302-a, NMIJ CRM 7303-a), which were prepared at the Japan Society for Analytical Chemistry and the National Institute of Advanced Industrial Science and Technology of the National Metrology Institute of Japan, respectively, has been carried out by neutron-induced prompt gamma-ray analysis (PGA) using standard addition and k0-standardization methods. Firstly, the absolute Ti concentrations in the samples were determined accurately by the standard addition method. Secondly, the relative multi-element concentrations were determined by the k0-standardization method. Finally, the absolute multi-element concentrations were obtained by normalizing the relative multi-element concentrations with the absolute Ti concentration in the samples. The 15 elements, such as H, B, Na, Si, S, Cl, K, Ca, Ti Cr, Mn, Fe, Cd, Sm and Gd were determined by k0-PGA. The analytical results of these reference materials agreed with the certified or reference values within about 10%.
  • 井田 博之, 河合 潤
    2004 年 53 巻 7 号 p. 753-755
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/10/22
    ジャーナル フリー
    Applications of X-ray fluorescence spectrometry with a pyroelectric X-ray generator were studied. The X-ray generator with a pyroelectric crystal has unique features, such as small dimensions, low power, battery drive and a production of a periodically changing X-ray flux. Paint and leather samples were analyzed with this novel X-ray generator, and the performance of this device as an X-ray source for X-ray fluorescence spectrometry was investigated.
テクニカルレター
  • 檀崎 祐悦, 我妻 和明
    2004 年 53 巻 7 号 p. 757-761
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/10/22
    ジャーナル フリー
    This paper presents dissolution methods of several B-containing alloys to determine the amounts of B accurately by ICP-OES. It should be principally noted that boron is easily volatilized when the samples are dissolved in acid solutions, which may cause a serious error of the analytical result. Fe-B, Mn-Al-B, and Al-Pd-Mn-B alloy samples (30 mg) were dissolved in TEFE beakers by heating in 25 ml of an acid mixture : H3PO4 : HNO3 : HCl : H2O = 1 : 2 : 2 : 5. A Nd-Fe-B- Si alloy sample (100 mg) was dissolved in a TEFE beaker by heating in 30 ml of an acid mixture : H3PO4 : HNO3 : HCl : H2O = 1 : 2 : 2 : 5 and 4 ml of NaOH solution (8 mg/ml). The NaOH addition can prevent Si in the solution from precipitating because silicic acid can be dissolved in alkaline solutions. An Fe-Co-Nd-B alloy sample (30 mg) was dissolved in a TEFE beaker by heating in 30 ml of an acid mixture : HNO3 : guliceline : H2O = 15 : 0.3 : 14.7. A Nb-B alloy sample (100 mg) was dissolved in a polypropylene flask in 30 ml of HNO3 (1 + 1) and 2 ml of HF at room temperature. An Fe-Zr-Co-Ni-B sample (50 mg) was dissolved in a polypropylene flask in 35 ml of an acid mixture : HNO3 : HF : guliceline : H2O = 15 : 2 : 0.1 : 17.9 at room temperature. Ni-Al-Hf-B and Ni-Al-Ta-B alloy samples (40 mg) were dissolved in a TEFE beaker by heating in 35 ml of an acid mixture : HNO3 : HF : H2O = 15 : 2 : 18 and 5 ml of mannitol (1 w/v%).
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