生体中に存在する疾患関連マーカー物質は極微量にしか存在しないため,新たな分析・評価技術の開発が求められている.著者らはこれまでに疾患関連物質等に対して親和性の高い新規蛍光分析試薬を開発してきた.さらに最近では,B/F分離が容易であり,自動化やハイスループット化が求められる用途で汎用性の高い磁性粒子の表面に,開発した蛍光分析試薬を修飾し,疾患関連物質の高感度検出を達成した.本論文では,これまでに得られた結果について詳述する.
爪試料に含まれる元素の組成分析は誘導結合プラズマ質量分析などを用いて行われるが,得られる結果は平均的な情報であり,爪試料の面内及び深さ方向における元素分布についての報告例はない.本研究では,キャピラリーX線集光素子を搭載した微小部蛍光X線分析装置を用いて,爪試料の面内の元素分布を測定した.その結果,硫黄とカルシウムは爪試料の全体に均一に分布していたが,カリウムと亜鉛は爪の先端近くで濃化している領域が確認された.さらに,共焦点型微小部蛍光X線分析法を用いて同試料の非破壊的な深さ方向の分析を行った.爪試料内部での蛍光X線の吸収補正を行って蛍光X線強度分布を解析した結果,カルシウムは試料表面だけでなく,爪の内部にも高い濃度で分布していることを示唆する結果が得られた.
東京電力福島第一原子力発電所の事故によって環境に放出された放射性Csは,その周辺の家屋内にも侵入しており,高濃度の放射性Csを含む室内ダストを形成している.室内ダストを住民が吸引することによる内部被ばくを計算する上で,放射性Csの可溶性,粒径,分布特性,放射能などの情報が重要となる.居住中の家屋調査では,住宅部材を採取することができないため,現場測定が必要となる.放射性物質の分布を画像として情報化するイメージングプレート(IP)の利用により,現場観測において放射性Csの分布特性と放射能に関する情報が得られる.比較的放射線量の高い現場測定において,IPを用いた定量測定を行うための条件(線源の選択,信号減衰補正,バックグラウンド評価など)を検討し,設定した条件で測定したところ,避難中の家屋の天井裏床面において0.1–0.7 Bq程度の粒子と考えられる放射性物質が点在していることが示された.
生体試料中には健康状態を診断するうえで有益な情報が広く含まれている.そこで疾病の診断を目的に生体試料を測定することが広く行われている.生体試料計測の代表的なものとして,ELISAを用いた手法が実用化されているが,煩雑な操作を伴う高価な装置と,操作時間,人手などのコストが必要である.著者らはこれまで生体内に発現する受容体の認識配列を活用することで,タンパク質やホルモンなどを簡便かつ,特異性が高く高感度に検出するプローブ開発と応用を行っている.本章では,血糖値制御関連ホルモンであるグルカゴンを一例にこれまで得られた成果を紹介する.グルカゴン受容体配列から選別されたペプチドライブラリーからグルカゴン結合ペプチドをスクリーニングした.見いだしたグルカゴン結合ペプチドに対して,環境変化に応答して蛍光強度の増大する蛍光色素を修飾することでグルカゴン検出プロ—ブの開発を行った.開発したプローブはELISAと同等以上の感度と特異性を有しており,サンプルと混合するだけで簡易な測定が可能である.