分析化学
Print ISSN : 0525-1931
72 巻, 10.11 号
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年間特集「流」: 報文
  • 中島 淳一, 野上 哲平, 梶原 佑紀, 仲西 桃太郎, 藤木 裕宇, 近間 克己, 山添 誠司
    原稿種別: 年間特集「流」: 報文
    2023 年 72 巻 10.11 号 p. 391-397
    発行日: 2023/10/05
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー

    溶液を含む試料の化学状態変化を連続的に観測するin situ XAFS測定用の加熱フローセルシステムを開発した.本システムの適用可能性を評価するため,無電解ニッケル─リンめっき反応の解析に応用した.フローセル及びヒーターにはX線が透過する窓を設け,触媒を付与したポリエステルフィルムを20枚重ねてセル内に封入した.無電解ニッケル─リンめっき液は,ポンプを用いて60℃ に設定したセルへ送液し,フィルム上にニッケルめっきを析出させた.析出反応に伴うニッケルの化学状態変化は,めっき液の送液を開始したところから連続的にNi K吸収端XAFS測定(SPring-8内BL28B2)を行うことによって観測した.この結果,使用しためっき液のニッケル源である硫酸ニッケルが時間経過とともに金属ニッケルやリン化ニッケルへと変化する様子を観測できた.また,in situ XAFS測定による解析結果は,ニッケル及びリンのex situ XAFS測定に基づく化学状態変化の解析結果とおおむね一致した.したがって,本フローシステムによるin situ XAFS測定は,溶液を含む試料の化学状態変化の連続的な観測に有効であると考えた.

報文
  • 橋本 将平, 浮田 匡章, 山口 陽丈, 小林 麻子, 内村 智博
    原稿種別: 報文
    2023 年 72 巻 10.11 号 p. 399-405
    発行日: 2023/10/05
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー

    共鳴増強多光子イオン化飛行時間型質量分析法を用いて,炊飯時に発生する匂い成分のリアルタイム分析を試みた.米試料には「タンチョウモチ」(もち米)及び「いちほまれ」(うるち米)を用いた.「タンチョウモチ」は「いちほまれ」よりも吸水率が高いため,炊飯時の加水量を少なくした.波長266 nmのレーザーを用いた結果,インドールと4-ビニルフェノールが検出された.前者については,「タンチョウモチ」の方が「いちほまれ」よりも低温で検出され始めた.これは,「タンチョウモチ」の方が低温でデンプンが膨潤・糊化するため米内部のインドールあるいはその前駆体が外部に漏出しやすいこと,及び炊飯時の加水量が少ないためより低温で気化が進行したことが原因であると考えられた.一方,4-ビニルフェノールの検出開始温度はいずれの米試料でも100℃ 弱で同じであった.これは主に前駆体からの熱分解温度に起因するものと考えられた.また,リアルタイム分析の結果として,蒸気が噴出することに起因する周期的な信号の変化が確認された.

  • 田中 杏奈, 落合 陽香, 熊田 英峰, 榎本 剛司, 梅村 知也
    原稿種別: 報文
    2023 年 72 巻 10.11 号 p. 407-416
    発行日: 2023/10/05
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー

    メタボロミクス研究の重要なターゲットであるアミノ酸を分離能とダイナミックレンジに優れるGC/EI-MS法で一斉分析するための試料前処理法としてペンタフルオロベンジル(PFB)誘導体化に注目した.これまでにもPFB誘導体化によるアミノ酸のGC-MS分析は報告されているが,メタボロミクスで重要となる非タンパク質構成アミノ酸への適用が検討されていないことに加え,タンパク質構成アミノ酸についても,その誘導体化物の開裂情報が不明である場合が多く,GC/EI-MS法を用いた分析法の構築には基礎的な検討が必要である.本研究では,アルギニンを除くタンパク質構成アミノ酸19種類,及び2-アミノ酪酸,サルコシンなど生体内で有用な機能を担う6種類の代謝関連アミノ酸を対象とし,水性アセトン相中でペンタフルオロベンジルブロミド(PFB-Br)を作用させて一段階誘導体化を行った.得られたPFB誘導体について,正イオン化学イオン化(PICI)マススペクトル,及びEIマススペクトルを取得し,生成した誘導体ピークを同定した.これらのピーク同定の結果を踏まえ,選択イオンモニタリングのための定量イオン,確認イオンを決定し,ピーク位置確認のための相対保持指標(Retention Index)を明らかにすることで,PFB誘導体化─GC/EI-MS法によるアミノ酸分析のための定量データベースを構築した.

技術論文
  • 井上 史之, 松山 嗣史, 辻 幸一
    原稿種別: 技術論文
    2023 年 72 巻 10.11 号 p. 417-423
    発行日: 2023/10/05
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー

    ヒトの食生活において重要な役割を果たすカルシウム,鉄,亜鉛などの必須元素の摂取状態を把握する方法として,毛髪中の含有濃度を測定し評価する方法が知られている.通常,毛髪分析には,ICP-AES/MSといった分析法が使われているが,本実験では,より簡便で迅速な測定方法として蛍光X線分析法を用い,さらに二次ターゲット法の原理を応用することで,毛髪の微量元素からの蛍光X線の検出を試みた.本実験では,少量0.3 mgの毛髪を隙間なく並べて試料とし,背面に高分子フィルムで包んだ二次ターゲットの役割を果たす純度99.5% のSeO2粉末を押し当てるように配置した.通常の一次X線に加え,二次ターゲットからの蛍光X線によって励起効果の増強が得られるかを検討した.その結果,毛髪中のZn Ca等の強度が約10% 増幅された.本方法を用いることで,非破壊的に毛髪中の微量元素(Zn, Ca)をより高強度に検出できる可能性があることが分かった.

  • 政井 咲更美, 門木 秀幸
    原稿種別: 技術論文
    2023 年 72 巻 10.11 号 p. 425-430
    発行日: 2023/10/05
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー

    水酸化鉄(III) 共沈法による六価クロム定量において,アルカリ条件での水酸化鉄(III) 沈殿の微細化が三価クロム除去率へ与える影響について明らかにした.硫酸アンモニウム鉄(III) 溶液を添加後,水酸化ナトリウム溶液を用いてpHを調整し,加熱・放冷後にろ過を行い三価クロムと六価クロムを分離した.加熱・放冷後のpHが10.78〜12.67では三価クロム除去率が低下し,六価クロムの定量値に正の誤差を与えることが確認された.これは,ろ液の鉄濃度が上昇し,ろ液が着色したことから,水酸化鉄(III) 沈殿が微細化し,三価クロムとともにメンブレンフィルターを通過したためと考えられた.塩化カルシウムを添加した結果,水酸化鉄(III) 沈殿の凝集を促進し,三価クロム除去率が向上することを確認した.また,塩化カルシウムの添加は六価クロム回収率には影響しなかった.この結果,加熱・放冷後のpHが8.95〜13.07で,六価クロムの回収率は90% 以上,三価クロムの除去率は98% 以上となり,定量的な分離が可能となった.

  • 齊藤 幸, 安陪 智史
    原稿種別: 技術論文
    2023 年 72 巻 10.11 号 p. 431-440
    発行日: 2023/10/05
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー

    2,4-ジニトロフェニルヒドラジン(DNPH)誘導体化/HPLC法は,さまざまな分野でカルボニル化合物の分析に活用されてきた.臭気分野におけるクロマトグラフィーでは,物質のにおいが分子構造に起因することから,試料中に共存する測定対象の異性体分離が重要な課題となるが,カルボニル化合物をDNPH誘導体として測定する際には,測定対象の構造異性体だけでなく,DNPH誘導体の立体異性体(syn/anti異性体)についても,十分に留意する必要がある.本研究では,DNPH誘導体のsyn-体及びanti-体の両方を含む18種カルボニル化合物─DNPH混合溶液を,大気捕集したDNPHカートリッジからの溶出液の模擬試料として用い,悪臭防止法に規定される特定悪臭物質アルデヒド類6物質の測定方法を検討・評価した.その結果,C8カラムを用いた場合に,測定対象6物質について良好な分離が得られ,分析値の信頼性が確認された.さらに,得られた方法を用いて事業場からの排出ガスの測定を行い,各アルデヒドが事業場周辺の臭気に与える影響を評価した.

  • 森井 志織, 蓬田 匠, 浅井 志保, 大内 和希, 岡 壽崇, 北辻 章浩
    原稿種別: 技術論文
    2023 年 72 巻 10.11 号 p. 441-448
    発行日: 2023/10/05
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー

    高レベル放射性廃棄物(HLW)等の処分時の安全評価対象核種のひとつであるZr-93のICP–MS定量分析をより迅速化する手法として,Zrを選択的に固相抽出した試料をそのままレーザーアブレーション(LA)してICP–MSで定量分析する技術開発を行った.DGAレジンにZrのみを吸着させる新規Zr固体試料調製法により,試料調製時間を従来よりも大幅に短縮した.Zr固体試料をLA–ICP–MS測定するための最適なレーザー照射条件を検討した.開発した手法をHLW模擬試料中のZr同位体定量に適用した結果,IDMSにより求めた同位体定量値は試料の元素濃度から求めた含有量と不確かさの範囲で一致したため,実際の放射性廃棄物試料中のZr-93についても同様の手順で定量できる見込みを得た.

ノート
  • 宮内 俊幸, 井垣 侑生, 三浦 航輝, 爾見 優子
    原稿種別: ノート
    2023 年 72 巻 10.11 号 p. 449-454
    発行日: 2023/10/05
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー

    固定化ウレアーゼを用いたホルムアルデヒドの間接定量を行った.すなわち,尿素とホルムアルデヒドとの反応で,未反応の尿素を固定化ウレアーゼでアンモニアに変換し,生成アンモニアをICで測定した.固定化ウレアーゼは,ポリアミンを導入した木質系及び草本系バイオマスにウレアーゼを吸着させて調製した.固定化ウレアーゼの活性は,スギ(53.8 U mg−1)>イネ(40.4 U mg−1)>ケナフ(34.0 U mg−1)>ブナ(11.5 U mg−1)の順となった.そこで,一定量の尿素に所定量のホルムアルデヒドを加え,塩酸酸性下で時折振り混ぜながら静置した.未反応の尿素を固定化ウレアーゼ充填カラム付きIC-FIAシステムへ展開し,尿素由来のアンモニアを測定した.ホルムアルデヒドが1.0〜5.0 mgの範囲で良好な直線性(r=0.9968)を示し,ホルムアルデヒドの定量が可能だった.また,共存物質の影響は,アセトアルデヒドの影響は受けるがそれ以外のアルデヒドの妨害は受けることなく定量可能であった.

  • 新井 勇貴, 田中 春樹, 中井川 貴城
    原稿種別: ノート
    2023 年 72 巻 10.11 号 p. 455-461
    発行日: 2023/10/05
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー

    本研究ではAFMフォースカーブ測定のリリース時に探針と表面との間に引力が働く距離(破断長,Rupture length)に着目して解析を行った.その結果,破断長マッピング像は鮮明なコントラストが得られることがわかった.本報では,表面処理材料が異なるシリカ粒子の凝着力─破断長プロットから材料間で分布に差異があることを示し,LiBバインダ材料,海島構造を有するポリマー硬化膜表面に対する鮮明な破断長像を示した.破断長は通常のフォースカーブデータセットを用いて解析できるものであり,凝着力と同様に材料表面の特性を表す基本的な計測指標として取り扱うことができると考えられる.

アナリティカルレポート
  • 寺尾 祐子, 椙山 卓郎, 平兮 康彦, 岩戸 薫, 宮下 陽介, 槇納 好岐, 山下 修司, 栗原 かのこ, 平田 岳史
    原稿種別: アナリティカルレポート
    2023 年 72 巻 10.11 号 p. 463-469
    発行日: 2023/10/05
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー

    フェムト秒レーザーでのアブレーションによるサンプリング技術と,誘導結合プラズマ質量分析法を組み合わせた「フェムト秒レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法」(fsLA-ICP-MS法)が,さまざまな固体試料中の主成分や微量成分の高感度,高速な分析法として注目を集めている.fsLA-ICP-MS法を用いることで,硝酸,塩酸,フッ酸などの危険な試薬を用いた煩雑な前処理を行うことなく,また,環境や実験器具による元素汚染の影響を受けることなく,超高感度な元素分析が可能である.一方で,これまでfsLA-ICP-MS法による有機マトリックス中の微量元素の定量分析に適した標準物質がなかったため,さまざまな試料中の元素濃度を正確に測定することが困難だった.この問題を克服するため,0.1〜100 mg kg−1の幅広い濃度範囲で18種類の元素を含み,有機物をマトリックスとする新たな標準試料を開発した.開発したfsLA-ICP-MS法用標準試料の詳細と,これを用いた微量分析の事例について報告する.

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