分析化学
Print ISSN : 0525-1931
71 巻, 3 号
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分析化学総説
  • 金子 諒右, 森 健, 片山 佳樹
    原稿種別: 分析化学総説
    2022 年71 巻3 号 p. 101-107
    発行日: 2022/03/05
    公開日: 2022/05/11
    ジャーナル フリー

    生体試料中のタンパク質を抗体により標識して検出するバイオ分析において,色素に由来する検出シグナルの増強を行うために,酵素を用いた増感反応が行われる.本総説では,バイオ分析に用いる増感酵素に望まれる性質を議論し,従来用いられてきた3種の増感酵素(西洋ワサビ由来ペルオキシダーゼ,アルカリ性フォスファターゼ,β-ガラクトシダーゼ)が,これを満足することを示す.一方で,従来の酵素に欠けていた視点を述べ,これを取り入れた新しい増感酵素のクラスとして,「哺乳類直交性酵素」を提案し,その例として,著者らが見いだしたα-アラビノフラノシダーゼを紹介する.この新しいクラスの酵素を複数用意すれば,複数抗原の多色検出が可能となり,バイオ分析の有用性が大いに高まると期待される.

総合論文
  • 宇田川 喜信, 伊藤 健太郎, 井上(安田) 久美, 梨本 裕司, 伊野 浩介, 珠玖 仁
    原稿種別: 総合論文
    2022 年71 巻3 号 p. 109-117
    発行日: 2022/03/05
    公開日: 2022/05/11
    ジャーナル フリー

    バイオ分析において基質が果たす役割は大きい.例えば,イムノアッセイでは酵素標識された抗体が用いられ,さらに酵素に特異的に反応する基質を添加して,酵素生成物を検出することで目的の測定物を定量できる.健康診断における検体サンプルや培養細胞における抗原の検出では,酵素を用いた免疫染色法が幅広く用いられており,基質からの酵素生成物の着色により可視化されている.多くの場合は,生成物の光学特性を生かし,着色したり,吸光度測定したりするが,装置の簡便さや優れた定量性を生かし,電気化学計測も提案されている.このような応用では基質が重要であり,生成物が電気化学計測できる物質である必要がある.現在,様々な電気化学基質が購入可能であり,また目的対象物に応じて新しい電気化学基質が開発されている.本総合論文では,それらをまとめて紹介する.さらに,電気化学基質からの生成物を測定するための最先端の電気化学測定システム・デバイスを紹介する.

  • 松本 祥汰, 梅野 智大, 臼井 一晃, 唐澤 悟
    原稿種別: 総合論文
    2022 年71 巻3 号 p. 119-131
    発行日: 2022/03/05
    公開日: 2022/05/11
    ジャーナル フリー

    電子ドナー性置換基とアクセプター性置換基を導入した二環性アミノキノリン誘導体やアミノナフチリジン誘導体は,溶媒などの環境に応答して発光変化する特徴を有し,プッシュプル型発光物質に分類される.著者らはこれまでに,これらの誘導体を使って様々な外部刺激に応答した発光現象を見いだしており,本稿では外部刺激として酸塩基に応答する三つの誘導体について紹介する.酸応答性では,ジヒドロイミダゾナフチリジン誘導体の芳香族性の違いに着眼した検出試薬である.塩基応答性では,アミン類に対して特徴的に応答する二つの発光物質について報告する.1,5-ナフチリジン誘導体はアミン類に対して,励起状態で錯体(エキサイプレックス)を形成し長波長発光を示す.もう一つは,アミノベンゾキノリン誘導体とHClとで生じる塩酸塩についてである.この塩酸塩はアミノ基のドナー性が失われるため無着色・無発光性を示すが,アンモニアによって脱塩し呈色・発光が回復する.以上,酸塩基に対して応答する3種類のプッシュプル型発光物質についての報告であり,これらは応答前後で大きく化学構造が変化しない特徴があり,再利用可能な検出試薬として分類できる.

  • 西澤 精一, 佐藤 貴哉, En Ting Tabitha LEE, 坂本 直柔, 千葉 年輝, 田邉 貴昭, 芳野 幸奈, 高橋 勇樹, ...
    原稿種別: 総合論文
    2022 年71 巻3 号 p. 133-144
    発行日: 2022/03/05
    公開日: 2022/05/11
    ジャーナル フリー

    三重鎖形成ペプチド核酸(PNA)は,現在までに開発された合成分子のなかで,RNA二重鎖へ塩基配列選択的に結合し,かつDNA二重鎖よりも強く結合できる唯一の分子である.その特性を上手く活用することができれば,一本鎖RNA構造(領域)を標的とした従来の核酸プローブとは質的に異なる,全く新しい分析技術の創製につながると期待できる.そのためには,明瞭な蛍光シグナル機能を付与するとともに,三重鎖核酸形成のボトルネックである「塩基配列の制限」と「酸性条件」を克服する必要がある.本稿では,著者らが開発を進めたtriplex-forming forced intercalation of thiazole orange(tFIT)プローブについて報告する.

報文
  • 唐島田 龍之介, 武者 洸貴, 壹岐 伸彦
    原稿種別: 報文
    2022 年71 巻3 号 p. 145-151
    発行日: 2022/03/05
    公開日: 2022/05/11
    ジャーナル フリー

    中間体Yb1TCAS1錯体の分取後にTbIIIを添加することで,Tb2Yb1TCAS2錯体の生成を抑えTb1Yb2TCAS2錯体の選択的合成に成功した.単離したTb1TCAS1錯体にYbIIIを添加した場合,Tb2Yb1TCAS2錯体の生成比率は低下したことから,異核錯体の生成比率はLn1TCAS1錯体の解離速度とLn2TCAS2錯体への錯形成速度の大小関係に依存することがわかった.得られたTb1Yb2TCAS2錯体は配位子中心からのエネルギー移動によるTbIII発光とYbIII発光を示した.同核錯体(Ln3TCAS2)と比較すると,錯体当たりのTbIII発光は強度が0.08倍(Tb当たり0.24倍)に減少し,YbIII発光は1.39倍(Yb当たり2.09倍)に増感しており,TbIII→YbIIIエネルギー移動の存在が示唆された.TbIII発光寿命からエネルギー移動効率は26% であることが明らかになった.

  • 祝迫 健人, 新留 康郎
    原稿種別: 報文
    2022 年71 巻3 号 p. 153-157
    発行日: 2022/03/05
    公開日: 2022/05/11
    ジャーナル フリー

    ゼブラフィッシュに対して金ナノロッドを混入した餌を投与し,その動態を組織切片から脱離する金イオンのイメージング質量分析によって追跡した.摂食直後は消化器官から強い金イオンのシグナル(m/z 197)が得られ,12時間後には肝臓にも分布し,さらに24時間後には金イオンシグナルはごくわずかの点からしか得られなかった.臓器を摘出してマススペクトルを測定すると,肝臓に金ナノロッドが滞留することが確認できた.24時間後には,ほとんどの金ナノロッドは体外に排出された.金ナノロッドがナノ材料の体内動態を少なくとも24時間にわたって追跡することができるマスプローブとして機能し,ナノ材料の生体へのリスクを評価する材料になることが明らかになった.

  • 鹿犱 美春, 南川 朋花, 上田 敏久, 鎌田 海, 宗 伸明
    原稿種別: 報文
    2022 年71 巻3 号 p. 159-166
    発行日: 2022/03/05
    公開日: 2022/05/11
    ジャーナル フリー

    グルコースオキシダーゼ(GOx),西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP),チタン酸ナノシート(TiOx),及び磁気ビーズ(MB)から成る材料,GOx/HRP/TiOx/MB複合体を開発し,磁石への応答能とグルコース検出用材料としての性能を検討した.pH 4の酢酸緩衝液中,静電的相互作用を利用することで,目的としたGOx/HRP/TiOx/MB複合体を作製することが可能であった.また,得られたGOx/HRP/TiOx/MB複合体は,磁石に対する優れた応答能と高い酵素保持能を有していた.酢酸緩衝溶液中,o-フェニレンジアミン(OPD)の存在下において,GOx/HRP/TiOx/MB複合体にグルコースを添加すると,OPDからの発色体形成に起因する450 nm付近の吸光度の増大が観測された.450 nmにおける吸光度(A450)の値は,グルコース濃度が増大するのに伴って増加し,一方,フルクトース,ガラクトース,マンノース,スクロース,マルトースを添加した場合は,A450値の大きな変化は観測されなかった.したがって,GOx/HRP/TiOx/MB複合体を用いる本分析法が,グルコース検出能と選択性を有していることが示された.本研究で用いた磁気ビーズへの酵素固定化法は,操作的に簡便かつ短時間で行えるため,分析ツールとしての様々な酵素固定化磁気ビーズを作製するうえで,有用性を発揮することが期待できると考えられる.

  • 橋本 剛, 田淵 直人, 早下 隆士
    原稿種別: 報文
    2022 年71 巻3 号 p. 167-178
    発行日: 2022/03/05
    公開日: 2022/05/11
    ジャーナル フリー

    ポリアミドアミン(PAMAM)デンドリマーにジピコリルアミン(dpa)配位子を修飾した高分子型分析試薬を開発し,多点認識によるリン酸誘導体応答能を紫外可視(UV-vis)吸収スペクトルにより評価した.デンドリマー型分析試薬は酸アミド縮合により合成し,亜鉛イオンの添加によるUV-vis吸収スペクトル変化からデンドリマー中の修飾数を決定した.遷移金属を配位させたデントリマー型プローブと6種のリン酸アニオン誘導体との挙動を濁度変化により調べた結果,リン酸基を複数持つアニオンに対してのみ吸光度上昇を伴う応答が確認された.そのメカニズムや挙動について,吸光度の経時変化やEDTA溶液添加により実験的検討を行った結果,多点─多点相互作用による凝集体形成が示唆された.また,反応溶媒の水─有機溶媒組成比を変えて行った実験からは,有機溶媒の組成比を高くするほど凝集能が落ち,凝集には疎水性相互作用も関わっていることが明らかとなった.

技術論文
ノート
アナリティカルレポート
  • 遠矢 将太郎, 園田 達彦, 前田 憲成
    原稿種別: アナリティカルレポート
    2022 年71 巻3 号 p. 201-206
    発行日: 2022/03/05
    公開日: 2022/05/11
    ジャーナル フリー

    Nucleic acid extracted from environmental samples is an important analyte in instrumental analysis. With respect to the phenomenon in which sodium tungstate promotes the methane production in anaerobic digestion, the analyses of microbial community using RNA were conducted; however, we noticed that only RNA concentration measured by absorbance measurement (NanoDrop) was remarkably high. Therefore, in this study, DNA and RNA were extracted from the anaerobic digestion sludge samples with sodium tungstate, sodium selenite, or sodium molybdate, and these nucleic acids were quantified and compared by absorbance measurement, fluorescence measurement (Qubit), and gel electrophoresis. Interestingly, it was found that only the RNA concentration of the sample containing sodium tungstate measured by NanoDrop was 3 times higher than that by Qubit analysis. In addition, there was no difference between the RNA concentration measured by Qubit and gel electrophoresis. Regarding DNA concentration and the other compounds, there were no differences. Hence, these results indicate that the Qubit system is useful for the quantification of the RNA concentration in the environmental samples.

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