分析化学
Print ISSN : 0525-1931
52 巻, 11 号
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報文
  • 有山 薫, 堀田 博, 安井 明美
    原稿種別: 報文
    2003 年52 巻11 号 p. 969-978
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/01/30
    ジャーナル フリー
    ネギの産地判別を目的として,ネギに含まれる22無機元素の含有量測定法を確立した.標準物質(Spinach LeavesとApple Leaves)について,1% 塩酸によるNa抽出法の検討とHNO3/HClO4とHNO3/HClO4/HFによる酸分解法の比較検討を行い,1% 塩酸でのNa抽出法とHNO3/HClO4/HF分解法をネギの無機元素分析に適用した.この方法を用いてネギを部位別に分析することで,産地判別に用いる分析対象部位としてネギの下部10 cmの部位を,測定対象元素として22元素を決定した.試料溶液について,Naはフレーム原子吸光分析法で,Mg,P,K,Ca,Mn,Fe,Cu,Zn,Sr,Baは誘導結合プラズマ発光分析法で,Al,Co,Ni,Rb,Mo,Cd,Cs,La,Ce,Tl,Pbは誘導結合プラズマ質量分析法により,国産47検体及び中国産15検体のネギについて22元素を定量した.得られた測定値についての主成分分析の結果から,国産と中国産ネギの間で無機元素組成に異なった傾向が見られ,産地を判別できる可能性が示唆された.
  • 井上 雅枝, 村瀬 篤, 杉浦 元保
    原稿種別: 報文
    2003 年52 巻11 号 p. 979-988
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/01/30
    ジャーナル フリー
    固体表面に微量付着したシリコーンオイルの分子量と分子構造を直接評価する方法を検討し,銀蒸着/飛行時間型二次イオン質量(TOF-SIMS)法が有効であることを見いだした.固体試料の表面に銀を蒸着し蒸着面をTOF-SIMS分析したところ,銀によるイオン化が起き,通常のTOF-SIMS分析では生成しない質量数数千の銀を含む擬似分子イオンが検出できた.銀蒸着法として二極スパッタ法と真空蒸着法の2種類を検討し,二極スパッタ法を用いた場合は試料の冷却が必要であったが,真空蒸着法を用いた場合は室温での蒸着によっても擬似分子イオン群を検出できた.本法により,固体表面に極微量付着したシリコーンオイルの構造(側鎖,末端基)と分子量及びその面分布の評価が可能となった.本法を塗膜はじきの原因調査に適用したところ,原因となったシリコーンオイルの判別ができ,実用性が確認できた.また,シリコーンオイルだけでなくオイル添加剤,鉱油など幅広く応用可能であることも確認した.
  • 宮脇 崇, 川嶋 文人, 本田 克久
    原稿種別: 報文
    2003 年52 巻11 号 p. 989-995
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/01/30
    ジャーナル フリー
    本報は,超臨界二酸化炭素を用いた土壌中PCDD/DFs抽出への水分の影響について検討を行った.その結果,水分含量が1.6~9.8% の範囲において水分含量の増加に伴い,PCDD/DFsの抽出効率が向上し,塩素数に応じた各異性体の抽出効果にも大きな影響を与えることが明らかになった.このことから,超臨界二酸化炭素抽出において水がモディファイア作用を持つこと,あるいは水分が土壌粒子表面におけるPCDD/DFsの吸着形態になんらかの影響を与えている可能性が考えられる.また,ソックスレー抽出についても同様の検討実験を行い,試料中の水分がその抽出効率に影響することが確認された.したがって,これら抽出法により土壌中PCDD/DFsの抽出を行う際には,その水分調整についてあらかじめ検討する必要があると思われる.このソックスレー抽出における水分の影響に関する報告例はこれまでほとんどなされていないため,ダイオキシン類測定上,極めて重要な知見である.
  • 若杉 幸子, 田中 美穂, 前田 勝
    原稿種別: 報文
    2003 年52 巻11 号 p. 997-1003
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/01/30
    ジャーナル フリー
    三宅島雄山の噴火により大量に放出された火山灰の環境,特に水環境へ与える影響を見積もるために,火山灰を純水とともに接触・振とうさせ,溶出液についてイオンクロマトグラフィーによる陰イオン分析,比濁法による硫酸イオン分析,キャピラリー電気泳動による陽イオン分析を行った.その結果,火山灰と接触することによりpHが下がり,硫酸イオンが溶出していることが分かった.これは,火山灰に含まれる硫黄の23% 以上が硫酸として溶出した量に相当する.2000年の三宅島雄山の噴火における火山灰噴出量から推測すると,50万トンの溶出可能な硫酸イオンが存在していることになる.この結果は,火山灰が水環境に悪影響を及ぼすことを示すものであり,また同時に様々な重金属を溶出している可能性を示唆するものである.今後,更に火山灰が水環境へ与える負荷を化学的に研究していく必要がある.
  • 西山 尚秀, 陳 子林, 中釜 達朗, 内山 一美, 保母 敏行
    原稿種別: 報文
    2003 年52 巻11 号 p. 1005-1009
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/01/30
    ジャーナル フリー
    L-リシンアミドをキラルセレクターとし,配位子交換原理を利用した光学異性体分離用のモノリスカラムを開発した.L-リシンアミドは2つのアミノ基を有するアミノ酸アミドであり,従来配位子交換のキラルセレクターとして用いられていない.本研究では分析対象試料にダンシルアミノ酸を用い,キャピラリー電気クロマトグラフィー(CEC)及びマイクロHPLC(μ-HPLC)での分離を検討した.CEC分離では,電気浸透流(EOF)が陰極から陽極に流れ,移動相のpHを小さくすると,従来のフェニルアラニンアミド等のキラルセレクターで修飾したカラムよりもEOFの速度が速くなることを見いだした.CECではμ-HPLCの約5倍の理論段数が得られ,その特性から高分離能であった.一方,μ-HPLCでは低圧力負荷で分離することが可能であった.本研究で開発したL-リシンアミドキラルモノリスカラムは光学異性体の分離において既報告のセレクターとは異なるEOFの性能を示すことを明らかにした.
技術論文
  • 鎗田 孝, 仲間 純子, 沼田 雅彦, 青柳 嘉枝, 山崎 美佐子, 高津 章子
    原稿種別: 技術論文
    2003 年52 巻11 号 p. 1011-1017
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/06/29
    ジャーナル フリー
    底質中のポリクロロビフェニル(PCB)異性体の迅速かつ精確な測定を目的として,加圧流体抽出法(PFE)と同位体希釈-ガスクロマトグラフィー/質量分析法(ID-GC/MS)を組み合わせた分析法を確立した.ID-GC/MSによる定量のために,4種類の測定対象PCB(塩素数: 3,5,6及び7)と,その標識体として試料に添加した4種類の13C12-PCBについて,質量比とピーク面積比との関係を検討した.また,PFEによるPCBの抽出挙動を検討し,高抽出効率が達せられる条件{抽出溶媒: ヘキサン/アセトン(1 : 1,v/v),抽出圧力: 15 MPa,抽出温度: 150℃ 及びスタテック時間: 30分}に抽出条件を設定した.確立した測定条件における13C12-PCBの回収率は良好(79.5~86.8%)であった.更に本法をCommunity Bureau of Reference製認証標準物質CRM 536(淡水域底質中のPCB)の分析へ適用した.本法による測定値はソックスレー抽出法による測定値や認証値よりもおおむね高く,併行精度も良好であったことから,本法は底質中のPCB異性体の迅速かつ精確な測定法であることが示された.
  • 平木 登, 磯崎 昭徳, 長嶋 潜
    原稿種別: 技術論文
    2003 年52 巻11 号 p. 1019-1024
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/01/30
    ジャーナル フリー
    C30カラムは,トリアコンチル基(C30)を主成分とするアルキル基をシリカに化学結合させた新規な固定相である.このカラムを使用して,無機陰イオンの逆相イオン対クロマトグラフィーに適用した.塩化テトラブチルアンモニウム及びアセトニトリルを含むリン酸緩衝溶液(pH 6.0)移動相を用い,紫外吸光検出器を組み合わせ,5種無機陰イオン(NO2,NO3,I,S2O32-及びSCN)の溶出挙動を調べた.移動相組成の検討により,5種無機陰イオンを15分以内に良好に分離定量することができた.本法を既報の亜硝酸及び硝酸イオンに引き続いてチオシアン酸イオンの分離定量法に適用した.チオシアン酸イオンの定量範囲は0.05~50 μg/mlであり,検出限界は10 ng/ml(S/N=3)であった.また,検量線の相関係数は0.999以上を示し,繰り返し測定による相対標準偏差は0.2% 未満(n=10)と良い再現性を示した.確立した定量法をヒトだ液及びラット血液試料等に適用し良好な結果を得た.
  • 山口 仁志, 伊藤 真二, 長谷川 信一, 井出 くに和, 小林 剛
    原稿種別: 技術論文
    2003 年52 巻11 号 p. 1025-1028
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/01/30
    ジャーナル フリー
    高純度銅中の微量不純物元素定量においては必要不可欠なマトリックス元素分離法について検討した.イオン交換分離法において,EDTAを用いてマトリックス元素である銅をマスキングすることにより樹脂への吸着を防止し,目的元素のみを分離する方法を確立した.銅を硝酸で加熱分解し,EDTAを添加し,陽イオン交換樹脂を用いて銅と不純物元素とを分離する.硝酸を用いて樹脂に吸着した不純物元素を溶離し,誘導結合プラズマ発光分光分析法で測定する.本法により,マトリックスである銅の99.9% 以上が分離でき,Al,Ca及びMg等で回収率は約98% 以上であった.銅合金標準試料MBH CRM CB2の合金元素であるBe及び不純物Mnなどの定量値は認証値とよく一致した.
  • 齋藤 剛, 井原 俊英, 佐藤 浩志, JANCKE Harald, 衣笠 晋一
    原稿種別: 技術論文
    2003 年52 巻11 号 p. 1029-1036
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/01/30
    ジャーナル フリー
    定量核磁気共鳴(NMR)法は測定原理から国際単位系に結び付く測定法として注目されているが,この方法を利用し高精度な定量測定を行った報告は少ない.定量NMR法を利用して,国際度量衡委員会の物質量諮問委員会が主催した水溶液中のエタノールの定量に関する国際比較に参加した.結果は調製値からの偏差が0.2% と良好であった.NMRでのエタノール水溶液の定量においては,内標準物質として,3-トリメチルシリルプロピオン酸ナトリウム塩-d4を利用した.エタノールのメチルとメチレンピークでは,積分値の測定繰り返しのばらつきは大きく異なり,水ピークの影響がメチレンピークの積分安定性に影響していることが示唆された.定量NMRの繰り返し精度は,0.4% 以下で,ひょう量など試料調製と同等水準の不確かさを持つことが分かった.分散分析の結果,今回利用した内標準物質は,この系で利用する場合,用時調製が適切であると考えられた.国際比較の結果から,NMRの定量性は,ガスクロマトグラフィーを利用した定量性と同等な結果が得られることが分かった.
テクニカルレター
  • 中村 洋, 上路 雅子, 村山 真理子, 小田中 芳次, 永山 敏廣, 松本 保輔, 石井 實, 藤川 敬浩, 花井 正博, 鶴田 暁, 柿 ...
    原稿種別: テクニカルレター
    2003 年52 巻11 号 p. 1037-1045
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/01/30
    ジャーナル フリー
    The Japan Society for Analytical Chemistry has developed two new certified reference materials (CRMs) for the analysis of residual amounts of simazine and dieldrin in field soils. A study team has been organized to prepare 2 kinds of field soils by blending loan soil that contains simazine and former farmland soil that contains dieldrin. An interlaboratory comparison test, in which 22 laboraotries participated, was carried out. In a statistical analysis of all data, z-scores in robust method were applied to reject outliers, followed by the usual statistical procedure. The presented CRMs are expected to be useful for quality assurance and quality control in the analysis of residual pesticide in soils.
  • 檀崎 祐悦, 我妻 和明
    原稿種別: テクニカルレター
    2003 年52 巻11 号 p. 1047-1052
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/01/30
    ジャーナル フリー
    It is relatively difficult to dissolve metallic Ru and Ru alloys by using acids; therefore, proper dissolution methods should be investigated for each Ru alloy. In general, the dissolution procedure should be selected depending on the elemental composition of the alloys. In addition, it should be noted that Ru oxide is easily volatilized by heating due to the low boiling point, possibly causing a serious loss of Ru. The following dissolution methods are recommended to obtain completely dissolved solutions as well as to prevent from the volatilization of Ru. Alloys containing Ru of less than 36% could be dissolved in proper acid mixtures. Al-Ru-Cu alloy samples and Ni-Al-Ru alloy samples could be dissolved by heating in HNO3 : HCl : H2O = 1 : 3 : 4 and HNO3 : HCl : H2O = 1 : 1 : 2, respectively. Ce-Sn-Ru alloy samples were dissolved in a mixed acid of HNO3 : HCl : H2O = 1 : 3 : 4, tartaric acid, and H2O2 at room temperature. Ru alloy samples that cannot be dissolved in any mixed acid need to be fused with a mixture of NaOH and Na2O2. The melts of Ru-Mn-Si alloy samples were dissolved with water, followed by the addition of HCl (1 + 1). Then residual MnO2 was dissolved by dropping H2O2, and white Zr oxide was filtered off. The melts of Mo-Ru-B alloy samples were dissolved in HNO3 : HCl : H2O = 1 : 3 : 4 and white Zr oxide was then dissolved by heating. The melts of Ce-Ru-Ge alloy samples were dissolved with water, and subsequently a mixed acid of H2SO4 (1 + 1), HNO3 (1 + 1) and tartaric acid was added. Residual CeO2 was dissolved by heating after the addition of H2O2. In this case, H2SO4 was used instead of HCl to prevent the volatilization of Ge.
  • 井原 俊英, 四角目 和広, 大塚 聡子, 上野 博子, 吉村 和子, 大手 洋子, 松本 保輔, 野村 明
    原稿種別: テクニカルレター
    2003 年52 巻11 号 p. 1053-1059
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/01/30
    ジャーナル フリー
    国際度量衡委員会下の物質量諮問委員会の主催により行われた化学計測分野の国際比較試験である「水溶性マトリックス中のエタノールの定量に関する国際比較」に参加した.国際比較試験のうち,校正証明書の同等性を相互に承認するための要件として行われる正式なものが基幹比較であるが,本国際比較はその前段として行われる研究的なものであり,パイロット研究と呼ばれる.本パイロット研究における測定対象は水溶液中のエタノール及びワイン中のエタノールの2種類であった.測定法や調製法に関する制約は特になかったため,化学物質評価研究機構と共同で濃度測定法等の検討を行い,ガスクロマトグラフ-水素炎イオン化検出器を用いる精確な定量法を設定した.確立された手法に基づき当機関で得られた定量結果を報告したところ,参照値ともよく一致し,参加機関の中でも不確かさの小さい良好な結果を得ることができた.また,国際比較全体としてもおおむね一致した結果が得られたことから,本パイロット研究の目的はほぼ達成されたと判断され,基幹比較の実施が決定された.
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