分析化学
Print ISSN : 0525-1931
70 巻, 12 号
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分析化学総説
  • 武藤 悠, 座古 保
    原稿種別: 分析化学総説
    2021 年 70 巻 12 号 p. 661-670
    発行日: 2021/12/05
    公開日: 2022/02/21
    ジャーナル フリー

    溶液中で分散した直径数〜数十ナノメートルの金ナノ粒子は鮮やかな赤色を呈するが,外的要因によって凝集すると,吸収波長のレッドシフトが起こり,紫色もしくは青色へと変色する.この金ナノ粒子の分散・凝集に伴う大きな色調の変化を利用して,生体分子(DNA,タンパク質など),金属イオン,有機分子など様々な分子を検出できるセンサーが構築されている.しかし,金ナノ粒子の色調変化は,分散・凝集の状態が大きく変化しないと観察することができず,高感度な測定系の構築が困難であった.そのため,近年では低濃度のターゲットを検出するために,シグナル増幅機構を用いた様々なセンサーが提案されている.本総説では,まず光吸収に関連する金ナノ粒子の光学特性と金ナノ粒子の分散安定性について概説し,次に金ナノ粒子の色調変化を利用したセンサーと,そのセンサー感度の向上を目指したシグナル増幅機構について紹介する.

総合論文
  • 原賀 智子, 齋藤 伸吾
    原稿種別: 総合論文
    2021 年 70 巻 12 号 p. 671-679
    発行日: 2021/12/05
    公開日: 2022/02/21
    ジャーナル フリー

    高放射線量の試料に含まれるランタノイド(Ln)イオンやアクチノイド(An)イオンの総量を簡便・迅速・安全に分析する手法が求められている.キャピラリー電気泳動─レーザー励起蛍光検出法(CE-LIF)は高感度であるだけでなく,少試料量・少廃液量な分析法であるため,総放射線量を抑えた安全な手法となりうる.しかし,Ln及びAnイオンをCE-LIF検出した例はほとんどない.これは,CE-LIFで効果的に機能する錯形成反応系が設計・開発されていなかったためである.本論文では,CE-LIFで機能するLn及びAnイオン検出用蛍光プローブを開発し,プローブ錯体の効率的なCE分離のための動的三元錯体平衡反応を導入した例を紹介する.アミノカルボン酸錯形成部位と蛍光団及び両部位を接続するスペーサーから成る数種のプローブ分子の中で,Ln及びAnイオンを検出可能なものを探索し,使用済核燃料中Ndイオン検出,Am-Cmイオン間分離検出及び実放射性試料中UO22+の特異的検出に成功した例について詳細に説明する.

  • 鈴木 祥夫
    原稿種別: 総合論文
    2021 年 70 巻 12 号 p. 681-690
    発行日: 2021/12/05
    公開日: 2022/02/21
    ジャーナル フリー

    近年,疾患関連物質に関する研究が目覚ましく進歩しており,がん,免疫受容体,受精,発生・分化,感染症,バイオ医薬品開発等において,重要な役割を果たしていることが明らかとなっている.生体中に存在する疾患関連マーカー物質は極微量にしか存在しないため,新たな評価技術の開発が求められている.著者らはこれまでに独自に開発した環境応答性が高い蛍光物質と,疾患関連物質,神経伝達物質等に対して親和性の高い物質(ペプチド等)を併せ持つ新規化合物を開発してきた.さらに磁気粒子等の無機材料の表面に上記有機蛍光物質を修飾し,種々の濃度の疾患関連物質を添加したところ,蛍光強度の変化及び磁気ビーズを用いることによる疾患関連物質の高感度検出が達成された.本論文では,著者が開発したこれらの材料について,分析化学からの視点に重点を置き紹介する.

  • 佐々木 由比, Xiaojun LYU, Yousi YUAN, 南 豪
    原稿種別: 総合論文
    2021 年 70 巻 12 号 p. 691-702
    発行日: 2021/12/05
    公開日: 2022/02/21
    ジャーナル フリー

    天然の分子認識機構に着想を得たケモセンサアレイは,強力なパターン学習技術との組合せにより多元混合化学情報を可視化するが,本センサシステムをオンサイトに展開した化学センサの開発は萌芽(ほうが)段階にある.本論文では,オンサイト分析用ケモセンサアレイの創製を目指して,固相センサアレイチップと画像解析を組み合わせたアプローチについて紹介する.当該センサアレイチップは,ヒドロゲルに担持したπ共役高分子や紙基板上に実装した自己組織型ケモセンサで構成される.再現性のある均一性の高い色調の画像を取得するため,実験計画法を用いたセンサ設計を行った.さらに,分子自体の柔軟性や分子間相互作用を活用したケモセンサによって,少ない数のセンサ数で多数の応答パターンを作り出す「ミニマムケモセンサアレイ」が実現される.著者らは,本概念と実験計画法を組み合わせた最適なデバイスを設計することで,実サンプルに含まれる化学種を前処理することなく定量的に検出する分析システムを実現した.

  • 西澤 精一, En Ting Tabitha LEE, 芳野 幸奈, 矢島 さやか, 六川 正文, 佐藤 雄介
    原稿種別: 総合論文
    2021 年 70 巻 12 号 p. 703-714
    発行日: 2021/12/05
    公開日: 2022/02/21
    ジャーナル フリー

    バクテリアリボソームRNA(rRNA)のA-siteは抗菌薬の主要なターゲットのひとつであり,アミノグリコシドが抗菌薬として広く用いられている.しかし,アミノグリコシド系抗菌薬を含むほとんどの抗菌薬に対して薬剤耐性菌が出現しており,新たな抗菌薬開発が国際的な課題となっている.本稿では,抗菌薬開発(スクリーニング)を強力に支援しうるFID法(fluorescence indicator displacement assay)の蛍光インジケータとして,バクテリアrRNAのA-siteを標的とする蛍光プローブに関する著者らの研究成果について報告する.併せて,著者らが開発した生細胞核小体イメージング蛍光色素について報告する.

報文
  • 田邉 壮, 板垣 賢広, 陶国 智史, 椎木 弘
    原稿種別: 報文
    2021 年 70 巻 12 号 p. 715-719
    発行日: 2021/12/05
    公開日: 2022/02/21
    ジャーナル フリー

    ITOガラスに大腸菌(E. coli)を含むポリピロール膜(PPy)を作製し,E. coliの活性を光学的及び電気化学的手法により評価した.好気条件下,PPy膜におけるE. coliの増殖を暗視野顕微鏡により観察した.18時間の培養において菌体密度は105 cells cm−2から107 cells cm−2まで対数的に増加し,PPy膜上におけるE. coliの増殖は,培地における増殖とよく似た傾向を示した.顕微鏡観察では,培養に伴うバイオフィルムの形成についても追跡可能であった.硝酸イオンを含む液体培地中でPPy膜に電圧印加し,嫌気条件下で電気培養を行ったところ,通常培養(電圧印加無)時と比較して培地中の菌体密度は約3倍増加した.薄層電気化学セルを用いたサイクリックボルタンメトリー(CV)では,E. coliの好気呼吸に伴う溶存酸素の減少が確認された.溶存酸素の減少に伴う電流応答に着目することで,E. coliの呼吸を定量的に評価することが可能であった.このように,PPy膜に固定化することでE. coliの活性について光学的,電気化学的評価が可能になった.

  • 熊谷 直也, 森岡 和大, 中村 好花, 千明 大悟, 北谷 菜津美, 加藤 祐史, 東海林 敦
    原稿種別: 報文
    2021 年 70 巻 12 号 p. 721-728
    発行日: 2021/12/05
    公開日: 2022/02/21
    ジャーナル フリー

    市販の1 cm角キュベットを試料セルとして用いる小型蛍光光度計の性能をレゾルフィンで評価した.検出限界(3σ)は2.4 × 102 pMであり,相対標準偏差(RSD, n=3)が2.1% を下回ることから,小型の計測装置であるにもかかわらず,高感度かつ高精度に測定できることがわかった.医療の現場で実用的にバイオマーカーを計測できるように,C反応性タンパク(CRP)をバイオマーカーのモデルとし,比表面積の大きなジャングルジム構造体(JGS)を利用するELISA法を開発した.JGS壁面に多量のCRP分子を捕捉させることで,効率よく酵素反応を進行させることが本法の特徴である.本法におけるCRPの検出限界(3σ)及びRSD(n=3)は,50 pg mL−1及び8.5〜17% と見積もられ,本法が蛍光マイクロプレートリーダーを用いるELISA法と同等の性能を有することがわかった.本法は,小型装置を用いて,簡易な操作で感度の高いELISAを実施できることから,中小規模の医療施設での様々なバイオマーカー計測への応用が期待される.

  • 平田 岳史
    原稿種別: 報文
    2021 年 70 巻 12 号 p. 729-735
    発行日: 2021/12/05
    公開日: 2022/02/21
    ジャーナル フリー

    液中レーザーアブレーション(LAL)法を連続的に行うための新しい試料セルを製作し,様々なレーザー照射条件で信号プロファイルを取得した.レーザー照射条件において,低フルエンス(平均フルエンス1 J/cm2)と高発振周波数(100 Hz)を組み合わせることで,安定した信号を得ることができた.内径5 mmのバイトン製Oリングをセルとして用いた場合,生成した固体微粒子の排出時間(洗浄時間)は3分程度であるが,内径2.5 mmのものを使用すると1分程度にまで短縮できた.このサイズ以下では,セル内での固体微粒子の滞留よりも,輸送チューブ内での拡散が洗浄時間を決める支配的要因となることが明らかとなった.このため,固体微粒子を含む液相を,気相で挟みこむ(ブラケティング)ことで,輸送過程での粒子の拡散を低減することができた.繰り返し測定における信号強度の再現性は10%,同位体分析比測定精度はおよそ5% 分程度であった.さらなる分析精度の改善には,試料セルの改造とともに,気相挿入法の自動化,レーザー照射条件の最適化などが必要であろう.

技術論文
  • 鈴木 保任, 大嶋 俊一, 坂本 宗明, 藤永 薫, 本水 昌二
    原稿種別: 技術論文
    2021 年 70 巻 12 号 p. 737-743
    発行日: 2021/12/05
    公開日: 2022/02/21
    ジャーナル フリー

    クロマトグラフや流れ分析のペンレコーダーの代わりとして利用できる,簡易なアナログ─デジタル変換器(Analog-digital converter, ADC)を開発し,性能を評価した.回路図と基板配線図の作成,アナログフィルター回路のシミュレーション,コントローラーのプログラムの作成と書き込み,PC上でのデータ取込み及び表示プログラムの作成を,主にフリーソフトウエアやWeb上の設計補助サイトなどを利用して行った.電池を用いた簡易可変電圧源の電圧をマルチメーターと本ADCで測定したところ,良好な相関があった.同一の設計で2台のADCを製作し,電圧に対する変換値の検量線をそれぞれに求めたところ,傾きも切片もよく一致し,器差は小さかった.また,ジフェニルカルバジドを発色試薬に用いるクロム(VI).のシーケンシャルインジェクション分析(SIA)に応用したところ,良好なフローシグナルを得られた.作成した回路図とプログラムは本論文内とWebサイトで公開する.

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