分析化学
Print ISSN : 0525-1931
71 巻, 12 号
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分析化学総説
  • 島田 亜佐子
    原稿種別: 分析化学総説
    2022 年71 巻12 号 p. 625-633
    発行日: 2022/12/05
    公開日: 2023/01/18
    ジャーナル フリー

    135Csは高レベル放射性廃棄物の安全評価上の重要核種であることから,使用済燃料中濃度を定量し計算結果と比較して計算コードの改良が行われてきた.その一方で,その測定の難しさから,報じられている半減期が大きな不確かさを持つなど,基本的な性質についてさえ,いまだはっきりしていない核種でもある.また,環境試料中の135Cs/137Cs同位体比はその起源や導入時期の推定が可能であることから,核実験のグローバルフォールアウトやチェルノブイリ原発の事故などについて研究されてきたが,特に東京電力福島第一原子力発電所の事故以降に脚光を浴びた.環境試料の分析では,放射性Cs濃度が低いため化学分離法が開発されるとともに,質量分析計の進歩もこの分析に大きく貢献した.本稿では対象ごとの135Cs/137Cs同位体比の特徴について述べるとともに,化学分離法や質量分析法の最近の動向ついても記載する.

総合論文
  • 吉田 亨次
    原稿種別: 総合論文
    2022 年71 巻12 号 p. 635-644
    発行日: 2022/12/05
    公開日: 2023/01/18
    ジャーナル フリー

    X線非弾性散乱(IXS)ではテラヘルツ領域における分子運動のエネルギー励起を測定することが可能であり,水をはじめとする液体のミクロレベルにおける粘弾性的性質を明らかにすることができる.波数と励起エネルギーとの比例関係(分散関係)から,分子間相互作用を反映する高周波音速が求められる.常温常圧の水の高周波音速は断熱音速の2倍の値を示し,特徴的な水の構造を反映している.超臨界水では,断熱音速に対する高周波音速の比の密度依存性は観測スケールに応じて変化し,数分子からなるクラスターの存在を示唆している.新規な熱媒体として注目されているナノ粒子分散液において,ナノ粒子の周囲の液体のダイナミクスはバルクと異なっていることが明らかになった.その違いがナノ粒子分散液の熱伝導に影響を与えている可能性が示された.これまでに四塩化炭素,ベンゼン,アセトン等の分子性液体のIXS測定が行われ,分子間相互作用とダイナミクスとの関連が明らかにされた.

報文
  • 三浦 雄也, 飯島 賢, 山川 宏人, 中本 悠貴, 原田 義孝, 平尾 栄志, 鈴木 彌生子, 佐藤 里絵
    原稿種別: 報文
    2022 年71 巻12 号 p. 645-652
    発行日: 2022/12/05
    公開日: 2023/01/18
    ジャーナル フリー

    国産,カナダ産及びトルコ産のデュラム・セモリナを使用したパスタについて,軽元素安定同位体比解析による産地判別の可能性を検証した.検証の結果,国産パスタの炭素・窒素同位体比は,カナダ産及びトルコ産に比べて有意に低いことが明らかとなった.カナダ産パスタの酸素同位体比はトルコ産及び国産に比べて有意に低く,炭素,窒素,及び酸素の安定同位体比解析によるパスタの原料原産地判別の可能性が示唆された.また,パスタから抽出したグルテニン画分をドデシル硫酸ナトリウム─ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)に供することで,簡便な産地判別が可能であるかを検証した.検証の結果,パスタの製造工程がグルテニン画分に含まれるタンパク質群の組成に与える影響は小さいことがわかった.また,国産,トルコ産及びカナダ産のデュラム・セモリナ,並びにパスタのグルテニン画分を比較した結果,それぞれ国産(40 kD付近)あるいはトルコ産(110 kD付近)に特徴的なバンドが見られた.以上の結果から,SDS-PAGEによるデュラム・セモリナ及びパスタの簡便な原料原産地判別の可能性が示唆された.

総合論文
  • 石川 尚人
    原稿種別: 総合論文
    2022 年71 巻12 号 p. 653-662
    発行日: 2022/12/05
    公開日: 2023/01/18
    ジャーナル フリー

    本稿では,まず陸域と水域の一次生産者から有機物を得る混合生態系の解析のために,メチオニンの窒素安定同位体比(δ15NMet)の指標としての有効性を検討した.陸域生態系におけるメチオニンとフェニルアラニンの同位体比の差(ΔMet-Phe=−16.5±0.5‰)と水域生態系における差(ΔMet-Phe=−5.0±0.5‰)は明確に区別されることがわかった.次に,ガスクロマトグラフィー/燃焼/同位体比質量測定法(GC/C/IRMS),液体クロマトグラフィー(LC) × 元素分析計/IRMS(LC × EA/IRMS),LC × GC/C/IRMSの3手法を比較した.魚類筋肉のグルタミン酸(δ15NGlu)とフェニルアラニン(δ15NPhe)値はすべての測定法のペアでほぼ一致していた.さらに,アミノ酸の放射性炭素濃度(Δ14C)測定のための単離・精製方法を改良し,EA/加速器質量分析装置(EA/AMS)を用いて測定を行った結果,標準物質ではΔ14C測定値と既知のΔ14C値がよく一致した.

報文
  • 西川 雄司, 伊藤 博人
    原稿種別: 報文
    2022 年71 巻12 号 p. 663-677
    発行日: 2022/12/05
    公開日: 2023/01/18
    ジャーナル フリー

    タングステンカーバイド(超硬)ブロックによる慣性効果を利用したパルス動的圧縮─IRを,ポリカーボネート(PC),ポリメチルメタクリレート(PMMA),並びにポリスチレンの分析に応用した.室温(RT)及び種々の加熱条件下で,PC及びPMMAのC=O伸縮振動(PC: 1769 cm−1; PMMA: 1722 cm−1)をモニターし,RT及び加熱条件(PCの場合; 80,90,100及び120℃,PMMAの場合; 50,70,90及び100℃)での動的圧縮の時間応答変化を比較した.その結果,PMMAではガラス状に強固に固定された領域と,比較的柔軟で変形しやすい領域とが存在する可能性が示唆された.一方PCでは柔軟で変形しやすい領域を示唆する応答はほとんど検出されなかった.比較的柔軟で変形しやすい領域には,倍音を含み強い負の反発応答の存在によって特徴付けられ,倍音バンドは,C=O 1800〜1650 cm−1の伸縮振動における動的圧縮の時間応答軸のフーリエ変換によって識別できた.PMMAの倍音バンドの要因は,比較的柔軟な領域に存在し,弦の振動を模倣できる直鎖構造に起因する可能性がある.さらに,逆対称C-O-C,またはC-C-O振動領域(1300〜1060 cm−1)におけるCo-(同時)及びQuad-(異時)一般化2D-IR分析では,PCとPMMAとではかなり異なっていた.PMMAの場合,異なる加熱条件下でのマッピング強度と位相差は,PCのものよりもかなり大きくなった.以上の結果を元にPCとPMMAの予想される分子構造の構築を試みた.

技術論文
  • 政井 咲更美, 門木 秀幸, 有田 雅一
    原稿種別: 技術論文
    2022 年71 巻12 号 p. 679-685
    発行日: 2022/12/05
    公開日: 2023/01/18
    ジャーナル フリー

    水酸化鉄(III) 共沈法による六価クロムの定量について,水酸化鉄(III) 共沈操作における試料のpH変化を明らかにし,六価クロム定量値への影響について検討した.水酸化鉄(III) 共沈操作では,硫酸アンモニウム鉄(III) 溶液の添加及び加熱・放冷によりpHが段階的に低下した.アルカリ剤としてアンモニア水及び水酸化ナトリウム溶液のいずれを用いても,六価クロムの回収率は加熱・放冷後のpHに影響され,pHの上昇とともに回収率が向上し,pH 8.87以上では90% 以上の回収率が得られた.また,一般廃棄物焼却灰溶出液を対象として,pHの影響を検討した結果,pHの上昇とともに定量値が向上した.加熱によるpHの低下を見越して,加熱前に溶液のpHを十分に強アルカリ性とすることが,六価クロムの回収率の向上に重要であると考えられた.焼却灰6試料の溶出液について,水酸化ナトリウム溶液を用いて加熱前のpHを10.00±0.05に調整して添加回収試験を行った結果,回収率は89.6% 以上の良好な結果が得られた.

ノート
  • 三影 昇平, 神谷 奈津美, 小泉 俊雄, 浅野 敦志
    原稿種別: ノート
    2022 年71 巻12 号 p. 687-692
    発行日: 2022/12/05
    公開日: 2023/01/18
    ジャーナル フリー

    アントラセンは硬くて脆い剛直な単結晶を構築する一方,ジハロゲンアントラセンの中には屈曲性を示す単結晶を形成する分子が存在する.例えば,9,10-ジブロモアントラセン(DBAn)と1,8-DBAnは針状結晶を形成し,2,6-DBAnは平板状結晶を形成したが,9,10-DBAn針状結晶のみが屈曲性を示した.2,6-DBAnは “edge-to-face packing” 構造,9,10-DBAnと1,8-DBAnは “face-to-face packing” 構造の分子配列となるが,屈曲性を示す9,10-DBAn針状結晶のみは “face-to-face slip-stacking” パッキング構造であった.固体13C NMR法から観測した13C核のスピン─格子緩和時間(T1C)の温度依存性から,9,10-DBAnの運動は,針状結晶に成長すると粉末の微結晶よりも速くなっていることが示された.

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