分析化学
Print ISSN : 0525-1931
68 巻, 10 号
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年間特集「粒」: 総合論文
  • 高橋 かより
    原稿種別: 年間特集「粒」: 総合論文
    2019 年 68 巻 10 号 p. 733-742
    発行日: 2019/10/05
    公開日: 2019/11/07
    ジャーナル フリー

    液中に分散しているナノ領域の微粒子に対してレーザー光を照射し,その散乱光強度の時間平均を求める静的光散乱法,ならびに,散乱光の時間相関から粒子の運動速度を求める動的光散乱法を使用して,微粒子の粒径をはじめとする諸物性を高精度に計測する手法についてまとめる.静的光散乱法では,散乱光の角度依存性から粒子の回転半径が求められ,動的光散乱法では,ブラウン運動の拡散係数から粒子の流体力学的半径を求めることができる.回転半径と流体力学的半径は異なる計測量であり,粒径に分布がある場合には双方に固有の平均粒径値が算出される.本論文では,具体的な測定対象として,水中に分散したポリスチレンラテックス粒子とファインバブルを取り上げる.ラテックス粒子は表面電荷を有するために,純水中では長距離的な相互作用が観測される.また,ファインバブルでは,そのサイズとともに濃度を知ることが求められており,静的及び動的光散乱計測により,これらを同時に計測する技法について述べる.

年間特集「粒」: 報文
  • 飯國 良規, 田村 零央, 北川 慎也, 大谷 肇
    原稿種別: 年間特集「粒」: 報文
    2019 年 68 巻 10 号 p. 743-750
    発行日: 2019/10/05
    公開日: 2019/11/07
    ジャーナル フリー

    マイクロ流路中に形成した導電性/非導電性水性二相流中における,電磁泳動に基づく微粒子の輸送制御法を開発した.入口を二つ,出口を二つ持つ両Y字型マイクロ流路(幅160 μm,長さ20 mm)に対して導電性溶液として1.16 mol L−1塩化カリウム(KCl)水溶液を,非導電性溶液として20% デキストラン(dextran, Dex)水溶液をそれぞれ別の入口から送液することで,マイクロ流路中に安定した導電性/非導電性水性二相流を形成することが可能であった.この水性二相流の導電性溶液中に分散させたμmオーダーのポリスチレン(PS)粒子とカルボキシル基修飾ポリスチレン(cPS)粒子を,一つの永久磁石を用いた電磁泳動により二相流界面方向へ泳動させたところ,PS粒子は二相流界面に位置的収束され,cPSは非導電性溶液であるDex水溶液中まで移動した.これは微粒子表面の疎水性の違いを反映した結果である.さらに二つの永久磁石の極性を逆向きに配置することで,極性の異なる二つの磁場を局所的に印加する異極並列磁場により,微粒子を水性二相流中において電磁泳動により一旦界面方向へ泳動させたのち逆向きに泳動させたところ,界面に収束したPS粒子は導電性溶液中に再分散され,cPS粒子は非導電性溶液中に留まり,それぞれ別の出口から連続的に回収することが可能であった.

年間特集「粒」: 技術論文
  • 中川 太一, 高貝 慶隆
    原稿種別: 年間特集「粒」: 技術論文
    2019 年 68 巻 10 号 p. 751-755
    発行日: 2019/10/05
    公開日: 2019/11/07
    ジャーナル フリー

    金ナノ粒子(AuNPs)は,色彩変化に優れているなど非常に優れた特性を有するために,分析化学においても重要な素材として広く使用されている.特に粒径が10 nm程度の比較的小さなAuNPsはセンサー素子として有用である.その一方で,一般的に合成する粒径の制御と粒径の維持が難しい.本論文では,水素化ホウ素ナトリウム水溶液とテトラクロロ金(III) 酸水溶液を一度に混合することで粒径数nmから10 nm以下のAuNPsの簡便・迅速な合成法と合成後における配位子置換の検討を行った.上記手法を用いることで,粒径3.9±1.4 nm,粒子数濃度1.2 × 1016 particles/mLのAuNPsを15分の合成時間で得ることができた.合成後,このAuNPs溶液は少なくとも3週間,単分散状態を維持していた.このAuNPsは,クエン酸,非イオン性界面活性剤Triton X-114,1,3-プロパンジチオールをそれぞれ混合するだけで配位子置換が可能であった.本法は,従来法と比べて溶液混合のみと操作が単純で数時間を要していた反応時間は15分に短縮された.

年間特集「粒」: アナリティカルレポート
  • 小野﨑 晴佳, 阿部 善也, 中井 泉, 足立 光司, 五十嵐 康人, 大浦 泰嗣, 海老原 充, 宮坂 貴文, 中村 尚, 末木 啓介, ...
    原稿種別: 年間特集「粒」: アナリティカルレポート
    2019 年 68 巻 10 号 p. 757-768
    発行日: 2019/10/05
    公開日: 2019/11/07
    ジャーナル フリー

    Three radioactive microparticles were separated from particles on filter tape samples collected hourly at a suspended particulate matter (SPM) monitoring site located at ∼25 km north of the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant (FDNPP), after the hydrogen explosion of reactor 1 on 12th March 2011. The 134Cs/137Cs radioactivity ratios of the three radioactive aerosol particles showed that they were derived from the FDNPP reactor 1, rather than reactors 2 or 3. The physical characteristics of these particles with < 10 μm in diameter and non-uniform shape are clearly different from those of radioactive particles generated by the hydrogen explosion of the FDNPP reactor 1. A significant amount of Cl was detected by energy dispaersive X-ray spectrometery. Synchrosron radiation microbeam (SR-μ-) X-ray fluoresence (XRF) analysis showed that these particles contain a series of heavy elements related to the nuclear fules and their fission products with a non-homogeneous distribution within the particles. In addition, the SR-μ-XRF identified trace amounts of Br in these particles; the element has firstly been found in radioactive particles derived by the FDNPP accident. In contrast to the hydrogen explosion-generated radioactive particles containing Sr and Ba, both of which are easily volatile under a reduction atmosphere, these elements were not rich in the particles found in this study. By the SR-μ-X-ray absorption near edge structure analysis and SR-μ-X-ray powder diffraction, it was found that these particles consist of an amorphous (or low crystalline) matrix containing metal elements with chemical states in a comparatively high state of oxidation or chloride. Based on these physical and chemical characteristics and a trajectory analysis of air parcels that passed over the SPM monitoring site, we concluded that these radioactive particles were generated and emitted into the atomosphere at the time of seawater injection for cooling the reactor after the hydrogen explosion.

報文
  • 橋本 彩加, 新堀 佳紀, 根岸 雄一
    原稿種別: 報文
    2019 年 68 巻 10 号 p. 769-776
    発行日: 2019/10/05
    公開日: 2019/11/07
    ジャーナル フリー

    合金化は,金属クラスターにおける新たな物性・機能の発現を可能にするため,近年では,金属クラスター分野においてホットトピックスの一つとなっている.こうした合金化における複合・相乗効果を深く理解するためには,原子精度の精密さで合成された合金クラスターを対象に研究を行うことが不可欠となるが,現状では,原子精度では制御できない合金クラスターが数多く残されており,その代表例が,金(Au)と銀(Ag)からなる合金クラスターである.本研究では,フェニルエタンチオラート(2-phenylethanethiolate,SC2H4Ph)を配位子に含む金銀38原子([Au38−xAgx(SC2H4Ph)24]0)合金クラスターを,逆相高速液体クロマトグラフィーにより,原子精度にて分離する方法の確立に成功した.こうした分離の実現により,[Au38−xAgx(SC2H4Ph)24]0合金クラスターにおける化学組成と電子構造の相関についても原子精度にて明らかにすることに成功した.また,本分離法の活用により,生成する[Au38−xAgx(SC2H4Ph)24]0合金クラスターの幾何・電子構造は合成条件に依存して異なっていることも明らかにした.

総合論文
  • 髙橋 幸奈
    原稿種別: 総合論文
    2019 年 68 巻 10 号 p. 777-782
    発行日: 2019/10/05
    公開日: 2019/11/07
    ジャーナル フリー

    金属や半導体からなるナノ材料を用いて,光エネルギーをナノメートルレベルで制御するシステムの開発を行った.光エネルギーを電気化学的に貯蔵することで,消灯後も有害有機物の検出や酸化除去が可能な酸化エネルギー貯蔵型光触媒を開発した.また,過酷な環境でも高感度な分光センシングを可能にするために,局在表面プラズモン共鳴を示す金属ナノ粒子の安定性を向上させる技術を確立した.さらに,金属ナノ粒子が局在表面プラズモン共鳴に基づいて示す光アンテナ効果を最大限に活用するために,効果的な色素と金属ナノ粒子の配置を調べてこれを実現する手法の開発を行った.これらの技術は,光エネルギーの高効率な利用を可能にする技術にとどまらず,分光分析科学の発展に大きく貢献するものである.本論文では著者がこれまでに取り組んだこれらの研究内容を紹介する.

技術論文
  • 吉見 立也, 奥野 海良人, 佐藤 大祐, 滝川 修, 服部 敏明, 澤田 和明
    原稿種別: 技術論文
    2019 年 68 巻 10 号 p. 783-791
    発行日: 2019/10/05
    公開日: 2019/11/07
    ジャーナル フリー

    著者らは,これまで多数の電位差センシング素子を二次元に配置した半導体センサである「二次元電気化学イオンセンサアレイ」を開発し,主に二次元の動的イオンイメージ画像の取得を行ってきた.本研究では,本イオンセンサアレイのフロー系への応用を検討するため,128 × 128個のイオンセンサ素子を配置したセンサ感応面上に三流路を形成して連続的に溶液を供給するフロー系システムを開発した.まず,本システムを組み込んだイオンセンサアレイを使用して,3種のpH標準液の計測を行ったところ,pH 4〜pH 9のpH変化に順当に応答した.次に応用例として,アルツハイマー病の病理学的特徴の一つである老人斑の主要構成成分であるアミロイドßの検出に適用した.標識酵素にアセチルコリンエステラーゼを利用するサンドイッチELISA法を採用し,基質のアセチルコリンの加水分解で生じる酢酸によるpH変化をマニュアル版三流路システムで検出することで,濃度0,300,1000 pmol L−1のアミロイドßを同時に計測することに成功した.本研究において,イオンセンサアレイがフロー系システムを備えることにより,バイオセンサとしての創薬応用や医療応用が可能となることを示した.

  • 紺谷 貴之, 白又 勇士, 中村 龍哉
    原稿種別: 技術論文
    2019 年 68 巻 10 号 p. 793-800
    発行日: 2019/10/05
    公開日: 2019/11/07
    ジャーナル フリー

    実験室系のX線回折装置を用いてリチウムイオン電池正極の充放電時におけるオペランド測定を実施するためには,二次電池としての機能を損なうことなく,正極材料からのシグナルを十分な強度で取り出せることが重要である.この双方を両立した電気化学セルを構築し,層状型正極材Li[Ni1/3Co1/3Mn1/3]O2及び高電圧スピネル型正極材LiMn1.5Ni0.5O4の充放電に伴う結晶構造の変化を調べた.前者の層状型正極Li[Ni1/3Co1/3Mn1/3]O2では,充放電反応に伴い格子定数が連続的に変化する単相で進行することがわかった.後者のLiMn1.5Ni0.5O4スピネル正極では,ゆっくりとした充放電反応においては,二つの連続した二相反応で充放電反応が進行し,その変化は充電反応と放電反応で可逆的であることがわかった.ところが,速い充放電反応においては平衡状態からずれて三相共存状態を経て反応が進行し,充電反応と放電反応が非対称になることが認められた.

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