分析化学
Print ISSN : 0525-1931
61 巻, 12 号
選択された号の論文の12件中1~12を表示しています
総合論文
  • 吉田 亨次, 早田 葵, 麻生 真以, 伊藤 華苗, 橘高 茂治, 稲垣 伸二, 山口 敏男
    原稿種別: 総合論文
    2012 年 61 巻 12 号 p. 989-998
    発行日: 2012/12/05
    公開日: 2012/12/31
    ジャーナル フリー
    細孔水は,様々な工業プロセスや生物プロセスにおいて重要な役割を果たしている.本研究では,メソポーラスシリカ(MCM-41)と,フェニル基をシリカマトリックス中に導入した規則性メソポーラス有機シリカ(Ph-PMO)に閉じ込めた水について,その構造とダイナミクスをX線・中性子散乱により明らかにした.細孔径が21 ÅのMCM-41細孔に閉じ込められた水は低温まで冷却しても凍結しないが,細孔中心部では水の正四面体類似構造(氷類似構造)が発達していることが分かった.さらに,親水性表面をもつMCM-41細孔内の水は細孔表面と強く相互作用しているが,疎水性基を導入したPh-PMO細孔内では,細孔中心付近で水分子同士が強い相互作用で結びついていることが示唆された.
  • 満塩 勝, 肥後 盛秀
    原稿種別: 総合論文
    2012 年 61 巻 12 号 p. 999-1011
    発行日: 2012/12/05
    公開日: 2012/12/31
    ジャーナル フリー
    光ファイバーのコアを露出させ,その周囲を金薄膜で覆うことにより,表面プラズモン共鳴(SPR)現象を利用する小型センサー素子を開発し,He─Neレーザー(632.8 nm)を光源として液体試料の屈折率に対する応答特性を評価した.また,コア表面を覆う金薄膜の作製法を改良し,さらに銀,銅,アルミニウムを用いるセンサーについても研究を行い,作製が容易で高感度なセンサーを開発した.また波長の異なる発光ダイオード(563,660,940 nm)を用い,光源の波長と応答特性との関係についての検討を行った.これらの研究結果に対して,SPRの理論的解釈及びX線光電子分光法(XPS)と原子間力顕微鏡(AFM)を用いた表面分析によるセンサーの特性に関する多面的な検討を行った.開発した小型センサーの応用として,蒸留酒のエタノールの度数測定や,センサーの金表面への被覆膜の形成や化学修飾により,アニリンや抗ヒトアルブミンの高感度検出が可能であった.
  • 谷口 将済, 神野 伸一郎, 廣村 信, 榎本 秀一
    原稿種別: 総合論文
    2012 年 61 巻 12 号 p. 1013-1025
    発行日: 2012/12/05
    公開日: 2012/12/31
    ジャーナル フリー
    オミクス(Omics)研究は,最先端の分析・計測技術を用いて,研究の対象物を網羅的に解析し,得られた情報から生命活動を統合的かつ包括的に理解するものであり,その中でも「メタロミクス(Metallomics)」は,生命活動における微量金属元素の機能と役割を統合的に理解することを目的とした,新しい研究領域である.生体内の微量金属元素は,遺伝子発現,シグナル伝達,さらには種々の代謝反応にかかわるタンパク質・酵素に含まれ,この元素の化学形態や含有量により生理機能に大きな影響を与えることから,微量金属元素の観点から生命現象をひも解くことは,新たな事実を我々に与えてくれるものである.また,メタロミクス研究は微量な試料からの微量金属元素の同定や,個体中での化学形態及び分布などを多元素同時的に解析することから,新たな分析技術が必要とされる.本稿では,はじめに生命科学分野におけるオミクス研究から明らかにされてきた微量金属元素研究について,代表的な元素である鉄,銅及び亜鉛の代謝にかかわるタンパク質の機能と代謝異常による疾患の発症について概説し,これまでに著者らの研究グループが確立したマルチトレーサー法による個体レベルで生きたまま可視化する技術,複数分子同時イメージング装置「GREI」を用いた生体微量金属元素イメージングによるメタロミクス研究について紹介する.
報文
  • 土田 哲大, 吉田 智弥, 土田 保雄, 河済 博文
    原稿種別: 報文
    2012 年 61 巻 12 号 p. 1027-1032
    発行日: 2012/12/05
    公開日: 2012/12/31
    ジャーナル フリー
    プラスチックのマテリアルリサイクルでは,その選別回収技術の開発が必須である.著者らは家電リサイクル工場から排出される廃プラスチックからポリプロピレン(PP),ポリスチレン(PS),アクリロニトリル─ブタジエン─スチレン共重合体(ABS)を高純度に回収するために,プラスチック識別に特化した高速のラマン識別機を開発した.高出力半導体レーザー(785 nm),開口数が大きく明るい光学系,オンボード高速信号解析部などを含む装置を試作し,毎分100 mのベルトコンベア上を移動している10 mm角以下のプラスチック片から測定時間3 msで,識別に十分なSN比のラマンスペクトルを得ることができた.実証設備において,ラマン識別機50台を並列にならべ,シュレッダーされたプラスチック片を処理量200~600 kg h-1で95% 以上の純度で選別できた.さらに,測定したラマンスペクトルを多変量解析し,そのひずみをマハラノビス距離で評価することで,プラスチック劣化の目安となる量である熱重量減少挙動との相関を見いだした.
  • 卜部 達也, 中本 大輔, 村岡 晶博, 田中 美穂
    原稿種別: 報文
    2012 年 61 巻 12 号 p. 1033-1040
    発行日: 2012/12/05
    公開日: 2012/12/31
    ジャーナル フリー
    はんだ中の鉛及びスズの溶出機構を明らかにすることで,環境に対するはんだの負荷を検討するため,エレクトロスプレーイオン化質量分析法(ESI-MS)を用いて化学種別分析を行った.まず,固体試薬から調製した鉛・スズ溶液を比較試料とし,単純な酸溶液中の鉛・スズ化学種を同定した.硝酸・塩酸中の鉛化学種は,主に水酸化物イオンと結合した形で検出された.これは,鉛イオンは溶液中に大量に存在するNO3及びClとは結合せず,主に水酸化物錯体もしくは水和錯体の形で存在することを示していた.一方で,スズの場合は,塩化物錯体の形で主に検出された.次にはんだを酸に溶解させ,その溶出液をESI-MSで測定した.その結果,溶出した鉛は主に水酸化物錯体の形で検出された.一方,溶出液中のスズ濃度は比較試料よりも高かったのにもかかわらず,ESI-MSで明瞭なピークとして観測されなかった.そのため,溶出液中のスズはイオン化しておらず無電荷で存在し,ESI-MSで検出されにくい化学形態であると示唆された.以上の実験結果より,化学種の観点からはんだ中の鉛及びスズの溶出機構を推測し,溶出した鉛及びスズの環境への影響を考察した.
  • 岩月 聡史, 大原 秀隆, 金光 優希, 石原 浩二
    原稿種別: 報文
    2012 年 61 巻 12 号 p. 1041-1047
    発行日: 2012/12/05
    公開日: 2012/12/31
    ジャーナル フリー
    ボロン酸類のなかで特異的に高い酸解離能を有する4-ピリジルボロン酸(4-PyB(OH)2)及び4-(N-メチル)ピリジニウムボロン酸[4-(N-Me)PyB(OH)2]の基礎的な反応性について,水溶液中における詳細な溶液反応論的研究により詳細に検討した.4-PyB(OH)2の酸解離定数(pKa)を分光光度滴定により測定し,ボロン酸部位はpKaB=4.00±0.01,ピリジン部位はpKaPy=8.04±0.03と決定した.一方,4-(N-Me)PyB(OH)2のボロン酸部位の酸解離定数はpKaB=3.96±0.01であり,ピリジン窒素上にメチル基が導入されてもpKaB値はほとんど変化しないことが明らかになった.酸性水溶液中における,これらのボロン酸とヒノキチオールとのキレート錯体形成反応の速度論的研究の結果,ボロン酸の反応性は共役塩基のボロン酸イオンよりも高く,その速度定数はフェニルボロン酸誘導体を含むボロン酸類のなかで最も大きいことが明らかになった.
  • 高橋 茉莉子, 田中 美穂
    原稿種別: 報文
    2012 年 61 巻 12 号 p. 1049-1054
    発行日: 2012/12/05
    公開日: 2012/12/31
    ジャーナル フリー
    JISに定められたモリブデン青法は,試料溶液にモリブデン酸イオンを含む酸性溶液と酒石酸アンチモニルカリウムを加え,さらにアスコルビン酸で還元を行う.このとき,溶液中ではアンチモンが付加したモリブドリン酸が形成していると言われている.しかし,このモリブデン青法において,形成される錯体及びその形成反応に関する詳細な情報は報告されていない.これらの情報を得るため,エレクトロスプレーイオン化質量分析法(ESI-MS)を用いて,溶液中の化学種についての測定を行った.モリブデン青法で発色させた溶液をESI-MSで分析をしたところ,これまでに報告されていた形とは異なる,[PSb2Mo12O40]と考えられるピークが観察された.また,反応に用いる各試薬の役割を明らかにするため,反応の各段階について詳細に検討した.この結果から,アンチモンを用いるモリブデン青法では,モリブドリン酸(PMo12)が形成し還元された後にアンチモンが付加するという反応経路が推測された.このように,溶液中の反応を追うための新たな手法として,ESI-MSによる測定は有効であると考えられる.
  • 福武 弘明, 奥村 尚己, 辰野 吉英, 吉田 裕美, 前田 耕治
    原稿種別: 報文
    2012 年 61 巻 12 号 p. 1055-1061
    発行日: 2012/12/05
    公開日: 2012/12/31
    ジャーナル フリー
    銀電極を用いる塩化物イオンの析出,溶出の2段階電気分解にもとづくクーロメトリーを実施した.銀網電極を用いるバッチ法と,銀線を挿入したPTFE製チューブを用いるフロー法の2通りを試験した.バッチ法では,水溶液において,電解時間を500 sに限った場合,塩化物イオンの定量範囲が2×10-4~2×10-3 mol dm-3(M)であったのに対して,メタノール・水混合溶媒を用いると,定量範囲は3×10-5~3×10-3 Mに拡張した.電解時間を延長して全電解が達成される濃度範囲は,水溶液では3×10-4~2×10-3 M(電解効率102±6%)で,検出限界は9.2×10-5 Mであった.混合溶媒では1×10-4~3×10-3 M(電解効率105±2%)で,検出限界は2.6×10-5 Mであった.一方,フロー法では,試料液の注入量20 μL,流量0.01 mL min-1(電極通過時間約100 s)の条件において,8×10-5~1×10-3 M(電解効率97±3%)の範囲で定量可能であり,検出限界は7.8×10-5 Mであった.
技術論文
  • 丸本 幸治, 今井 祥子, 竹田 一彦, 佐久川 弘
    原稿種別: 技術論文
    2012 年 61 巻 12 号 p. 1063-1072
    発行日: 2012/12/05
    公開日: 2012/12/31
    ジャーナル フリー
    海水中の溶存揮発性水銀(dissolved gaseous mercury,以下DGM)を観測する際の揮散損失による系統的な誤差を防止するため,試料採取からDGMの捕集までの作業を試料の移し換えなしに実施できる新しい海水サンプラーを開発した.試料の移し換えを必要とする従来の海水採取方法との比較検討を行った結果,新規海水サンプラーを使用した方が従来法に比べてDGM濃度が最大27% 高かった.また,1~2回の試料の移し換えにより平均で約15±10%(N=12)のDGMが損失していることが明らかとなった.本研究で開発したサンプラーを用いて瀬戸内海東部及び水俣湾においてDGM濃度を測定した.その結果,平均濃度は瀬戸内海で61±19 pg L-1,水俣湾で182±95 pg L−1であり,他の海域に比べて同等もしくはやや高かった.また,DGM濃度のデータ等を用いて水銀放出フラックスを計算し,DGMの揮散損失が計算値に与える影響を評価したところ,海水中DGM濃度が低いほど,DGMの揮散損失割合以上に水銀放出フラックスが大幅に過小評価されることが分かった.
  • 林 健太郎, 大迫 譲滋, 中島 常憲, 高梨 啓和, 大木 章
    原稿種別: 技術論文
    2012 年 61 巻 12 号 p. 1073-1077
    発行日: 2012/12/05
    公開日: 2012/12/31
    ジャーナル フリー
    海産食品などの生物試料中に含まれる水銀種について,HPLC,UV照射による酸化分解,及び冷蒸気原子蛍光分析を組み合わせた方法(HPLC-UV-CVAFS)により分別定量を行った.まず,生物試料中からの水銀種の抽出法について検討し,メルカプト基をもつ化合物である2-メルカプトエタノール(2-ME)が,抽出剤として効果的であることが分かった.CH3Hg濃度の認証値をもつ3種の認証標準物質について,2-ME溶液による抽出とHPLC-UV-CVAFSにより測定を行い,認証値と測定値がほぼ一致することを確認した.マグロ類などの海産食品試料(実試料)について,同様の分析を行った.抽出溶液について,HPLC-UV-CVAFS測定によって得られるCH3Hg濃度とHg2+濃度の合計値が,加熱気化原子吸光分析(HVAAS)によって得られる値(総水銀濃度)とほぼ一致した.すなわち,海産食品等の生物試料について,2-ME抽出によって得られる抽出液をHPLC-UV-CVAFS測定することにより,水銀種の分別定量が効果的に行えることが分かった.
  • 野口 和宏, 福永 和久, 今安 英一郎, 埜村 朋之, 山下 信彦, 萩野 芳章, 野々村 誠, 細見 正明
    原稿種別: 技術論文
    2012 年 61 巻 12 号 p. 1079-1084
    発行日: 2012/12/05
    公開日: 2012/12/31
    ジャーナル フリー
    本論文は,塩化第二銅・塩化スズ還元蒸留法(NSOF法)を適用した流れ分析法で,土壌中の全シアン及びチオシアン酸イオンの同時定量について述べる.流れ分析装置は,土壌中のシアン化合物をアルカリ溶液に超音波抽出する工程と全シアン及びチオシアン酸イオンを分析する工程で構成される.抽出条件を検討した結果,試料1.0 g,0.05 mol L-1水酸化ナトリウム溶液50 mLを用いて,超音波で80秒間抽出すると,全シアンは86% 以上回収された.蒸留試薬は既報のNSOF法に準拠し,145℃ で連続的に蒸留した.全シアンは4-ピリジンカルボン酸─ピラゾロン吸光光度法,チオシアン酸イオンは,チオシアン酸第二鉄吸光光度法で測定した.JIS K 0170の場合,チオシアン酸イオンは全シアンに含まれない.よって,見かけ上,全シアンとして得られた含有量よりチオシアン酸イオンによる寄与分を差し引くことで,土壌中の全シアン含有量を求めた.本法で,土壌中の全シアンとチオシアン酸イオンを同時定量することができる.
アナリティカルレポート
feedback
Top