分析化学
Print ISSN : 0525-1931
72 巻, 9 号
特集:“微”の液相分離分析
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
巻頭言
総合論文
  • 北川 文彦
    原稿種別: 総合論文
    2023 年 72 巻 9 号 p. 333-340
    発行日: 2023/09/05
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー

    キャピラリー電気泳動(CE)並びにマイクロチップ電気泳動(MCE)に代表されるミクロスケール電気泳動分析において,高感度化を目指してさまざまなオンライン試料濃縮法が開発されてきた.本稿では,大容量試料スタッキング(LVSEP)法と呼ばれる,分離カラム全体に注入した試料を電場増強スタッキングの原理により濃縮し,電気浸透流をイオン強度により制御することで空になった試料マトリックスをカラム外に排出できる上に,電圧極性の切り替え操作を行うことなく濃縮した試料ゾーンを分離カラム入口近傍で反転させることで有効分離長を損なうことなく分離を進行させることのできるオンライン試料濃縮技術の進展について紹介する.LVSEP法にダイナミックコーティングを組み合わせた手法によるリン酸化ペプチド並びに金属錯体の分析,真空乾燥ポリマー修飾法の開発によるカチオン種のMCE–LVSEP分析,並びにLVSEP法と電場増強スタッキング注入法との組み合わせによる濃縮率の向上について紹介する.

  • 大塚 浩二
    原稿種別: 総合論文
    2023 年 72 巻 9 号 p. 341-347
    発行日: 2023/09/05
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー

    キャピラリー電気泳動(CE)において中性化合物の分離を可能にしたミセル動電クロマトグラフィー(MEKC)が開発されてから40年ほどが経過し,現在CE/MEKCは高性能ミクロスケール液相分離法として種々の分野で利用されている.本稿では,MEKC開発初期における理論的考察の一端について紹介すると共に,著者がこれまでに行ってきた高性能ミクロスケール液相分離法の開発研究について概観する.

  • 川井 隆之
    原稿種別: 総合論文
    2023 年 72 巻 9 号 p. 349-355
    発行日: 2023/09/05
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー

    キャピラリー電気泳動(CE)は高効率な分離法であり,レーザー励起蛍光や質量分析などの高感度検出法と組み合わせることで,nLオーダーの試料溶液に含まれるzmolレベルの生体分子を検出できる.しかし一般的な生体試料の分析では,前処理においてμLオーダーの溶液を調製する必要があり,nLオーダーの試料しか注入できないCEではほとんどの溶液を無駄にしてしまい,CEの分析性能を活かすことができない.そこで著者は,CEにおいてμLオーダーの大量の試料を導入できる新規二重オンライン試料濃縮法を開発し,生体分子や薬剤などを対象に1000倍前後の濃縮を実現してきた.これらの濃縮法を用いることで,1〜100細胞程度の培養細胞や組織切片に含まれる糖鎖・代謝物・薬剤などを分析することに成功した.本論文ではこれらの研究成果について紹介する.

報文
  • 光田 圭佑, 久保 拓也
    原稿種別: 報文
    2023 年 72 巻 9 号 p. 357-361
    発行日: 2023/09/05
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー

    抗体を標的部位の認識・輸送手段として利用し,特定の低分子薬物を担持する抗体薬物複合体(ADC)が注目を集めている.ADCは,免疫グロブリンG(IgG)の四つのジスルフィド結合を切断し,リンカーを介して薬剤を結合するため,結合する薬剤の数や分布が異なり,その薬効も異なる.そのため,薬効の高いものだけを分離回収するためには,ADCの精密な分離技術が求められる.本研究では,ADC分析用の新規分離媒体開発のために,アミノ基修飾シリカゲル粒子に対して,スペーサーとしてポリエチレングリコール(PEG),リガンドとして芳香族化合物を修飾した.作製した分離剤を液体クロマトグラフィー(LC)用カラムに充填し,IgGが溶出する条件を評価した結果,移動相に2-プロパノールを添加する酸性条件下において完全溶出を確認した.さらに,芳香族で修飾されたIgGのLC分析では,未修飾のIgGと比較して保持力の増加が示され,ADCの選択的分離の可能性が示唆された.

技術論文
  • 西 博行, 佐々木 弥亜クリスティーナ, 岩田 海七, 川畑 公平
    原稿種別: 技術論文
    2023 年 72 巻 9 号 p. 363-368
    発行日: 2023/09/05
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー

    キラルな合成医薬品に対しては光学純度の測定・規制が要求され,分析法としてさまざまなキラルカラムを用いたHPLCが利用されている.ジルチアゼムはシングルエナンチオマーとして開発・発売されてから半世紀経過した現在でも広く使用される降圧剤で,光学異性体分離には多糖誘導体系やタンパク質固定化キラルカラムが有効である.なかでも水系の移動相で分析可能なオボムコイド(Ovomucoid, OVM)は,ジルチアゼムに加えその合成中間体のキラル分離にも有効であり,近年,高分離性能化を目的に3 μm充てん剤が開発された.本報では,新たに開発されたOVM 3 μmカラムでのジルチアゼムの光学純度測定の高速化・分析の高性能化について検討した.その結果,ACN/酢酸アンモニウム塩緩衝液(pH 6.0)の混液を用いることで,約2.5分以内でのマイナー対掌体及び主不純物かつ分解物である脱アセチル体の同時迅速評価が可能となった.本法によりジルチアゼム原薬と製剤を評価した結果,両者ともに安定な医薬品であることが分かった.

ノート
  • 金岡 忠政, 遠藤 達郎, 久本 秀明, 末吉 健志
    原稿種別: ノート
    2023 年 72 巻 9 号 p. 369-375
    発行日: 2023/09/05
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー

    タンパク質混合試料の分離分析法として,一次元目に等電点電気泳動,二次元目にポリアクリルアミドゲル電気泳動を行う二次元電気泳動法が一般的に利用されている.しかしながら,従来法では煩雑な実験操作と長い分析時間を要するほか,多量の試薬を消費する点が課題であった.そこで本研究では,これまでに開発してきたデジタル電気泳動に関する知見を基に,異種機能性ゲルが二次元的に配置・集積された平板型カートリッジデバイスを開発した.モデルタンパク質を用いた基礎評価の結果,作製したデバイスと治具を用いた試料導入,デジタル分子ふるい電気泳動,及びpH緩衝ゲルを用いたデジタル等電点電気泳動がそれぞれ可能であることが確認された.さらに,複数のpH緩衝ゲル及び分子ふるいゲルが配置・集積されたカートリッジデバイスを用いた二次元デジタル電気泳動について検証した結果,同一デバイス内での連続的二次元デジタル分離が実証された.

  • 金尾 英佑, 久保 拓也, 大塚 浩二
    原稿種別: ノート
    2023 年 72 巻 9 号 p. 377-381
    発行日: 2023/09/05
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー

    ハロゲン化芳香族は異性体ごとに環境毒性が異なるため,精密な濃度規制を敷く上で,各異性体に選択的な分子認識材料の開発が求められる.分子インプリントポリマーは選択的な分子認識能を持つ高分子人工材料の一つであり,その駆動原理に,ハロゲン基が有する特異的な分子間相互作用を組み込むことは,ハロゲン化芳香族の選択的認識における直接的なアプローチであるといえる.ハロゲン基は,σ結合方向に電子不足な領域を有しており,電子豊富な原子団や官能基との間に微弱で特異的な分子間相互作用を形成する.特にπ共役系との相互作用(X-π相互作用)は,方向性や分子選択性に優れていることが知られているが,X-π相互作用を分子インプリントポリマーに応用した研究例は少ない.そこで本研究では,X-π相互作用に基づく分子インプリントポリマーの合成について基礎的な検討を行い,二置換ハロゲン化ベンゼン異性体の選択的な分子認識材料を開発した.

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