分析化学
Print ISSN : 0525-1931
64 巻, 4 号
溶液反応と分析化学
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
総合論文
  • 徳島 高, 堀川 裕加
    原稿種別: 総合論文
    2015 年64 巻4 号 p. 237-245
    発行日: 2015/04/05
    公開日: 2015/04/08
    ジャーナル フリー
    内殻電子の遷移を利用した軟X線分光は真空中の固体や気体分子における電子状態の強力な分析手法として知られているが,液体は真空中での取扱いが難しいために軟X線を使った液体の研究は進んでいなかった.しかし,近年の実験技術の進歩によって,放射光軟X線を励起光とする軟X線発光,軟X線吸収分光法が液体や溶液の分子の電子状態に関する研究に適用可能となり,進展を見せている.本稿では,大型放射光施設(SPring-8)の軟X線ビームライン(BL17SU)で展開されている液体や溶液の電子状態の研究のうち溶液試料における選択的電子状態観測,液体の水の水素結合状態の違いによる電子状態変化について紹介する.
  • 北條 正司, 陳 小卉
    原稿種別: 総合論文
    2015 年64 巻4 号 p. 247-260
    発行日: 2015/04/10
    公開日: 2015/04/08
    ジャーナル フリー
    プロトン性溶媒である一級アルコール(メタノールからヘキサノール)のほかに,二成分混合溶媒であるアセトニトリル-アルコール(MeCN-MeOH, MeCN-EtOH),エタノール-メタノール(EtOH-MeOH)及びメタノール-水(MeOH-H2O)系において,アルカリ土類金属イオン(Mg2+, Ca2+, Ba2+)と芳香族スルホン酸イオン間の特異な相互作用を紫外・可視吸収スペクトル法によって研究した.ここで,芳香族スルホン酸イオン類とは,p-トルエンスルホン酸イオン(L),1,5-ナフタレンジスルホン酸イオン(L2-)及び1,3,6-ナフタレントリスルホン酸イオン(L3-)イオンを指し,いずれもテトラエチルアンモニウム塩である.非プロトン性溶媒ばかりではなくプロトン性溶媒中における,過塩素酸金属塩M(ClO4)2濃度の増加に伴う無電荷種の沈殿(例えばML0)生成に引き続く沈殿の再溶解現象は,正に荷電した化学種すなわち「逆配位」化学種の生成によって説明された.溶解度積(Ksp=[M2+] [L2-])及び「逆配位」生成定数(2M2++L2- ↔ M2L2+, K2(-2)=[M2L2+]/[M2+]2 [L2-])が見積もられた.エタノール中においては,Ca2+またはBa2+について沈殿ML0及び引き続くM2L2+の生成が観測されたがMg2+については観測されなかった.ブタノール中では,Mg2+とL2-間で完全な沈殿MgL0(pKsp=10.39)生成及びMg2L2+(log K2(-2)=8.08)の生成が観測された.
  • 塚原 剛彦, 森川 響二郎, 馬渡 和真, 北森 武彦
    原稿種別: 総合論文
    2015 年64 巻4 号 p. 261-271
    発行日: 2015/04/05
    公開日: 2015/04/08
    ジャーナル フリー
    10~100 nmスケールの拡張ナノ空間は,マイクロからナノへテクノロジーが移行し,凝縮相から単一分子へサイエンスも移行する過渡的領域であるため,従来の概念とは全く異なる特異性が発現すると考えられる.本論文では,拡張ナノ空間に閉じ込めた水及び非水溶媒の構造とダイナミクスについて,核磁気共鳴法(NMR)を用いて解析した.その結果,拡張ナノ空間では壁面SiOHの電荷の効果が場全体に波及し,分子クラスターの挙動が顕在化され,バルク水や吸着水とも異なる溶液物性が発現することを見いだした.特に,空間サイズが800 nm以下になると,水の「並進運動の制限」「O-H…O結合方向への電荷分極」「Grotthuss機構によるプロトン移動の促進」が誘起されること,また,この特性は化学平衡や反応にも劇的な変化を与えることが分かった.以上より,拡張ナノ空間水は,壁面から高次に配向した50 nm程の水分子相を形成していることが示唆された.
  • 由井 宏治, 鈴木 光, 森作 俊紀
    原稿種別: 総合論文
    2015 年64 巻4 号 p. 273-282
    発行日: 2015/04/05
    公開日: 2015/04/08
    ジャーナル フリー
    内径1~10 nmのナノ~メソスケールの空間に閉じ込められた水は,自然界のいたるところに存在し,物質全体の構造・物性・機能発現に決定的な役割を果たす.その重要性から,これまで内径の制御しやすい無機鉱物中における水の構造や物性が研究されてきた.一方,生体中によくみられる有機分子が自己集合して作られるナノ空間内の水の構造や物性の研究は,空間サイズ制御の難しさから無機鉱物中に比べて研究例が圧倒的に乏しい.本論文ではサイズ制御できる糖脂質ナノチューブ,並びにエアロゾルOT(AOT)逆ミセルといった有機分子集合体に着目し,その内部に閉じ込められた水分子の構造並びに相転移についての研究成果を紹介する.両者とも内表面に強い分極を与える構造をもつため,水分子と強く相互作用することで,同じ温度・圧力下におけるバルク水とは水素結合ネットワーク構造,相転移温度が顕著に異なる様子が観測された.
  • 吉田 亨次, 山口 敏男
    原稿種別: 総合論文
    2015 年64 巻4 号 p. 283-293
    発行日: 2015/04/05
    公開日: 2015/04/08
    ジャーナル フリー
    本論文では,タンパク質分子と水分子のかかわりを明らかにするために量子ビーム(放射光や中性子線など)を用いて水和タンパク質やタンパク質水和水の構造とダイナミクスを観測した研究例について報告する.前半ではタンパク質近傍の水について放射光のX線非弾性散乱実験により集団ダイナミクスを調べた結果を示す.中性子散乱により観測される単一粒子の運動では,水和によりタンパク質のダイナミクスが大きく変化することがこれまでに明らかにされていたが,集団ダイナミクスにおいても動的転移が生じることを明らかにした.後半では,アルコール添加によるタンパク質の会合現象について,その機構を中性子小角散乱並びに中性子準弾性散乱を用いて明らかした研究成果を示す.アルコール添加により,タンパク質の疎水性側鎖が溶媒へ露出し,その後,タンパク質同士の会合が進行する機構を示した.すなわち,タンパク質の会合過程では,天然構造よりもモルテングロビュールのような乱れた構造が生じることが明らかになった.
報文
  • 山口 敏男, 李 孝成, 山内 希夫, 福山 菜美, 吉田 亨次
    原稿種別: 報文
    2015 年64 巻4 号 p. 295-308
    発行日: 2015/04/05
    公開日: 2015/04/08
    ジャーナル フリー
    常温常圧から40 MPa,350℃ までの1 mol dm-3硝酸マグネシウム水溶液のラマン散乱測定を行った.温度が上昇するにつれて,1050 cm-1のN-O対称伸縮振動バンド(n1)は低波数側へシフトした.一方,2540 cm-1の水のOD対称伸縮振動バンドは,温度上昇とともに高波数側へシフトした.いずれのバンドにも200℃ 付近に屈折点が観測され,NO3イオンの水和と溶媒の水の構造変化が起こることが示唆された.40 MPa,常温から210℃ までの硝酸マグネシウム水溶液についてX線回折測定を行った.得られた構造因子を基に二体ポテンシャルを修正する,empirical potential structure refinement(EPSR)モデリングにより,溶媒水とイオン水和及びイオン対の三次元構造を可視化した.溶媒水の第一配位殻では温度上昇伴う構造変化は見られなかった.しかし,第二水和殻は平均配位数が25℃,0.1 MPaで10.5から,210℃,40 MPaで8.5へ減少した.Mg2+イオンは,25℃,0.1 MPaで6個の水分子が八面体構造で配位しているが,210℃,40 MPaでは平均1個のNO3イオンが第一水和殻に侵入してMg2+とイオン対を形成した.NO3イオンの平均配位数は,25℃,40 MPa下では11.2であり,210℃,40 MPaでは9.8へ減少した.NO3イオンは,Mg2+イオンに単座配位し,Mg2+-ON-Nの角度は約150°であった.
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