分析化学
Print ISSN : 0525-1931
55 巻, 6 号
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総合論文
  • 保田 和雄, 矢口 紀恵, 中村 邦康, 平野 義博, 広川 吉之助
    2006 年 55 巻 6 号 p. 357-367
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/30
    ジャーナル フリー
    新しい方法を開発して,検出限界として例えば0.1原子,0.01分子のように非常に低い値が得られたなどとの報告がしばしば見受けられる.しかしこれらの値はS/N比を基にして言われるものである.よく見れば原子や分子そのものを観察しているのではなく,原子から放射されるなんらかの信号を観測しているものである.言うならば実体ではなく,その影を見て言っていると言ってよかろう.分析対象である原子そのものを観察し,それから放射される信号を観測できれば本質に迫ることができよう.現在行われている分析化学では,億,兆個の原子を測定することが前提になっているが,もし100∼1000個の原子を観測することになると今までの概念でよいであろうか疑問を残すところである.溶液での原子レベルでの観測はいまだ無理なので,合金を測定試料にして高分解能の電子顕微鏡を用い,蒸発,反応,相転移を観察した.更に検出限界についても原子自身を観察し,数で見たほうがよいか放射される信号で見たほうがよいかを観察した.ここに述べた前三者は連続反応,変化だと思われていた現象である.原子レベルで観察すると,これらの変化は連続的でなく階段的だった.しかもこの階段の1段当たりの高さは活量係数に関係することが分かった.本研究で言う活量係数は分析対象である一つの原子に対し,周囲に共存する原子との相互作用の強さが関係する.また,この相互作用が関係する範囲は活量係数と関係があり,活量係数が小さくなるほど,同じ周囲でも遠くのほうまで及んでいる.検出限界の観察では,分析対象の原子の個数は大略の推定はできたが,測定に使用する電子線によるスパッタリングによって共存原子が飛散し分析原子を覆う物理干渉が行った.このため分析原子から放射される信号が減少し,信頼できる測定ができなかった.これらの問題が解決されない限り原子の個数を計数する方法のほうがこの実験では信頼性が高かった.
  • 門 晋平, 木村 恵一
    2006 年 55 巻 6 号 p. 369-380
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/30
    ジャーナル フリー
    近年,原子間力顕微鏡をフォースセンサーとして用いる分子間相互作用の直接測定が,様々な分子対について報告されている.その原理は,探針と基板表面にそれぞれ相互作用する分子をチオールやシラン誘導体の自己集合単分子膜により化学的に固定化し,両者の間に生じる力を測定することに基づく.この手法は,分子間力のメカノケミカルな測定に基づく新規な分析技術へ発展する可能性を秘めている.本研究では,機能分子を化学修飾することにより,この測定手法を用いて,それらの有する特異的な分子間相互作用力を直接測定することを試みた.機能分子として,分析化学的に重要なホスト分子であるクラウンエーテルや尿素誘導体,また,光応答機能を有するフォトクロミック分子であるスピロベンゾピラン誘導体を測定対象に選んだ.それぞれの分子が示す特徴的な相互作用力の測定と単一力の評価の結果を示すとともに,この手法の分析化学的な応用展開について記述する.
  • 大沼 正人, 鈴木 淳市
    2006 年 55 巻 6 号 p. 381-390
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/30
    ジャーナル フリー
    X線及び中性子小角散乱により,金属-非金属ナノグラニュラ軟磁性膜,析出強化型ステンレス鋼,Al-Mg-Si合金の微細組織評価を行った.小角散乱法ではこれら金属材料の各種特性長(粒径,粒子間隔など)をサブナノメートルスケールの精度で評価可能である.この平均スケールの定量評価結果を基に磁気的/機械的特性の発現機構を検討した結果について報告する.
報文
  • 泉 富士夫, 河村 幸彦
    2006 年 55 巻 6 号 p. 391-395
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/30
    ジャーナル フリー
    複数の検出器バンクで測定した飛行時間(TOF)型粉末中性子回折データから原子核密度の3次元分布を決定する方法を確立した.まず,GSASプログラムを使ったリートベルト解析後に推定した観測結晶構造因子Fo(h) と|Fo(h)|の標準偏差をファイル変換プログラムAlchemyによりテキストファイル*.memに出力する.格子面間隔の大きな反射における消衰効果が最小となるように*.mem中の反射データ[hklFo(h) ,σ{|Fo(h) |}]を組み合わせた後,最大エントロピー法プログラムPRIMAによりそれらのデータから単位胞中の原子核密度を求める.得られた原子核密度分布はVENDプログラムで3次元可視化する.このような手続きにより,飛行時間型粉末中性子回折データからNi中の原子核密度を視覚化することができた.
  • 紺谷 貴之, 小澤 哲也, 藤縄 剛, 大野 敦子, 中村 利廣
    2006 年 55 巻 6 号 p. 397-404
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/30
    ジャーナル フリー
    ゼオライトは結晶水を含んでいるアルミノケイ酸塩であり,加熱によって結晶水が失われると分子オーダーの細孔ができることから,吸着剤や触媒の担持体として利用されている.ゼオライトの物性は,本質的な結晶構造に由来する部分のほか,合成段階での残存非晶質相,使用環境下での脱水によって大きく変化することが知られている.そこでこの報告では,粉末回折法による結晶構造の精密化手法を用いて,合成ゼオライトの結晶水を含めた結晶構造解析と全定量分析を行った.更に微細構造の観察を行うために,maximum-entropy methodを用いて回折データから電子密度分布を算出しイメージ化した.本解析で得られた非晶質相の定量値や結晶水数は従来法による結果と良好な一致を示しており,結晶構造の詳細に関する情報が得られる粉末回折法による結晶構造の精密化とイメージングが非晶質や多数の結晶水を含んでいたり,正確な結晶情報を与えない複雑な組成の試料の解析に有効であることを明らかにした.
  • 鷹合 滋樹, 安井 治之, 粟津 薫, 佐々木 敏彦, 広瀬 幸雄, 桜井 健次
    2006 年 55 巻 6 号 p. 405-410
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/30
    ジャーナル フリー
    本研究では,化学的蒸着により作製したTiNコーティング炭化タングステン(WC)-Co超硬合金の残留応力を測定するためインプレーン回折方法を適用した.本法により,膜のみの回折像を基板からの影響をうけることなく得ることができた.はん用のX線回折計の場合,試料に対するX線の侵入深さは数μmであるが,表面すれすれのX線入射によって,約0.2 μmの深さの情報を得ることができる.それぞれの手法を組み合わせることで,膜の深さ方向の残留応力分布を評価することができた.また,結晶配向をもつ膜に対しても本手法は面内角が一定である本手法は,回折強度の不均一さの影響を受けにくいことが分かった.TiN膜には膜と基板の界面付近において機械的性質及び熱膨張率のミスフィットの影響による引張の残留応力が発生しており,その分布は深さによって異なっていることが分かった.
  • 小泉 将治, 平井 光博, 井上 勝晶
    2006 年 55 巻 6 号 p. 411-418
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/30
    ジャーナル フリー
    α-ラクトアルブミン(α-LA)と鶏卵白リゾチーム(HEWL)は互いに相同なタンパク質であり,三次構造は極めて類似していることが知られている.一方,それらのアンフォールディング•リフォールディング過程は異なった熱力学的特徴を示すことが明らかにされているが,その違いと構造転移との関係の詳細は明らかにされていない.そこで,この報告では,pH 7の溶媒中におけるα-LAとHEWLの熱構造転移の特徴をX線溶液散乱法によって比較検討する.放射光(SR)光源を用いる小角X線散乱法(SAXS)は溶液中でのタンパク質の構造解析,特にタンパク質のフォールディングの研究に利用されてきた.従来のSR-SAXS法では小角領域のデータから評価する回転半径などの低分解能の構造情報を解析するにとどまっていた.本研究では,第3世代SR光源を用いた広角X線散乱測定(WAXS)によって,2.5Åから200Åにわたる広い空間領域で観測し,全階層構造(四•三次構造,ドメイン構造,二次構造)に依存した構造転移過程の特徴の詳細を解析した.ここで示すSR-WAXSデータ解析法を用いると,タンパク質のアンフォールディング•リフォールディング過程における階層構造別の変化,階層構造間の転移の協同性,局所的な構造変化などを定量的に明らかにできる.我が国の高輝度光科学研究センター(SPring-8)のような第3世代SR光源の利用によって,実験データの時間•空間分解能が著しく改善された溶液散乱法の現状を示す.
  • 木口 賢紀, 脇谷 尚樹, 水谷 惟恭, 篠崎 和夫
    2006 年 55 巻 6 号 p. 419-426
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/30
    ジャーナル フリー
    二酸化セリウム/イットリア安定化ジルコニア/シリコン(CeO2/YSZ/Si)及びYSZ/CeO2/Siヘテロ構造の配向性に及ぼす界面の構造と化学状態の影響を,高分解能分析電子顕微鏡によって明らかにした.いずれの積層においても幅10∼30 nmの柱状構造が観察されたが,その配向性は大きく異なった.YSZ/CeO2/Siヘテロ構造においては,CeO2層は(111)優先配向を示し,面内には配向を持たなかった.electron energy loss spectroscopy(TEM-EELS),energy dispersive X-ray spectroscopy(TEM-EDS)による界面近傍の分析の結果,CeO2が還元された界面反応層とSiが酸化された界面反応層の存在が明らかとなった.CeO2/YSZ/Siヘテロ構造においては,CeO2層は優先的に(001)配向したが,YSZが薄いほうがCeO2層の(001)配向性は向上した.(001)配向した領域のCeO2/YSZ界面については,YSZ層が厚い場合,ミスフィット転位を伴った半整合界面を形成した.YSZ層が薄い場合,YSZ層の構造の乱れのために明確な界面構造は分からなかった.TEM-EDS分析の結果,Si酸化膜だけが存在した.膜厚が薄い場合でもYSZ層にはSi基板の結晶方位をCeO2層に伝達する効果に加えて,Siに対して熱力学的に不安定なCeO2の還元を抑制する効果があることが明らかになった.
  • 中野 和彦, 辻 幸一
    2006 年 55 巻 6 号 p. 427-432
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/30
    ジャーナル フリー
    ポリキャピラリーX線レンズを用いた共焦点型蛍光X線分析装置の開発を行い,米試料中の非破壊三次元分析を行った.10 μm厚のAu薄膜により評価した,共焦点型蛍光X線分析装置の深さ方向の分解能は約90 μmであった.ポリキャピラリーハーフレンズを取り付けることで,バックグラウンドの軽減が確認された.開発した装置を用いることにより,米試料中の主元素の三次元元素マッピング像が,非破壊的に常圧下で得られた.米試料中の主元素であるK,Ca,Feの二次元マッピング像を試料表面から200,400,500 μmの深さで取得したところ,異なる分析深さにおいてそれぞれ異なった元素分布を示した.
  • 原田 雅章, 庄司 雅彦, 河田 洋, 桜井 健次
    2006 年 55 巻 6 号 p. 433-439
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/30
    ジャーナル フリー
    高エネルギ-蛍光X線法を用いることにより,バルク材料中のランタノイドの情報を共存する遷移金属元素等の影響無しに得ることができる.本研究では,放射光施設のウィグラー光源からの高エネルギ-放射光(60∼80 keV)を励起光として,Ce及びGdのKβ蛍光X線スペクトルを測定した.Ge半導体検出器を用いたエネルギー分散型での測定では,Ce Kβスペクトルを比較的容易に取得可能であったが,スペクトル形状が使用するエレクトロニクスや蛍光X線強度により変化するという問題があることが分かった.更に高エネルギ-分解能のスペクトルを得るために,結晶モノクロメーターとイメージングプレートを用いた波長分散型での測定を試みた.その結果,Gd Kβスペクトルを5本のピークに分離可能で,エネルギ-分解能は60 eVであった.今後は,様々なランタノイド化合物の分析への応用が期待される.
技術論文
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