分析化学
Print ISSN : 0525-1931
72 巻, 3 号
特集:ナノ・マイクロ分析化学の新展開
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
特集:ナノ・マイクロ分析化学の新展開
分析化学総説
  • 佐藤 香枝, 佐藤 記一
    原稿種別: 分析化学総説
    2023 年 72 巻 3 号 p. 73-78
    発行日: 2023/03/05
    公開日: 2023/04/06
    ジャーナル フリー

    血管は全身に血液を送る重要な組織であり,さまざまな疾患に関係するため,動物の血管や細胞を使った治療薬や治療法開発のためのバイオアッセイが行われてきた.動物を用いた実験としては,マウスの皮膚を用いた実験や鶏の受精卵を用いた実験が多く行われており,細胞を用いた実験としては血管内皮細胞を用いた実験が行われてきたが,それぞれいくつかの問題点が指摘されている.それに対し,近年Organ-on-a-ChipあるいはMicrophysiological Systems(MPS)と呼ばれるマイクロ流体デバイスを利用した生体模倣モデルを用いたバイオアッセイが注目されている.これまでに,多孔質膜上で培養した血管内皮細胞の透過性試験や,刺激物質や酸素の濃度勾配下での走化性試験,ハイドロゲル中での血管新生に関わる試験などさまざまなバイオアッセイ法が開発されており,医学生理学研究への寄与が期待される.

総合論文
  • 火原 彰秀
    原稿種別: 総合論文
    2023 年 72 巻 3 号 p. 79-86
    発行日: 2023/03/05
    公開日: 2023/04/06
    ジャーナル フリー

    準弾性レーザー散乱(QELS)法は,熱揺らぎにより気液界面や液液界面といった液体の自由界面に発生する表面張力波による光散乱を計測する手法であり,表面張力を光学的に計測できるユニークな方法である.従来のQELS法では散乱角を実験上定めたうえで,光の波数を用いて表面張力を決定する.これに対し,マイクロ流路・マイクロウェル・液滴といった空間制限のある自由界面において,表面張力波が空間制限形状に応じた自発共鳴モードをもつことを利用したQELS法では,空間制限形状に対応するモードとそのサイズをあらかじめ知っていれば,表面張力を得ることができる.本稿では,マイクロ流路における気液界面,マイクロウェル中の気液界面,マイクロ水滴の気液界面の測定例を通して,この自発共鳴型QELS法の原理を説明したのち,そのマイクロ・ナノ科学での有用性を議論する.

  • 大城 敬人
    原稿種別: 総合論文
    2023 年 72 巻 3 号 p. 87-95
    発行日: 2023/03/05
    公開日: 2023/04/06
    ジャーナル フリー

    個別化医療の実現には,多種多様な診断マーカーの網羅的な検出が必要である.このような個別化医療を実現するセンサーとして,現在,ナノデバイスを用いた1分子電気計測法が,生物・医療分野でのさまざまなターゲットマーカーを網羅的に同時検出できることから注目されている.このナノデバイスとは,ナノポア,ナノギャップ,ナノピペット,ナノ流路(ナノチャンネル)などのナノ構造を集積化しており,微小電流計測と組み合わせることで1分子検出を行うことが可能となる.この方法の特徴としては,高感度,低コスト,ハイスループット検出,携帯性,大量生産技術による低コスト化,多様な機能・複数センサーの統合が可能などの特徴を有する.本報では,こうしたナノデバイスを用いた1分子電気計測の医療応用に焦点を当て,現状のナノデバイスによる電気計測系での応用例を取り上げるとともに,著者らが進めるナノギャップデバイスによる生体分子センシングを紹介し,将来の個別化医療の実現に本格的に貢献すると期待されるナノデバイスを用いた1分子電気計測技術の現状の課題や将来展望について考察する.

報文
  • 阿部 裕一郎, 飯國 良規, 河野 誠, 塩谷 俊人
    原稿種別: 報文
    2023 年 72 巻 3 号 p. 97-104
    発行日: 2023/03/05
    公開日: 2023/04/06
    ジャーナル フリー

    マイクロ流体デバイスを用いて,電磁泳動法に基づき液中に存在するプランクトンの特徴に応じて分離可能なシステムを開発した.プランクトンの異常増殖は赤潮等の公衆衛生上の問題や水産業への被害を引き起こすため,プランクトンの状態をその場で即時検査可能な小型システムは本課題の解決に大変有効である.本研究では,磁場と電流を互いに直交方向に印加した際に生じる電磁泳動とマイクロ流体デバイスを組み合わせることで,微粒子状の植物性プランクトンなど微生物を粒子径に応じて電磁泳動力が強まる現象を利用して分離可能なシステムを開発した.本システムは泳動距離及び泳動速度を画像解析によって計測することで,微生物のキャラクタリゼーションを行うことが可能である.作成したシステムを用いて,微粒子状円石藻類プランクトンであるプレウロクリシスを粒子径10 μmから50 μmの範囲で粒子のサイズ分離を行い,サイズごとの泳動距離及び泳動速度から微生物の高効率な分離を実現できる可能性が示された.

  • 嶋田 泰佑, 竹下 大貴, 伊藤 聡, 安井 隆雄, 馬場 嘉信
    原稿種別: 報文
    2023 年 72 巻 3 号 p. 105-110
    発行日: 2023/03/05
    公開日: 2023/04/06
    ジャーナル フリー

    体液中の細胞外小胞(EVs)に内包されるmicroRNAs(miRNAs)は,低侵襲な疾病診断を可能にするバイオマーカーとしてとして期待されている.体液からのEVs分離はmiRNA解析の前処理として重要であるが,既存法は多量のサンプルが必要及び分離効率が低いという課題がある.本研究では,少量の体液からEVsを高効率に分離するための,酸化亜鉛ナノワイヤを埋め込んだ使い捨て可能なマイクロ流体デバイスを開発した.本デバイスは細胞培養上清液や体液を送液するだけでEVsを高効率に分離することができ,分離したEVsが内包するmiRNAsのin-situ抽出が可能である.既存の超遠心法や凝集試薬法と比較して,当該デバイスは1 mLの細胞上清液や血清に含まれるEVsを高効率で回収して,多数のmiRNA種を抽出して解析可能であることを実証した.本デバイスを用いた体液中EVsの回収は,miRNAsに基づく低侵襲診断や未知のバイオマーカー探索を実現するための技術基盤となりうる.

ノート
  • 飛田 安梨沙, 高尾 隼空, 遠藤 達郎, 久本 秀明, 末吉 健志
    原稿種別: ノート
    2023 年 72 巻 3 号 p. 111-116
    発行日: 2023/03/05
    公開日: 2023/04/06
    ジャーナル フリー

    標的分子に対する特異的結合能を示す配列を持つ核酸であるアプタマーは,抗体に代わる分子認識素子としての応用が期待される分子である.しかしながら,従来のアプタマー選抜法では煩雑な実験操作を10〜15サイクル繰り返す必要があるため,アプタマー関連研究におけるボトルネックとなってしまっている.本研究では,これまでに開発したミクロスケール電気泳動フィルタリングに基づくアプタマー選抜法を細胞外小胞マーカー(CD63)のアプタマー選抜へと応用した.その結果,簡便な電気泳動に基づく標的分子導入,核酸導入,結合した核酸の洗浄・回収からなるわずか1サイクルの選抜操作によって,CD63アプタマー候補が獲得された.また,等温滴定カロリメトリーの結果から,選抜されたアプタマー候補の一つがCD63に対する結合能を持ち,非標的分子のウシ血清アルブミンには応答しないことが確認された.

  • 伊藤 千聖, 伊野 浩介, 平本 薫, 梨本 裕司, 珠玖 仁
    原稿種別: ノート
    2023 年 72 巻 3 号 p. 117-123
    発行日: 2023/03/05
    公開日: 2023/04/06
    ジャーナル フリー

    先端開口径がナノスケールのガラスナノキャピラリーにイオン濃度の低い溶液を入れた場合,先端のナノポアにはそのイオン濃度から予想されるよりも過剰なイオンが存在している.これは,イオンが内壁で電気二重層を形成しているからである.この条件でキャピラリー内に電極を設置して,ナノポアを介してイオン電流を計測すると,正と負の電圧をかけたときで得られるイオン電流値が大きく異なる.この現象をイオン電流整流作用(ion current rectification, ICR)と呼ぶ.ICRの大きさは,ナノポア表面が持つ電荷の種類と量に大きく依存しており,この表面電荷の変化を利用したバイオセンサが報告されている.しかし,この現象はイオン濃度が低い条件で顕著に見られるため,生理条件下で行われるバイオセンシングの利用を制限してしまう場面がある.そこで本研究では,さまざまなイオン濃度のリン酸緩衝液を用いたときのICRを観察し,生理条件下でICRを誘起できるかを調査した.また,細胞計測の予備検討としてキャピラリー内に導入した細胞スフェロイドの様子を観察した.

  • 小山 魁人, 西村 卓馬, 石田 晃彦, 日比野 光恵, 真栄城 正寿, 谷 博文, 渡慶次 学
    原稿種別: ノート
    2023 年 72 巻 3 号 p. 125-131
    発行日: 2023/03/05
    公開日: 2023/04/06
    ジャーナル フリー

    近年,サンプリングした現場で即時に分析が可能な小型分析装置の需要が高まっている.著者らは,小型・低電力の電気浸透流ポンプとカラム内蔵チップからなる小型HPLCシステムの開発に取り組んできた.本研究では,小型HPLCシステム全体のさらなる小型化を目指しながら検出における汎用性を拡張するため,カラム内蔵チップに適用可能で,汎用性が高い紫外吸光度検出モジュールを構築した.そのために光源及び受光器に深紫外発光ダイオード(ピーク発光波長255 nm)及びフォトダイオードを用いるとともに,これらの動作を制御し,信号を処理するシステムも構築した.さらに,検出モジュールが市販分光光度計並みの感度を持ち,良好にクロマトグラム測定ができることを実証した.

  • 千田 駿亮, 高橋 和希, 福山 真央, 粕谷 素洋, 真栄城 正寿, 石田 晃彦, 谷 博文, 重村 幸治, Anatoly V. ZHE ...
    原稿種別: ノート
    2023 年 72 巻 3 号 p. 133-138
    発行日: 2023/03/05
    公開日: 2023/04/06
    ジャーナル フリー

    マイクロ流体デバイスを利用した分析では,流路壁面への試料等の吸着が問題になる場合がある.特にポリジメチルシロキサン(PDMS)製デバイスを用いた免疫分析では,抗体や測定対象等の吸着が測定性能に大きく影響する.そこで本研究では,下痢性貝毒であるオカダ酸(OA)を測定対象として,蛍光偏光免疫分析によるオカダ酸の検出感度における二種類のブロックキング剤添加の影響について検討した.また,得られた検量線から抗体とトレーサーに対する解離定数を算出した.

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