分析化学
Print ISSN : 0525-1931
60 巻, 12 号
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年間特集「土」:分析化学総説
  • 福嶋 正巳, 寺島 元基, 藪田 ひかる
    原稿種別: 年間特集「土」:分析化学総説
    2011 年 60 巻 12 号 p. 895-909
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/31
    ジャーナル フリー
    腐植物質(HS)は,親水・疎水部位双方を有する両性物質で界面活性能を持つ.このようなHSの機能は,多環芳香族化合物,ポリ塩化ダイオキシン類,農薬など様々な疎水性有害有機物(HOPs)の土壌への吸着だけではなく可溶化のような移動・拡散にも関与する.HSは,このように相反する働きをするユニークな物質であるが,これらをHOPsで汚染された環境の修復に利用する試みがなされている.HSは,起源や生成環境により構造的特色が大きく異なる不定形であるがゆえに,HOPsに対するユニークなふるまいを示すと考えられる.しかし,このようなHSの不均一性は,環境技術へ応用する場合,どの程度の効果が期待できるのかを評価することを困難にする.本論文では,HOPsとの相互作用にかかわるHSの機能解明に対するこれまでの研究を紹介するとともに,土壌浄化への活用に関する展望を議論する.
年間特集「土」:総合論文
  • 笹木 圭子
    原稿種別: 年間特集「土」:総合論文
    2011 年 60 巻 12 号 p. 911-919
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/31
    ジャーナル フリー
    微生物による硫化鉱物の浸出反応において,硫化中間体あるいは最終酸化物が浸出対象鉱物の表面を被覆し,金属の抽出を妨害することが問題となっている.不動態化原因鉱物の生成順序や化学的鉱物学的特性化をはじめとした不動態化機構の解明に向けて,本稿では,いくつかの代表的な硫化鉱物のバイオリーチング過程の鉱物残渣のX線光電子分光法およびRaman分光法による中間体の同定と二次鉱物である塩基性硫酸第二鉄の同定,走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分析法(SEM-EDX)による二次鉱物の生成順序の推定,および透過電子顕微鏡観察によるナノスケールの非結晶性二次鉱物の同定について解説する.また,将来ニーズが予想されるヒ素含有銅鉱の超好熱性古細菌によるバイオリーチングにおいて,ヒ素を不動態化させ銅の回収率を最大化する不動態化原理について最近の研究を紹介した.
  • 森下 祐一
    原稿種別: 年間特集「土」:総合論文
    2011 年 60 巻 12 号 p. 921-937
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/31
    ジャーナル フリー
    鉱物資源は現代社会に不可欠である.産業だけでなく日常生活のすべての場面で利用されているが,近年いくつかのレアメタル資源の供給が逼迫して社会問題となっている.現代社会では貴金属を含めたレアメタルだけでなく,鉄やベースメタルと呼ばれる銅,鉛,亜鉛などを安定供給することが重要な課題となっている.鉱物資源を探査・発見して利用するためには,それが形成されるメカニズム(成因)を知る必要がある.鉱物資源として重要な熱水性鉱床の成因研究には地表の土や岩石の分析が重要であるが,軽元素安定同位体比分析法や二次イオン質量分析法(SIMS)は有力な分析法である.鉱床成因研究における軽元素安定同位体の性質を概観し,それを熱水性鉱床(スカルン型鉱床,深熱水性鉱床,浅熱水性鉱床)に適用した研究で鉱床成因の一端を明らかにした.また近年重要性を増しているSIMS微小領域分析により,鉱床鉱物等のミクロな元素分布や同位体の挙動が解明されつつある.
年間特集「土」:報文
  • 村居 景太, 石井 誠治, 奥村 浩, 岡内 完治
    原稿種別: 年間特集「土」:報文
    2011 年 60 巻 12 号 p. 939-945
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/31
    ジャーナル フリー
    ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAAm)が水およびアルコールに易溶であるがその混合溶媒には不溶である性質(共貧溶媒性,co-nonsolvency)を利用し,土壌中の油分を現場で迅速に比濁測定する方法を確立した.PNIPAAmのエタノール溶液を土壌試料に浸透させて得た溶出液に塩化ナトリウム水溶液を加え,液中で形成される高分子相に油分を抽出した.容器壁面に付着した高分子相を液相から分離した後,新たに水を加えて高分子相を溶解し,抽出した油分を解膠させてエマルションを得た.エマルションの濁度は油分量に依存したので比濁法によって油分を測定した.また,土壌からの油分の溶出操作を簡易に実施するため,ろ過材を備えたカラム型器具を考案し,反応容器および携帯型光度計と併せてキット化した.土壌試料1.0 g中の油分の測定範囲はA重油換算で400~5000 mg kg-1であり,全操作に必要な所要時間は約10分間であった.得られた検出値はガスクロマトグラフィー(GC)で測定した全石油系炭化水素(TPH)の値と良好な直線関係を示した.本法は土壌の油汚染を現場で判定するためのスクリーニング試験に有用である.
  • 高貝 慶隆, 古川 真, 長橋 良隆, 高瀬 つぎ子, 敷野 修, 亀尾 裕
    原稿種別: 年間特集「土」:報文
    2011 年 60 巻 12 号 p. 947-957
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/31
    ジャーナル フリー
    マイクロウェーブ加熱分解/誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)による土壌中の235U及び238Uの同位体比分析法を開発した.マイクロウェーブ加熱分解では,硝酸-過酸化水素の混酸を用いることで,ケイ酸塩中の天然ウランの溶解を抑制した.また,同位体比を精確に求めるために,岩石標準物質中のウラン同位体比を実試料の同位体比の指標とし,ICP-MSのセルパス電圧をMSのマスバイアス校正に利用した.これらの効果により,放射能を含む標準線源を使用せずにウランの同位体比を0.37% の精度で測定できた.235U及び238Uはそれぞれ定量でき,それらの検出下限値はそれぞれ0.010 μg/kgであった.原子力災害などの緊急時において,本法は,従来法である完全酸分解/ICP-MSあるいはα線スペクトロメトリーと比較すると迅速で広範囲の状況把握が可能である.さらに,東京電力福島第一原子力発電所から7~80 kmの範囲(福島県下115箇所)でモニタリング調査を行った.その結果,サンプリングの地域によってウラン総量に差異はあるものの,同位体比はほぼ一定の天然同位体比であることが確認された.
報文
  • 井上 和美, 山崎 香織, 北原 恵一, 會川 義寛, 荒井 貞夫, 花田(増田) 尊子
    原稿種別: 報文
    2011 年 60 巻 12 号 p. 959-964
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/31
    ジャーナル フリー
    クロロメチルスチレン-ジビニルベンゼン共重合体とN,N,N',N'-テトラメチル-1,6-ジアミノヘキサンから合成した四級窒素原子を一つ有するモノカチオン型充填剤に,アルキル鎖の異なるメタンスルホン酸エステルを反応させ,四級窒素原子を二つに増加させた,新規なジカチオン型陰イオン交換高速液体クロマトグラフィー用充填剤を合成した.ジカチオン型充填剤のイオン交換容量は,1.39 mmol g-1(末端アルキル鎖長m =1),1.08 mmol g-1m =6),1.15 mmol g-1m =10),1.11 mmol g-1m =14)であり,モノカチオン型充填剤のイオン交換容量は0.88 mmol g-1であった.これらの充填剤を用いて溶離液0.1 M水酸化ナトリウム水溶液の条件でアルドペントースの分析を行った.ジカチオン型充填剤を用いると,モノカチオン型充填剤では分離できなかったアルドース4種すべてが分離できた.
  • 陣矢 大助, 岩村 幸美, 門上 希和夫, 宮川 治彦, 中川 勝博, 近藤 友明, 楠田 哲也
    原稿種別: 報文
    2011 年 60 巻 12 号 p. 965-975
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/31
    ジャーナル フリー
    ガスクロマトグラフ-四重極型質量分析計(GC-QMS)及び全自動同定・定量データベースシステムを用いて半揮発性化学物質の多成分同時分析を行う際に必要となる装置性能評価手法を得るため,実試料測定によって生じる装置状態の変化を確実にモニターできる装置性能評価物質を検討した.試料マトリックスとして食品試料を用い,これをGC-QMSに160回注入してマトリックスを負荷後,注入口インサート交換,カラム切除,イオン源洗浄及び交換等の保守操作を行った.また,その間220種の装置性能評価候補物質を計29回測定し,感度や保持時間の変化を調べた.その結果,マトリックス負荷により115物質の定量値が当初値の±20% 以上に変化し,5物質の保持時間が予測値より6秒以上ずれ,またイオン源の保守操作では77物質の定量値が当初の70% 未満に減少した.以上の結果を解析し,注入口,カラム及びイオン源各部の不活性さ,保持時間変動及び質量分析部のチューニング変動のモニターに適した装置性能評価物質19物質を提案した.
技術論文
  • 長谷川 寛, 松本 浩幸, 石井 勝弘
    原稿種別: 技術論文
    2011 年 60 巻 12 号 p. 977-982
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/31
    ジャーナル フリー
    試料の分離と収束が同時に行われる蛍光検出マイクロチップ等電点電気泳動法は高感度分析法として有効であるが,それぞれの試料の等電点が近いか同じ場合には分離して定量することが困難である.この問題を解決するため,樹脂基板中にチャネルを形成したマイクロチップを用い,蛍光相関分光法とマイクロチップ等電点電気泳動法を組み合わせたシステムを開発した.本システムは,チャネル内に収束した試料画分を蛍光走査法によって検出すると同時に,蛍光相関分光法によって分子の数と大きさを測定することを特徴としている.蛍光標識ペプチドあるいはタンパク質を試料として分析を行ったところ,等電点の値に応じて収束した画分の検出分子数は,収束前と比較して約20倍以上増加していた.一方,計測された並進拡散時間より分子量を推察することができた.本システムは,等電点の差だけでは分離定量することが困難な試料に対して,分子量による分離を組み合わせた新しい分析法として期待される.
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