1) 山梨,神奈川,長野,高知,鳥取各県で採集したトマトのモザイク,えそ症状株89株について主として数種検定植物に対する汁液接種によつてウイルスの種類を調べた。その結果,TMVが95%と非常に多数の株から分離され,CMVは24%, PVXは2%の分離率であつた。重複感染株は約20%あつて,その大部分はTMVとCMVの重複感染株であつた。
2) 分離されたTMVの92%はタバコ(Bright Yellow)にlocal lesionをつくるだけで全身感染せず,かつインゲン(大手亡)にlocal lesionをつくらず,ここでトマト系と命名したものであつた。TMVの普通系は13%であり,トマト系と普通系の重複感染株は5%であつた。
3) トマト系は抗TMV普通系血清とスライド法で凝集反応をおこし,耐熱性(90∼95°C),ウイルス粒子の形態でも普通系ととくに差がみられなかつた。タバコ(Bright Yellow)を用いて行なつた交叉免疫試験でも両系統が近縁なものであることが示された。寄生性の面では,タバコ(Xanthi)ではトマト系,普通系ともにlocal lesionをつくらず,上葉にモザイクをつくり,差がみられなかつたが,タバコ(Bright Yellow),
N. sylvestris,ペチュニアではトマト系ではlocal lesionをつくるだけで全身感染しないのに対し,普通系ではlocal lesionをつくらず,全身感染しモザイクになつた。インゲンに対する両系統の寄生性は2)にあげたような差がみられた。
4) トマト系は普通系に比べ,そのトマト接種葉における増殖がよく,かつトマト体内での移行もよいようで,トマトに対する寄生性の親和性が普通系よりも高い傾向がうかがわれた。
5) このトマト系は従来TMVのtomato streak系と考えられていたものに同一または近縁と思われる。トマトのモザイク株からも多数分離されるところから,tomato streak系の名をさけ,Broadbentの用いているTMVのtomato virusにならつて「トマト系」と命名した。
6) 1)にあげた89株の接種源のトマト上における病後のえそ症状の有無を中心にモザイク型(70株)とえそ症状(19株)に2大別し若干の考察を行なつた。その結果,モザイク型,えそ型それぞれから分離されるウイルスの種類別の分離率にとくに差がみられなかつた。
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