1. 糸葉と輪紋病徴を併発したクワ(滋賀県産)から草本植物へ汁液で感染する球形ウイルスを分離し,その各種性質を試験した。
2. 寄主範囲はササゲ(ブラックアイ),ダイズ,インゲン,エンドウ,
N. clevelandii, C. quinoa,ゴマで全身感染,ササゲ(黒種三尺,赤種三尺)で局部感染であった。
3. ウイルス粒子の形態は直径約22nmの球状であったが,もとのクワ株をdip法で電顕観察したとき,球形粒子のほかに長さ約730nmのひも状粒子も認められた。
4. 輪紋,ひだ葉,糸葉,黄化など各種病徴のクワ9株につき,dip法による電顕観察および検定植物への接種試験を行なったところ,いずれの病徴の株からも本ウイルスとひも状粒子とが検出された。
5. 本ウイルスはモモアカアブラムシで伝搬されないが,ダイズで種子伝染をおこした。粗汁液中の不活化限界は耐熱性50-60℃,耐希釈性1,000-10,000倍,耐保存性3-5日であった。
6. 感染したササゲ葉から,四塩化炭素処理,分画遠心としょ糖密度勾配遠心により本ウイルスを純化し,抗血清を作製した。本ウイルスの抗血清と温州萎縮ウイルス(SDV), tomato ringspot virus, cowpea mosaic virusとの間に血清学的関係は認められなかった。またSDVとは交叉免疫も認められなかった。
7. 本ウイルスに感染したクワ,ササゲの葉の超薄切片を電顕観察したところ,中に球形粒子が1列に並んださや状構造物と,膜状構造物が集まってできた封入体が認められた。
8. 部分純化ウイルスを健全な改良ねずみがえしと八丈の実生クワ苗に汁液接種したところ,感染がおこり輪紋,モザイクの病徴が現われた。
9. 以上の実験の結果から本ウイルスはNEPOウイルス群に入るものと考えられ,クワ輪紋ウイルス(mulberry ringspot virus)と命名することにした。ひも状粒子に関してはこれが何であるかは不明である。
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