1. 本論文に在つては最初に本菌の形態を記載したるが,本菌は特に菌管々口の形状變化性に富むものにして,
Lenzitesの屬徴たる〓状溝を形成することあるのみならず,時に迷路状を呈して,
Daedaleaの屬徴を呈示し,又時には管孔状なる
Trametesの特徴を現はせり。
2. 本邦に於てオホチリメンタケと稱せられたる菌と,シロミダレアミタケと呼ばれたる菌とは同一種と見做し得可く,筆者等は前者を本菌和名として採用することとせり。
3.
Lenzites tenuis LÉV.,
Lenzites Earlei MURRILL,
Boletus sinuosus Sow.,
Daedalea gibbosa PERS.,
Trametes gibbosa (PERS.) FR.等は何れも同一菌に與へられたる異名なり。筆者の一人逸見は本菌を
Lenzites屬に隷屬せしむるを至當と見做し,萬國命名規約に遵ひ之を
Lenzites gibbosa (PERS.) HEMMIと稱することとせり。
4. 本菌々絲の發育と培養温度との關係を研究したるが,本菌發育に對する最適温度は28℃と32℃との中間に存し,夫は28℃の方に著しく近き温度なりと見做されたり。發育に對する最高限界温度は40℃前後にして,最低限界温度は7℃~8℃附近に存するものの如し。
5. 本菌は本邦に於ける分布極めて廣汎にして,北は北海道,樺太より,南は九州,臺灣に及ぶこと明かなり。寄主選擇性に乏しく各種の科に隷屬する多數の濶葉樹材を侵害するも,針葉樹材を侵すことなきが如し。
6. 本菌は主として枯損木の材幹腐朽を原因するものにして,生活力ある樹木の侵害性不明なり。
7. 本菌の侵害を蒙りし材は一樣に脆弱となり,健全部に比し著しく白化す。最も腐朽したる部分は恰も晒されしが如く,全面白色を呈す。本菌は明かにリグニン溶解菌にして, FALCK (2)のKorrosionspilzeに屬し, HUBERT (8)の所謂White spongy rotに該當する材質腐朽を基因するものなり。
8. BAVENDAMMの呈色反應法によるも,本菌はKorrosionspilzeに屬することを暗示せられたり。
抄録全体を表示