Diaporthe destruensにより引き起こされるサツマイモ基腐病は種イモ伝染するため,健全種イモの確保が重要である.本研究では蒸熱処理により種イモを消毒する技術を確立することを目的とし,まず最初に供試菌株として,塩素酸塩添加培地での選択培養が可能な基腐病菌の硝酸塩利用能欠損(nit)変異株の作出を試みた.その結果,外観や病原性に異常がなく,窒素利用能の欠損したMn04株が得られた.Mn04株の耐熱性について調べるため,α胞子懸濁液に対して所定の温度で温湯処理を行ったところ,43°Cでは減少しなかったものの,46°C以上では減少がみられた.このとき処理温度の上昇に伴い,生残数の減少速度は早くなる傾向がみられ,46°Cから49°CにおけるD値(各温度において生残数を90%減少させるのに必要な時間)の幅は0.72–2.85分であった.次に,塊根に内在する基腐病菌の消毒に必要な最小限の蒸熱処理条件を検討するため,Mn04株を人工接種して2日目の見かけ上健全なサツマイモ塊根20個に対して処理温度と時間を変えた蒸熱処理を行い,選択培地上でMn04株が再分離されなくなる条件を調べた.蒸熱処理温度が47°Cでは110分以上,48°Cでは100分以上の場合で菌が再分離されなくなった.さらに供試数を210個に増やして48°C,100分の蒸熱処理を行ったところ,7個においてMn04株が再分離された.以上の結果から,本研究で作出した基腐病菌nit変異株Mn04株は,43°Cでは減少しないものの46°C以上の高温で減少する耐熱性を持つこと,そして,48°C,100分の蒸熱処理条件はMn04株を人工接種した見かけ上健全な塊根に対して93.8%以上の消毒効果を期待できることが示された(有意水準5%).
海外のトマト等ナス科作物での発生と被害が拡大しているtomato brown rugose fruit virus(ToBRFV)について,日本国内の栽培圃場等で万一発生した際に,それを迅速かつ比較的簡易に検出・診断できることを目的として,新たに設計したプライマーによるワンステップRT-PCR法を開発した.本法はトマト,ピーマン,およびナスのToBRFV感染葉から,ToBRFVを,他の国内既発生トバモウイルスと識別しながら検出できた.ToBRFV感染葉RNAを健全葉RNA溶液で1000万倍以上に希釈した場合でも検出できたことから,低濃度に感染しているサンプルからでも十分に検出でき,日本の栽培圃場で疑わしい症状が発生した場合の診断に適していると考えられた.