トランスポゾン(Tn
5)突然変異法を用いて,
A. tumefaciens (A208菌,病原性)より非病原性変異菌(M3菌)を分離した。M3菌はニンジン,ジャガイモ等,供試植物すべてに非病原性を示した。M3菌は染色体上の病原性遺伝子(
chvA)にTn
5が1個挿入されたために非病原性を示すことがわかった。このM3菌と我々が以前分離したB119菌(染色体上病原性遺伝子
acvBにTn
5が1個挿入されたために非病原性を示す)および親株(A208菌)を用いて,両遺伝子の機能解析を行った。上記3菌株とタバコBY2細胞を共培養したところ,T-DNAのタバコ細胞核内への効率的転移はアセトシリンゴン(As)を含む培地中で,A208菌でのみ起こった。しかし,As添加培地中で,非病原性菌M3とB119菌でもT-DNAの転移中間体型であるT-strandの形成までの反応は正常に進行していた。3菌株をT-DNAの転移が起こるAs添加培地と,転移が起こらないAs無添加培地で培養し,それぞれの菌から外膜,ペリプラズム可溶性タンパク質,スフェロプラストを調製し,tricine-SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動でタンパク質成分を分析した。As添加培地中で培養した菌の外膜画分において,3菌株間に顕著な差が認められた。線毛の構成タンパク質(pilin)が含まれると推定される
5∼1
5kDaの領域に,M3菌は淡い2本,B119菌は鮮明な2本,A208菌は7∼8本のタンパクバンドが検出された。上記の菌株細胞と外膜を電子顕微鏡で観察したところ,As添加培地中でA208菌は“完全な”線毛を,B119菌は“不完全な”線毛を形成していた。一方,M3菌ではまったく線毛が観察されなかった。線毛は,T-DNAの通過経路であることが明らかにされつつあり,このことと上記の結果を考えあわせると,
A. tumefaciensの染色体上の病原性遺伝子,
acvBと
chvAはT-DNAの宿主植物細胞への通過経路である線毛の形成に対する影響を通して病原性に関与していると推定される。
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