根頭がんしゅ病菌と毛根病菌は,いずれも
Rhizobium属に属する植物病原菌である.本属内の既知菌種のうち,これらの植物病原菌をメンバーとして含んでいるのは以下の6菌種である:
R. radiobacter species complex(
R. nepotumと
R. pusenseも含む),
R. rhizogenes,
R. vitis,
R. rubi,
R. larrymoorei,
R. skierniewicense.本研究では,このうちの4菌種(
R. radiobacter species complex,
R. rhizogenes,
R. vitis,
R. rubi)を対象として,コロニーダイレクトのもとで実施するマルチプレックスPCRを利用した菌種同定法の開発を試みた.各菌種に特異的なプライマーは,
recAあるいは
pyrGの配列に基づいて設計した.また,16S rRNA遺伝子(16S rDNA)を内在性コントロール遺伝子(内部標準)として選び,それを標的としたプライマーセットを反応に組み込むことによって,PCRの成否が容易に判定できるようにした.さらに,これらを組み合わせて実験系を構築した上で,その反応条件を至適化した.最後に,この実験系が菌種同定法として信頼できるか否かを証明するために,合計383株の植物病原性
Rhizobium属細菌や近縁菌を供試し,妥当性確認(バリデーション)試験を行った.その結果,菌種同定の対象とした4菌種からは,内部標準としての16S rDNA由来のシグナル(780~784 bp)とともに,各菌種に特異的な以下のシグナルが安定して得られることが確認できた:
R. radiobacter species complex(245 bp);
R. vitis(319 bp);
R. rubi(420 bp);
R. rhizogenes(503 bp).一方,4菌種以外の菌株からは,16S rDNA由来のシグナルのみが認められた.以上より,本法は植物病原性の主要4菌種(
R. radiobacter species complex,
R. rhizogenes,
R. vitis,
R. rubi)を対象とした簡易・迅速な同定法としてきわめて実用性が高く,根頭がんしゅ病や毛根病の発生調査・確定診断,病原菌の疫学・生態学的研究をはじめとするさまざまな場面において,同定作業の効率化に大きく貢献することが期待される.
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