タバコ品種Ambalemaのタバコモザイクウイルス(TMV)に対する耐病性の機構を明らかにする目的で,接種葉および葉肉プロトプラストにおけるTMVの増殖とそれに及ぼすアクチノマイシンDの影響を感受性品種Xanthiと比較して検討した。
Ambalemaの接種葉におけるウイルスの増殖量はXanthiのそれに比べ著しく低く,接種12日後でも1/8であった。TMVを接種したAmbalema葉を接種2時間あるいは1日後にアクチノマイシン(AMD)で処理すると,TMVの増殖量が対照の2.5∼3.0倍に増加したが,その後AMDのウイルス増殖促進の効果は減少し,接種10日以後ではほとんど認められなくなった。TMV接種葉から経時的に分離したプロトプラストのウイルス感染率と蛍光抗体染色陽性プロトプラスト当りの平均ウイルス量は,AmbalemaではXanthiに比べ著しく低かった。一方,このプロトプラストを72時間培養すると,Ambalemaではウイルスの感染率がかなり増加するとともに,蛍光抗体染色陽性プロトプラスト当りの平均ウイルス量が約5倍に増加した。Xanthiでも蛍光抗体染色陽性プロトプラスト当りの平均ウイルス量の増加が認められたがそれは約2倍であり,Ambalemaに比べ低かった。AMD処理によりウイルス濃度の増加したAmbalemaの接種葉から分離したプロトプラストでは,ウイルスの感染率と蛍光抗体染色陽性プロトプラスト当りの平均ウイルス量が対照に比べ増加していることが認められた。一方,AmbalemaとXanthiの健全葉から分離したプロトプラストにTMVを接種した場合には,ウイルスの感染率は両品種でほとんど差がなく,ウイルスの増殖量もAmbalemaがXanthiよりやや低い傾向にあったが,その差は少なかった。以上の結果からAmbalemaの葉組織でTMVの増殖量が少ないのは,葉組織の細胞内でのウイルスの増殖が抑制されるため,個々の細胞でのウイルス濃度が低くなるとともに細胞間のウイルスの移行も遅れ,感染細胞の割合も少なくなるためと考えられた。しかし,プロトプラストでは,この葉組織細胞でのウイルスの増殖抑制作用はほとんど誘起されないと考えられた。
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