1. mulberry ring spot virus (MRSV)に感染しているクワ(滋賀県産)からMRSVとは別種の汁液伝染性のひも状ウイルスを分離し,その諸性質を試験した。
2. 本ウイルスは汁液接種により5科9種の植物に感染したが,
C. quinoaで鮮明なクザイク症状を示した以外は,大部分の植物で潜在感染であった。
3. 本ウイルスは3種類のアブラムシで伝搬されず,また
C. quinoaで種子伝染しなかった。粗汁液中の不活化限界は耐熱性(10分)55-65C,耐稀釈性1,000-10,000倍,耐保存性(20C)3-7日であった。
4. 感染した
C. quinoa葉から,四塩化炭素処理,分画遠心,庶糖密度勾配遠心によりウイルスを純化した。純化ウイルスの260nmと280nmの紫外線吸光度の比は260/280=1.12-1.19であった。
5. 純化ウイルスの形態は長さが約700nmのひも状であった。また
C. quinoaの病葉の超薄切片を電顕観察すると,細胞質中に散在する少数のひも状粒子が認められたが,細胞質封入体は認められなかった。
6. 本ウイルスはcarnation latent virus (CaLV)と遠い関係だが,血清学的に関係があることがわかった。
7. 純化ウイルスを健全なクワ(改良一の瀬)に汁液接種したところ,接種葉に不鮮明なchlorotic spotが生じたが,上葉では潜在的感染を起こした。
8. 以上の実験の結果から本ウイルスはCaLV groupに入るものと考えられ,クワ潜在ウイルス(mulberry latent virus)と命名することにした。
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