イネのいもち病抵抗性判定のため,穂孕期の個体を使つて,止葉次葉の葉鞘部に接種し,被害度Dを算出する方法を先に報じたが,F
2個体の検定,品種間差異の検定等に諸種の欠点を持つていた。例えば処理後の観察に時間がかかりすぎること,あるいは同一生育期にある個体を同時に入手し難いことなどである。これ等の欠点を少くするために,次に述べるような方法を,4つの実験にもとづいて提案した。
1. 本葉7葉以上穂孕期までのいづれの生育期にあるものも検定材料として使つてよい。
2. 但し,比較すべき検定材料は,現在展出中の葉を基準として,各接種部位の成熟度を整一にする。すなわち,展出葉葉身がその下の葉の1/3以下の時は,展出葉の2枚下の葉の葉鞘を,展出葉の葉身が下の葉の1/3以上の時は1枚下の葉の葉鞘を使う。
3. 筆者がさきに報じた被害度Dのかわりに,最高伸展度H.Dを測定値として各個体の抵抗性を測定する。
4. 1個体の最高伸展度H.Dとは次のようなものである。その個体上の侵入菌糸の伸展値の中,最高の値をゆう。
5. このH.Dによつて各個体の抵抗性の程度を次の4段階に大別する。
R(強抵抗性)……原則としてH.D 2以下。また,1葉鞘中大部分の附着器が2以下の値を示し,極くまれに(1あるいは2個)3を示す附着器のある場合。これを(3)で表現する。
M.R……H.D 3。この様な個体は一般的には強抵抗性に属すが,前者よりやや弱い。現在一般に使われている幼苗噴霧接種によつて判定するとRに判定される場合が多いが,時によるとS型の病斑を生ずる事がある。
M.S……H.D (4)あるいは(6)。1葉鞘中大部分の附着器が3以下で,1あるいは2個の付着器が,4あるいは6を示す場合である。幼苗噴霧接種の場合,時により,あるいは個人的判断の基準の違いによつて,Sと判定され,あるいはM,またはしばしばRとさえ判定される。
S(罹病性)……H.D 4以上。
以上の方法によると,観測に要する時間がD算出のための観測時間に比べて非常に少くなる。また個体検定の信頼度が高く,1品種の特性(抵抗性についての)を判定するのに3個体前後の検定で十分である。原則的には1品種1個体でよい。
以上の結果により,次の提案をした。
1. 菌型判定の場合,2, 3回の噴霧接種によつて,その結果の変異の大きい場合は葉鞘検定を利用すると明確にできる。
2. 噴霧接種のための環境整備の困難な所,例えば,熱帯地方で大型の低温接種室設置に困難な所などは,葉鞘検定法が有効である。
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