1. 甘蔗の煤病菌は本島に於て殆んど四季を通じて棉〓蟲に隨伴して發生し,其の菌叢上には子嚢胞子,分生胞子及びgemma状の厚膜胞子等の種々な胞子型が見られる。之等各胞子型を單一胞子から分離し,比較培養を行つた結果,何れも2種の胞子型を有する3種の黴に分つ事が出來た。之等各黴は甘蔗葉上に於て往々相混生して居るが又單獨に發生して固有の菌叢を形成して居る。即ち帶橄欖煤色の粉状,黒色天鵞絨状或は帶褐煤色薄膜状等を呈して居る。
2. 甘蔗煤病菌の胞子型は子嚢胞子型,分生胞子型及びgemma状の厚膜胞子型の3種に分たれ,分生胞子型は更にFumago型Caldariomyces型及びTriposporium型等に分たれ,各煤病菌によつて夫々1種宛形成される。Triposporium型の胞子を形成する煤病菌はHypocapnodium型の子嚢胞子を形成し,他の分生胞子型のものは子嚢胞子型が未だ明でないが何れもgemma状の厚膜胞子を形成する。斯るgemma状の厚膜胞子の發達分化して居る點が他の一般寄生菌類と相異して居る樣に思はれる。
3. 之等3種の煤病菌に就て發生状態及び形態を記載し,帶橄欖煤色粉状を呈する煤病菌はDematiaceaeの
Fumago vagans PERS. に同定され,帶褐煤色薄膜状を呈する煤病菌はCapnodiaceaeの
Hypocapnodium sp.とされ,更に黒色天鵞絨状を呈する煤病菌はStilbaceaeのCaldariomycesの新種と認め,
Caldariomyces fasciculatusと命名された。
4. 之等煤病菌は植物煎汁寒天及び合成培養基等の6種の培養基上に何れも發育し,夫々固有の菌叢を形成した。一般に
Fumago vagansは發育速で且つ良好,分生胞子の形成は旺盛であつた。
Caldariomyces fasciculatusは發育稍や遲いが概して良好で,分生胞子の形成も旺盛であつた。
Hypocapnodium sp.は發育甚だ緩慢で,分生胞子の形成は僅少であつた。
5. 之等煤病菌の發育と温度との關係は各菌によつて多少相異し,
Caldariomyces fasciculatus の發育に對する最適温度は25℃か或は之に近い温度で,最高温度は34℃と37℃との間に位し,
Fumago vagansの最適温度は前者より低く, 22℃か或は之に近い温度で,最高温度は31°と34℃との間に位して居る。
Hypocapnodium sp.の適温は22°-28℃である。之等3菌の發育に對する最低温度は何れも5℃ より稍低温に位する樣に思はれる。斯る實驗結果は自然の發生状態と可なり一致して居る。
6. 之等煤病菌の分生胞子或は菌絲の細片を蜂蜜5%及びペプトン2.5%の混合水溶液に加へ,懸留液として甘蔗葉に接種を行つた。其の結果,胞子或は菌絲を含む液の附着した葉面には自然の菌叢に可なり近似したものを夫々形成した。分生胞子は何れも形成されたが,子嚢胞子及びgemma 状の厚膜胞子は全く或は餘り形成されなかつた。
抄録全体を表示