コムギから黒穂病に対し抵抗性を異にする3品種を用い, 感染初期の土壌温度を異にした場合, それぞれの品種の発病様相に差異を生ずるかどうかを調べた。また感染初期の幼植物の切片を作つて鏡検し, 侵入の難易, 菌糸の進展度と発病様相との関係をしらべた。
1. 厚膜胞子を種子に接種し, 殺菌土に播種した後24日間, 土壌温度をそれぞれ5, 10, 15, 20, 25℃におき, 成熟後の発病様相を調査した。罹病性品種農林50号では10~20℃で発病株率98~99%, また発病株の大部分は主稈に発病がみられた。発病株についてみると発病分けつ茎率は96~98%であつた。25℃, 5℃では発病株率, 発病分けつ茎率いずれも10~20℃に比較し, 低かつた。中度抵抗性の農林61号では10~25℃で42~57%とかなりの発病株率を示したが, 主稈発病率はきわめて低く, ほとんどの株が分けつ茎のみに発病した。発病株について発病分けつ茎率は36~49%で農林50号より低かつた。5℃区は発病株率その他いずれも低かつた。抵抗性品種ユウヤケコムギでは全く発病がみられなかつた。以上のように供試3品種のいずれにおいても感染初期の土壌温度が発病様相に著しい影響を与えることはないことがわかつた。
2. 厚膜胞子を接種した種子を15℃の土壌に播種し, 14日後の子苗について感染状況を鏡検し, また1部は成熟後の発病調査を行なつた。その結果ユウヤケコムギでは表皮細胞膜の侵入点に形成される厚いカルスによつて侵入が阻止され, まれに侵入が行なわれても表皮細胞内容の変性, 菌糸の死滅により, 隣接細胞への侵入が起こらなかつた。農林50号では多くの場合, 菌糸は表皮細胞膜にカルスの形成なく侵入するが, カルスが形成され, その後の菌の進展が阻止される場合もあつた。農林61号では菌の侵入状況は農林50号とあまり異ならないが, 表皮細胞膜のカルス形成は農林50号にくらべ多かつた。
3. 成熟期の調査では発病株率は農林50号, 同61号, ユウヤケコムギでそれぞれ99, 63, 0%であつたが, 一方鏡検により子葉鞘柔組織内に菌糸のまん延している株率はそれぞれ100, 50, 0%で両者はほぼ平行した。また主稈発病株率は農林50号, 同61号, ユウヤケコムギでそれぞれ96, 9, 0%, 菌糸が子葉鞘柔組織を通り, 胚軸組織または分裂組織付近に達した株率はそれぞれ90, 25, 0%で, 平行的関係がみられた。以上のことから本病に対する品種の感染には, まず子葉鞘表皮細胞膜でのカルス形成, ついで侵入菌糸の進展度が大きな関係を有するものと考えられた。
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