1. 馬鹿苗病は稻作重要病害の一にして,その分布極めて廣く,稻作のある處,必ずその發生を見るものの如し。而して稻生育後半期,特に開花期前後の環境は病原菌分生胞子の發芽に影響する處多く,從つて本病の蔓延と密接なる關係を有す。
2. 本論文に於ては,稻馬鹿苗病菌大型分生胞子の發芽に及ぼす温度,空氣濕度,日光竝に各種菌類培養濾液の影響に關する著者等の實驗結果を記載せり。
3. 稻馬鹿苗病菌大型分生胞子の發芽に對する最適温度は28℃乃至30℃にして,限界温度はその範圍割合に廣く, 44℃より僅かに高き温度より, 8℃より可なり低き温度に及ぶものと見做されたり。
4. 稻馬鹿苗病菌大型分生胞子は水滴の存在せざる場合と雖も,關係濕度100%に近き高濕度の空氣中に於てよく發芽し得るものなり。然れども,水滴中の發芽に比し,乾燥胞子の發芽は著しく低率なり。高濕空氣中にて發芽せる乾燥胞子は發芽前既にその周圍に凝結水の形成を促し居たり。
5. 稻馬鹿苗病菌大型分生胞子の發芽竝に發芽管の伸長は,日光の存在によりて抑制せらるるものにして,暗區に於て明區の夫等に勝れり。
6. 稻馬鹿苗病菌大型分生胞子の發芽率に及ぼす無處理培養濾液の影響を見るに,同一菌の短期培養濾液は稍々促進作用を示したるも,培養期間の延長と共に,その作用不明となれり。これに反し,稻胡麻葉枯病菌竝に稻熱病菌培養濾液は共に前者より強き促進作用を示したり。
7. 稻馬鹿苗病菌大型分生胞子發芽管の伸長に及ぼす無處理培養濾液の影響を見るに,馬鹿苗病菌,稻胡麻葉枯病菌,稻熱病菌の培養濾液は何れも,短期培養に於て促進作用を示し,培養期間の延長と共に抑制作用に變る傾向あることを示したるも促進作用は馬鹿苗病菌に於て弱く,他2菌に於て強き傾向を示せり。
8. 濾液の熱處理により促進作用は毫も減少することなく,寧ろ増加の傾向を示したるも,素燒濾過管の通過により全般的に促進作用減退し,抑制作用増大の傾向に變ぜり。
9. 供試3菌培養濾液の馬鹿苗病菌大型分生胞子の發芽に對する促進竝に抑制作用と培養濾液のpH價竝に滲透壓の變化とは何等の關係なきが如し。
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