イネいもち病に対する
Bacillus subtilis IK-1080の生物防除エージェントとしての実用性を明らかにするため,本試験を行った.いもち病菌を拮抗微生物
B. subtilis IK-1080株とPSA平板上で対峙培養すると,菌糸の生育を著しく抑制した.菌濃度1.0×10
6, 5.0×10
7, 1.0×10
8, 5.0×10
8および1.0×10
9cfu/mlのIK-1080懸濁液にいもち病菌胞子を1.0×10
3個/mlになるように混濁させてセロファン上で発芽させると5.0×10
7cfu/mlで胞子の付着器形成が,また,1.0×10
8cfu/mlで発芽率が抑制され始めた.5.0×10
8cfu/mlでは付着器形成率と発芽率はそれぞれ11.2および62.3%と対照の56.4, 96.3%に比べ著しく低下した.前述と同じ菌濃度の懸濁液5mlを4.5葉期の品種コシヒカリの葉に散布した後,1.0×10
4個/mlに調整したいもち病菌の胞子懸濁液を噴霧接種すると菌濃度が5.0×10
7cfu/ml以上で葉いもちに対する有意な発病抑制効果が認められた.また,発病度の抑制割合と付着器形成の抑制率との間には高い相関関係(r=0.9374, p<0.01)が認められた.いもち病菌胞子の接種14日後に形成された葉いもち病斑にIK-1080を散布すると7日後の病斑長は13mmで
B. subtilisを散布しなかった対照区と差がなかった.一方,いもち病菌の接種前と接種14日後に2回散布すると病斑長は6mmとなり,病斑の伸長が顕著に抑制された.これらのことから,IK-1080を利用して葉いもちを防除するためには,病原菌が侵入する前に処理する必要があった.2000年に,山間地域のいもち病常発水田において,1.0×10
8cfu/mlに調整したIK-1080の懸濁液を出穂直前,出穂9日および18日後に散布したところ,対照の無処理区の穂いもちの発病度が29.7に対して,処理区では10.3となり,防除価も65.3と高い発病抑制効果が認められた.また,2001年に同じ水田で1.0×10
8cfu/mlと5.0×10
8cfu/mlのIK-1080懸濁液を出穂直前,出穂13および23日後の3回散布したところ,穂いもちの発病度は対照の無処理区が29.1に対し,それぞれの処理濃度で13.8, 7.7となり,防除価も52.5, 73.5と高く,いずれも発病抑制効果を示した.
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