ジャガイモ疫病の過敏感細胞死を抑制する各種の阻害剤が知られている。それらの阻害剤処理によるジャガイモ(リシリ品種)塊茎ディスク中のATPレベルの変動と,その細胞死に対する影響を検討した。作製3時間後(Fresh)および23時間後(Aged)の塊茎ディスク(厚さ0.5mm,直径10mm)に各種阻害剤を30分間処理した後,液体窒素で凍結し,真空凍結乾燥した組織からATPを過塩素酸で抽出し,ルシフェリンールシフェラーゼ法によって測定した。Agedディスクに阻害剤を処理しその直後から測定したところ, 2, 4-ジニトロフェノール(2, 4-DNP)0.5mM,アジ化ナトリウム(NaN
3) 2mM処理ディスクではATPレベルが低下し,ブラストサイジンS (BcS) 10ppm,
p-クロロマーキュリー安息香酸(PCMB)0.5mMおよび高分子デキストラン結合PCMB (PMDT) 1.39mg/ml処理ディスクでは低下しなかった。一方, Freshディスクに阻害剤を処理し, 20時間後にATPレベルを測定したところ, 2, 4-DNP処理ディスクでのみ減少し, NaN
3, BcSおよびPCMB処理では影響はなかった。これらの場合と同じ処理を行ったディスクに対して,処理20時間後に非親和性の疫病菌(
Phytophthora infestans)を接種した。BcS処理ディスクでは過敏感反応能の獲得が阻害され,過敏感細胞死も抑制されることが知られている。ところが, 2, 4-DNP, PCMB, PMDT処理でも過敏感細胞死が強く抑制され, NaN
3処理では余り抑制されなかった。以上の諸結果は, 2, 4-DNPおよびNaN
3はATPレベルを低下させることにより, PCMBとPMDTはATPレベルの低下のためでなく,他の原因により(たぶん宿主原形質膜のSH基に働きかけることにより),またBcSは過敏感反応能の獲得を阻害することにより,それぞれ過敏感細胞死を抑制している可能性を示唆している。
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