日本において60°C 10分間の温湯消毒技術が水稲種子の消毒方法として広く普及している.しかしながら,本技術の効果が化学合成種子消毒剤の効果よりも劣ることから,ばか苗病の発生が問題視されるようになった.近年,種子の籾含水率を10%以下にすると温湯消毒時の高温耐性が向上し,65°C 10分間の温湯消毒が可能となることが報告された.しかしながら,本技術の種子消毒としての効果は検証されていなかった.そこで,事前乾燥を取り入れた65°C 10分間の温湯消毒によってばか苗病,いもち病(苗いもち),苗立枯細菌病およびもみ枯細菌病(苗腐敗症)に対して種子消毒効果が向上するか検証した.自然感染種子を用いてばか苗病に対する効果を評価した結果,本技術は従来の60°C 10分間の温湯消毒よりも防除効果が向上する傾向が認められた.いもち病に対しても本技術は従来の60°C 10分間の温湯消毒および化学合成種子消毒剤よりも防除効果が向上する傾向が認められた.加えて,本技術は苗立枯細菌病およびもみ枯細菌病(苗腐敗症)に対しても従来法および銅含有種子消毒剤よりも防除効果が向上する傾向が認められた.これらの結果は,事前乾燥を取り入れた65°C 10分間の温湯消毒技術が従来法よりも実用的かつ効果のある種子消毒技術であることを示した.
本研究では,本病害の自然発病ほ場を含む2圃場で,4年かけて6回の試験を実施し,群馬県の秋冬作型においてシメコナゾールのネギ黒腐菌核病に対する発病抑制効果を検討した.施用時期や方法に加えて圃場や年次が発病にどのような影響を及ぼすのかを,一般化線形モデル(Generalized Linear Model:以下GLM)で解析した.本研究で構築したモデルでは,シメコナゾール粒剤の定植・土寄せ処理の回帰係数の推定値は参照とした無処理に対して-1.47であり,逸脱度分析の結果,発病を有意に抑制したことが明らかとなった(p=0.044).一方で土寄せ2回処理では,回帰係数の推定値は-1.10と,発病が減少する傾向がみられたものの,逸脱度分析の結果から有意な要因でないことが示された(p=0.255).これらのことから,シメコナゾール粒剤の定植・土寄せ処理が,ネギ黒腐菌核病抑制への効果的な処理方法であると考えられた.同様にGLMで処理方法について解析した結果,散布混和と地表面散布ではその効果に差がないことも示唆された.圃場が発病に及ぼす影響については,無処理を含むGLMでの解析によって,本研究で使用した2箇所の圃場,すなわち人工的に均一に汚染された圃場と自然に部分的に汚染された圃場の間で発病に及ぼす影響が異なっており,前者の方がより影響が強かったと推察された.他方,年次に関しては,モデルにどのようなデータを組み入れるかによって結果が変わり,さらに長期間の調査データが必要と思われた.このように本研究では,GLMによる解析からシメコナゾール粒剤の効果や処理方法に関する重要な情報を得ることができた.