夜間に相対湿度90%以上の状態が10時間以上継続し,しかもその間の平均気温15°C以上であった場合,その直後にトウモロコシすす紋病菌(Setosphaeria turcica)の分生子の飛散が観測された.分生子飛散後に再び,夜間に温暖・多湿状態になると,菌の侵入に好適な条件となり,2–3週間の潜伏期間後にすす紋病の病斑が急増した.
マルチラインの葉いもちにおけるレース頻度の変化は,理論モデル(Kiyosawa and Yabuki, 1976)で近似されるとの仮説を検証するため試験を行った.コシヒカリとその同質遺伝子系統の幼苗を用い,真性抵抗性の比率をPia:Pii:Pita-2:Piz=1:2:5:2とした混植区,Pik-s,Pia,Pii,Pik,Pik-m,Piz,Pita-2,Piz-t,Pibの等量混植区を設けた.伝染源のレース構成比を001.0:003.0:007.0:037.1:041.0=60:30:9:0.5:0.5とし,いもち病菌のレース頻度を世代別に調査した.いもち病菌の世代が進むに従い最も頻度の高いレースが交代しながら,4種混合区ではレース007.0,9種等量混合区ではレース037.1が優占化した.このレース頻度の実測値は理論値と同様な推移を示した.圃場試験や,ポット試験でも理論値と実測値のレース頻度は同様な推移を示し,マルチラインの葉いもちにおけるレース頻度の変化に,理論モデルが適合することが明らかとなった.
伊豆諸島において,高温期に発生するアシタバ疫病の病原菌はPhytophthora nicotianaeであることが確認されている一方で,低温期の本病害に関する知見は少ない.そこで2017年と2018年の2~6月にかけて,伊豆諸島各島より採取したアシタバ疫病菌12菌株においてその分類学的所属を検討した.これら分離菌株はいずれも,健全なアシタバ苗において原病徴と同様の症状を再現し,cox1遺伝子を用いた分子系統解析においてはPhytophthora taxon parsleyおよびPhytophthora sp. hybrid type 1と同一のクレードに属した.うち5菌株は厚壁胞子や不稔の卵胞子を形成するなどPhytophthora sp. hybrid type 1と類似した形態的特徴を示し,またタマネギに対する病原性を示した.以上のことから,本分離株をP. taxon parsleyとP. porri間の交雑種であるPhytophthora sp. hybrid type 1と同定する.本菌群によるアシタバへの病害は国内外で初報告である.
基腐病は種苗伝染するため,鹿児島県では,2018年に基腐病が確認されて以降,主要産地の苗床で基腐病が発生し,発病圃場が年々増加して問題になっている.
本研究では,まず,基腐病に対する塊根の貯蔵中の発病リスクについて,以下の2点を明らかにした.
①基腐病の発生圃場から株の状態で塊根を収穫して貯蔵すると,貯蔵中に発病が進展し,腐敗塊根が増加する.②基腐病の罹病塊根が貯蔵コンテナ内に1個でも混入すると,隣接する健全塊根の伝染源になる.
次に,基腐病の発生圃場から塊根を採取する場合に,発病リスクの少ない塊根を効率良く確保する技術について,以下の4点を明らかにした.
①塊根は,株基部と藷梗に基腐病の病徴がない株から,外観で無病徴のものを採取すると,貯蔵中の基腐病による腐敗が少なくなる,②また,殺菌剤で塊根の消毒を行う場合,貯蔵前に,洗浄,選別,塊根の切除調整および塊根の消毒を施した結果,貯蔵中の基腐病による腐敗に高い抑制効果が認められた,③基腐病菌の胞子懸濁液を温湯処理した結果,胞子の死滅温度は48°C・10分間と考えられた,④③の結果に基づき,基腐病の発生圃場から採取した塊根に48°C・40分間の蒸気と熱による温度処理を施したところ,萌芽能力も維持しつつ,貯蔵中の基腐病による腐敗に高い抑制効果が認められた.