1. クワ枝皮層組織にクワ枝枯性糸状菌病菌数種を付傷接種したところ,感染部に健全部や菌体には認められない抗菌物質が認められた。
2. 抗菌物質が誘導されるには,皮層組織に接種される胞子数が10∼10
2個/cm
2以上必要であり,10
3個/cm
2で充分であった。
3. 抗菌物質の蓄積は,胞子接種枝を5∼30Cの湿室に保つことによって得られた。皮層組織の単位面積当りの蓄積は,高温ほど速く,5Cでは45日以上,10, 15Cでは30∼40日,20∼30Cではほぼ20日でピークに達した。皮層組織の褐変化は20∼30Cで速く,ほぼ抗菌物質の蓄積速度と比例したが,5CではPAの蓄積が進んでも殆んど褐変はみられなかった。
4. 60C10分温湯処理枝では,接種菌の菌糸が繁茂し,抗菌物質の蓄積はみられなかった。
5. 抗菌物質の蓄積は,冬枝および夏枝でみられたが,6月初旬の新梢先端部では殆んどみられず,新梢先端部は罹病しやすかった。
6. 感染皮層部のアセトン抽出液は,植物および昆虫の病原糸状菌および細菌に抗菌作用を示した。クワ芽枯病菌の
F. solani f.sp.
mori F. lateritium f.sp.
moriおよび
F. roseumの3種については,病原力の強さと抗菌物質に対する耐性とはほぼ比例関係がみられた。
7. 抗菌物質は7種の糸状菌培養液によって誘導され,誘導効果は
B. leersiaeおよび
S. sclerotiorumの培養液で顕著であった。誘導を促す物質は熱安定で透析性のものであった。
8. 抗菌性物質は,感染皮層組織からメタノール,アセトン,酢酸エチル,エチルエーテルによって抽出され,水,n-ヘキサン,四塩化炭素では抽出されない熱安定性で透析性のもので,シリカゲルTLCのエチルエーテル展開におけるRf値は0.20および0.63であった。
9. 以上のことから,当該抗菌物質がクワのファイトアレキシンであることを論じ,またRf値0.63に相当するものは高杉ら(1978)によってMoracinAおびよBと命名されたことを述べた。
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