本報告は抵抗性品種を利用してイネ白葉枯病を防除するための基礎資料を得るため, 1977年と1979年に全国から本病の罹病葉を採集し,分離した菌株の病原性検定を行い,その結果を述べたものである。
1. 453分離菌のうちI群菌266 (58.7%), II群菌141 (31.1%), III群菌41 (9.1%), IV群菌5 (1.1%)で, V群菌は見出されなかった。各菌系の分離率に関する2か年の傾向は一致し,年次による差異はみられなかった。
2. 分離菌のすべてがI群菌で,他の菌系が見出されなかったのは青森,石川,三重,奈良,鳥取の5県であった。II群菌だけが分離された都府県は福島,東京,大阪,香川であり, II群菌分離率が高かった県は栃木,埼玉,新潟,福井,愛知,島根,山口,愛媛,高知および鹿児島を除く九州各県であった。
3. 本試験でII群菌が新たに8府県で分離され,その分布範囲は拡大し,北上している傾向がみられた。III群菌は前回の調査と同様長野以西の8県から分離され,とくに熊本県本渡市,鹿児島県川内市および長野県下伊郡高森町,同県飯田市ではIII群菌が多く分布していた。
4. IV群菌は前回の調査とまったく同様,長崎県と沖縄県から5菌株分離された。長崎県ではI, II, III群菌と同等にIV群菌も優勢に分布しており,菌系の多様化が認められた。
5. II群菌, III群菌およびIV群菌とも多くは金南風群品種から分離され,寄主品種の抵抗性と各菌系の寄生性との関係は明らかでなかった。
6. 菌系分布に関する以上の結果から,既知の質的抵抗性遺伝子の利用だけで本病を防除することはもはや困難であり,今後は各菌系に特異性のない量的抵抗性を導入した抵抗性品種育成の必要性を指摘した。
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