本報告はイネ小球菌核病菌の菌核形成に関与する物質について実験した結果である。
1) 本菌は継代培養によつて菌核形成能を喪失するものが多い。この喪失した能力は稲体中に存在する物質によつて回復する。
2) 稲体中の関与物質は稲体各部に存在するが, 出穂期以後, その存在が明瞭である。その物質は水, アルコール, アセトン, エーテル, 塩酸, 硫酸, 水酸化ナトリウムによつて溶出されない。このような物質の一つに核酸がある。
3) 菌核形成能を喪失した菌株はRNAによつて, その能力が同復する。RNAの有効濃度は4
mg/l∼8
mg/lの範囲である。DNAでは回復しない。RNA添加によつて菌糸のRNA含量は増加する。
4) RNAにより回復した菌核形成能力は一時的なものであり, 2回以上移植すると再び形成能を失つた。
5) RNAは菌糸の蛋白質組成を変化させる。すなわち滬紙電気泳動法によつて調べた結果, 無添加区の菌糸にみられる負方向に泳動する蛋白質が消失し, 泳動型は菌核のそれに非常によく似てくる。
6) 菌糸の脂質含量もRNAの添加によつて増加する。リパーゼ活性にも同様の変化が見られる。菌核および菌核形成母菌糸には脂質が非常に増加しているので, 栄養菌糸に見られる脂質の増加は菌核形成への準備行為と考えられる。
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